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七年生になると、周囲の空気ががらりと変わった。
上級生の仲間入りとなったこともあるし、(七年生から監督生となる資格が得られる)制服のジャケットも大人と変わらないデザインになる。子供の頃のようなボウタイではなくネクタイになり、もちろん半ズボンでもない。授業は男女に分かれることが多くなり、クラスの中でも婚約が決まったり、家業を継ぐために学校を退学する者も出てくる。
ロジェの場合は家業のことも婚約もひときわ早かったが、貴族位を持つ子息子女たちは七年生になる頃から将来の道程が決まる者が多いのだ。
「君は目立つのさ」
選択授業が一緒になったカロルが教科書を肘の下敷きにして笑う。今から授業だが寝る気らしい。
「その年でもう侯爵家を継いで、婚約者は聖女さまだ。目立つなという方が無理だ」
「爵位はともかく、婚約者がいる僕に粉をかける意味が分からないよ」
「欲しいと思ったら止まらないのが恋煩いなんだとさ。姉が言ってた」
カロルの姉は恋多き魔女として知られている。大体三人ぐらいは常に恋人がいるという。
「中身の問題じゃないのさ。君の外見の問題なんだ。クラスが同じでもなければ、君の性格なんて分からないからね」
寄宿学校の生徒は生活の大半を共に過ごすため、長年の同級生はほとんど兄弟のようなものになる。もちろん外部生も入ってくるが、少なくとも同級生で顔と名前が一致しない生徒はいない。
反対にクラスや学年が違えば、委員会や部活動で一緒にならない限り接点は持てない。家業で忙しいロジェはそのどちらも参加していないから、外見──身分や肩書きで判断されやすい。
「ロジェにとって注目を集めることはむしろ自然なことなんだろう。侯爵家の当主が無視されることなんて、普通はありえないから」
ロジェの隣で優等生らしく教科書を整えていたエルネストが静かに微笑んだ。
確かに当主が家に帰れば何くれと仕事があるし、良くも悪くも無視されるということはまず無い。
「結婚するまでは自由にしたらいいんじゃないかな。聖女さまはそのために通学を勧めてくださったんだろう?」
エルネストの言葉は的を射ていたが、ロジェの中のマリは少し違うように感じられた。それはきっと、ロジェの中でマリは聖女という人形ではなく、血肉を持った人間であるからだろう。それはロジェの外見で手紙を渡してくる人間と、そうではない人間の違いであるようにも思えた。
しかしマリのことを友人に話す気にもなれなくて、隣で居眠りを始めた変人を起こすことにした。
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