第3話 長生きなドワーフ族
「ちょっとしたパレードだったぜ」
そう笑いながらいうフェッロの顔は皺だらけだった。
ジェラートがフェッロと会うのは100年ぶりくらいのことだ。
以前は頻繁に会うことが多かったが、会っても昔話以外はすることもなく、次第に足が遠のき、ふたりは会わなくなっていた。
フェッロはドワーフ族の戦士であった。ドワーフ族も長寿種族であることは確かだが、エルフ族ほどの長寿ではない。
真っ白になってしまった顎髭を撫でながら話すフェッロの姿を見て、歳を取るというのは残酷なことなのだとジェラートは思っていた。
フェッロがパレードといったのは、若き王が馬車でこの町へとやってきた時のことである。若き王は、この町のドワーフ族の鍛冶屋によって鍛え上げられた伝説の剣を受け取っていた。
伝説の剣。それはドワーフ族だけが知る技法で作られた、退魔の剣であった。その剣は不思議な力が宿っており、魔族に対して絶大な力を発揮し、魔王を封印することもできる剣であった。ただし、その剣は勇者チェーロにしか扱うことができず、チェーロ以外の者がその剣を使用すると手がただれ、全身が異様な痒みに襲われてしまうというものであった。なぜ、チェーロだけが大丈夫なのかは300年経った今でもわかっていない。
伝説の剣が魔王を封印できる期限は300年と決まっていた。伝説の剣を精製するために使われている特殊な鉱石から作り出される金属が300年経つと劣化してしまうのが原因であるとされている。劣化した伝説の剣は朽ち果ててしまい、その力も失われる。そして、封印されていた魔王がよみがえるというわけだ。
前回、300年前にチェーロが魔王を倒して伝説の剣の力で魔王を封印した際、フェッロは戦士として、その場に立ち会っていた。
「あれから、もう300年も経つのか」
痩せ細った体となったフェッロは、遠くを見るような目をしながら言う。
あの頃のフェッロの背丈は小さかったものの、筋骨隆々な身体をしており、巨大なハンマーを振り回して魔族どもをやっつけていた。
「そんな風にしみじみと言うなよ、フェッロ。ジジくさい」
「仕方がないだろ、おれはもうジジイなんだよ。お前はいつまで経っても小娘みたいな見た目でいいよな」
「ふん。何がいいものか。見た目で判断するような連中からは、ガキ扱いされて面倒だよ」
「確かに、それはあるな。中身は400歳以上のババアだっていうのにな」
「ババアは余計だよ」
そうジェラートが言うと、フェッロはゲラゲラと笑って見せた。
「そういえば、あんたの弟子はどうした」
「ああ、いるぜ。すでに王様には挨拶を済ませてある」
「そうか。期待していいんだろうな」
「当たり前だ。誰の弟子だと思っているんだ」
「すまない。いらぬ心配だったね」
「ああ。……ちょっと、疲れたな。ひさしぶりに話せて、楽しかったぜ、ジェラート」
「わたしもだ」
「お前たちがまた魔王を封印して帰ってきた時には、色々と土産話を期待しているよ」
フェッロはそう言うと、ゴホゴホと咳をしながらベッドへ横になった。
少し話しすぎたようだ。フェッロの顔には疲労感が漂っている。
「じゃあ、行ってくるよ」
「ああ」
ジェラートはフェッロの家を後にした。
町の広場には若き王の乗ってきた馬車が止まっていた。
馬車の中には王の姿は無く、どこかへ行っているようだった。
ジェラートは馬車の脇を素通りして、その近くにある鍛冶屋に向かうために路地を曲がった。
その時だった。急に岩のような大きなものに身体がぶつかった。
ジェラートの身体は大きく弾かれて、石畳の上に転びそうになる。
「ごめん、大丈夫?」
咄嗟に出てきた手はジェラートの身体を支え、ジェラートが倒れるのを防いでくれた。
そこにいたのは体の大きな若者だった。背中には大きなハンマーを背負っている。
ジェラートにはそのハンマーに見覚えがあった。
「フォルテか」
「えっ、そうだけど。なんで、オイラのことを知っているんだい」
「わたしは、ジェラートだよ」
「え……ええっ!」
フォルテは驚きの声を上げる。
フェッロのヤツ、わたしのことをどのように伝えていたんだ。ジェラートは心の中でフェッロのことを罵った。
「伝説の魔法使いって言われているジェラートさんが、オイラよりも若いだなんて……」
確かにフォルテの言うように、見た目はジェラートの方が若く見えた。ジェラートの姿はどこからどうみても小娘なのである。だが、実年齢でいえば、ジェラートはフォルテよりも400歳以上は年上だろう。
そのフォルテの言葉に、ジェラートは少しだけ笑って見せた。
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