第006話 「縮地跳空」
(アイザック視点)
縮地跳空は空中を駆ける奥義だ。今朝はそれを修練していたんだが・・・・・・拙(まず)い事になった。
空を駆けていたロジャーが墜落した。遠く上空から、バランスを崩して落ちていくのが見えたんだ。
「ロジャァァァァアアアアッッ!」
俺はロジャーの元に走る。その間、自分を責めた。
気を抜いていた。弟子に気を抜くなとあれほど言っておきながら、俺は気を抜いたんだ。
上空なら確かに障害物は無いなどと、完全に忘れていた。
鳥だ。
ロジャーに鳥に注意するよう伝え忘れた。
大型の鳥には縄張り意識を持つものもあり、稀にだが上空で襲い掛かってくる事もある。
俺の場合は障壁を張ってるから平気だ。だがロジャーにはまだ出来ないから、硬気功で代用させてあった。
縮地跳空は縮地よりも速度が乗って加速する。ほんの数秒よそ見をしただけでもこんな事故は起こり得る。
鳥と衝突する衝撃は凄まじい。無論鳥も足を前に出して衝撃を抑えただろうが、その勢いは殺しきれたものじゃないだろう。
「オイッ!大丈夫かロジャー!」
ロジャーが上空から落下した地点に着いた。地面に激突したロジャーが、呻き声を上げて苦し気に横たわっている。
俺は気が動転したが、とにかくロジャーを抱き起して頬を叩いた。
「ロジャー!死んでんじゃねえ!ぶっ殺すぞコラッ!目を開けろッ!」
「うう・・・・・・やめ・・・・・・死・・・・・・」
ロジャーが苦し気に呻いた。
良ぉーし!即死は免れてる!不幸中の幸いだ!
「待ってろ!今、薬を持ってきてやるからな!」
俺はひとっ飛びで庵まで戻った。俺の使っているのは縮地跳空の上位派生技だから、速さが段違いだ。庵まで一瞬で移動出来る。
「どこだったか・・・・・・あった!これだ!」
庵に入った俺は、薬箱から神仙丹の薬袋をひっつかんでロジャーの元へとまた飛んだ。
神仙丹はある癒し手の錬金術師に作らせた秘薬で、あらゆる傷をたちどころに治す魔法の効果がある。欠点は非常に高価な事だ。
あ、考えてみたらツケで買って代金をまだ払ってねえ。
まあ、それは今どうでもいいわ。
今思えば大怪我をするかも知れない修練を、この薬を持たず始めるようになったのは慢心だ。最近は上手くいく事が多くて油断してたな。
「死ぬなよロジャー、待ってろ!」
焦燥感に苛まれながらロジャーの元に飛んだ俺は、急いで神仙丹を取り出した。
「薬だ。飲め」
丸薬をロジャーの口に放り込んで、竹の水筒で水を流し込む。
「ガハッ!ゴホゴホッ!」
あっ!いきなりやったからむせて吐き出しやがった!クソッ!飲み込めオラッ!
俺は地面に落ちた丸薬をもう一度ロジャーの口へ入れると、今度は注意してから水を飲ませた。
「高ぇ薬なんだぞ!吐いてんじゃねえ!死にたくなければ飲み込め!」
ロジャーはこれ以上無い苦し気な表情をして、嫌そうに薬を飲み下した。
そうしてしばらくするとすぐに顔色が良くなり、うめき声も上げなくなった。
・・・・・・取りあえずは落ち着いたか。
だが、これだけで完治は無理だろう。いくら神仙丹が強力な回復効果を持つとはいえ、身体中が骨折しているのを全部治すとなると即効とはいかねぇはずだ。
「待ってろ、癒し手を連れてくる。ここを動くなよ」
俺は癒し手の居る村に向けて即座に飛び立った。
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仙術流派奥義『縮地跳空』
縮地から派生した奥義。
虚空に魔力場を作り出し、これを蹴る事で空中を駆ける奥義。魔力場は足下に生成され一瞬で消えてしまう為、その場に立って留まる事はできない。
常に駆け続ける技の性質上、降下時は階段を全速力で駆けているような状態となる。危険な為あまり一気に降りようとしてはならない。
無事に着地するには相当の修練を要する。要脚下印。
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