第十八幕 想い合う

 その日は雨上がりの快晴。葬式か結婚式があれば華やぐだろう。いつものように店番をしていると、店の暖簾を覗きこむ顔がひとつ……ふたつ。

「いらっしゃい、今日は空いてるよぉ」

 そう声をかけると、薄着の女の子二人が入ってきた。一人は綺麗目なカジュアル、もう一人はコテコテのエスニックな装いだ。……もしかして。

「君もしかして、この間プレゼント買いに来てくれた子かな?」

「はい!今日は友達も連れてきました!」

 元気なお返事。連れられてきた子も、こんにちは! と挨拶した後、興味津々の様子で店内を見ている。

「今日、日替わりケーキってなんですか?」

「今日はチョコテリーヌのホイップ添えだよ」

 カフェオレとケーキのオーダーをもらい、準備を始めた。二人は用意が済むまで店内を見学することにしたらしい。


 傍から見ていても、とても仲が良いことが見てとれた。息はぴったり、おまけに相手の好きなものを熟知しているようで、「これはどう?あれは?」などとお互いに言いあっている。サンダルを履いた涼しげな足首には、あの日のアンクレット。お揃いの飾りがよく似合っていた。

「ケーキとカフェオレ、お待ちどうさま」

 そう声をかけると、嬉しそうにカウンター席に着く。

「『ありがとうございまーす』」

 ぼくにお礼を言って、ケーキを目の前に急いでスマホで写真を撮る。その後、二人で顔を見合わせて微笑んでいた。その視線の温度が、なんだか甘やかな恋の微熱のようで。


 ケーキを一口頬張った二人の歓声が、狭めの店内に響く。若いっていいなぁ。周りにも元気を振りまく存在のような気がして眩しい。ぼくもそんな風でありたいとはいつも思っているけれど、やっぱ年齢が違うとパワーも違うなぁと、おじさんは舌を巻くばかりだ。

 若い二人の会話を邪魔しないよう、店内の在庫補充に励む。明るい声が途切れることなく続き、心を楽しませてくれる。女の子というのは、本当に喋るのが好きなんだな。いいや、違う……喋ること自体が好きというよりは、お互いに個人的な関心や愛着を持ち持たれることが重要なのだろう。特段女の子に限った話ではなく、人間というのは意外と皆そういうのが好きで、重要視するらしい。ぼくには少し、難しい世界だ。


 そうこうしている内、「ごちそうさま」の声が聞こえたのでカウンターへ戻った。飲食分は先に代金を払ってしまって、彼女らはまた店内を見て回るらしい。やっぱりお互いが好きなものばかり見ていて、微笑ましい。

 見た目的には正反対な二人だ。性格も、カジュアルちゃんは真面目な印象なのに対して、エスニックちゃんは奔放な印象。好みも正反対なようだ。なのに、なぜこんなに気が合うんだろう?

「正反対に見えるけど、本当に仲良しなんだねぇ」

 いけない、思ったことをそのまま口に出してしまった。ぼくの悪癖だ。けれど彼女たちはちっとも怒った様子ではなく、顔を見合わせて笑うのみだった。

「なんだか妙に気が合うんですよね」

「確かに正反対だけど、お互い影響し合ってるからかも! おすすめしてもらったアルバム最高だったし、こっちが貸した漫画ハマってくれたし」

 なるほどねぇ。素敵な関係だ。そう言って頷くと、二人とも顔がほころんだ。密やかな花のような、鮮やかな飛翔のような微笑みを浮かべている。

 またしばらくすると、二人はそれぞれレジの方に品物を持ってやってきた。カジュアルちゃんは甘い花の香りのお香と、香立てのセット。エスニックちゃんは木製のトレイ。

「お泊りの夜に焚くんです」

「遊び来た時おやつ出す用!」

それぞれ、二人で楽しむものを見つけられたようだ。ぼくも心が温かい。

「はい、毎度あり。ありがとうねぇ!」

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