巨人の神

 ある島に突然、石でできた巨人が現れた。その巨人は大きな手をかざしてイメージすることによって、地面の形を自由自在に変えることができた。


 島の人々は石の巨人を怖がって近寄ることはなかった。毎日巨人に怯えては姿を見て逃げ去った。


 ある時、島に大きな災害が起こった。体は硬く頑丈な巨人も、心は石のように冷たく硬くはなかった。


 島に津波が押し寄せ、島の人々が最後を覚悟した時、巨人が海のほうへ歩いていくのが見えた。巨人は地面を変形させて津波を止めようとイメージを起こす。巨人が海岸に向かって手をかざすと、たちまち砂浜は壁となって迫り上がった。しかし津波の大きさ、凶暴さは巨人のイメージを軽く超えてしまった。


 波は砂浜をジャンプ台として利用して、島に上空から襲いかかった。島への被害は甚大だった。家は流され、農作物は全てだめになった。また、海の塩で植物を育てられない土地になってしまった。生き残った島の人々はあの巨人が津波を操作して仕向けたのだ、と騒ぎ立てた。


「あの巨人を倒せ!」


「島の仇を!」


「この悪魔め!」


 島の人々は石弓や剣を構えて巨人に挑んだが、その体は石どころではなく鋼のように硬かった。ついに倒すことは諦め、どこかへ埋めてしまう算段を立てた。その間、巨人は一歩も動かず手出しもしなかった。


 石の巨人は助けようとしたことを伝えるすべもなく、そのまま山の奥に埋められてしまった。しかし、島の中で一人の少年だけが巨人の本当の心を理解していた。


 山奥にある巨人が埋められた場所まで向かうと、その上に祠を建てて祈った。


「哀れな島の人たちをどうか許してください。恐怖で何も見えなくなっているのです。どうか……お願いします」


 少年の祈りは毎日続いた。雨の日も風の日も、青年になっても年老いても。


 やがてあの日の少年は最後の祈りを終えて亡くなった。山奥には祠だけが残った。


 それから長い年月が過ぎ、この島は神の島と呼ばれるようになっていた。津波が起きれば地面が迫り上がって波を防ぎ、水不足に陥った時には水が貯まるように地形を変えた。


 ある時一人の少年が山奥で遊んでいたところ、一つの祠を見つけた。それを大人たちに伝えると、そこには神が宿っている、と騒いだ。


 少年から話を聞くとすぐさま大人数で祠へ向かった。苔にまみれてすっかりぼろぼろになった祠を見ると、祠を綺麗に掃除して周りの草を刈り、地面を整え、お供え物を置く場所まで確保した。


 島の人々は祠に祈ることを毎日の行事とした。それから島は豊作に恵まれて、地下を掘れば温泉が湧いた。やがて島は豊かになって人口もどんどん増えて発展していった。


 島の人々は今も祠の神を崇めて幸せに暮らしている。


 祠には幼い字でこう彫られてあった。


——巨人の神ここに眠る——

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5分で読める!気まぐれショートショート ちーそに @Ryu111127

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