雪国のトナカイ
視界が全て真っ白になるような吹雪の中、ある一頭のトナカイはひたむきに走り続けていた。それが今自分にできる唯一のことだ、とでも言うようにその目は吹雪の遥か先を真っ直ぐに見つめている。
時速五十キロで走るトナカイは自らに降り積もる雪をその健脚とスピードで次々と払い落としていく。
巨大な木の実がその頭に落ちてこようとも気にする様子は無い。
立ちはだかった倒木は頭を地面すれすれにまで下げてその自慢の角で弾き飛ばした。少しだけ角にひびが入ったが、相手の木は真っ二つに折れた。構わずトナカイは走る。
何かに追われているのか、自身が追っているのか、何かに間に合いそうに無いのか誰にもわからない。雪国の人々はそんなトナカイを毎日見かけた。
やがて、トナカイの走りは人々の注目の的となった。その勇敢な走りを見ては壮絶さに息を呑み、もう少しのところで肺が凍てつきそうになった。極寒の雪国で人々の心に燃え盛るような火を付けたのはトナカイの走りだった。
トナカイの走りには不可能なことなど何も無いように思えた。ひたむきに走り続ける彼女を誰が否定できるだろう。
今日もトナカイは走り続ける。神をも頷かせる豪壮な走りを。
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