アンドロイド
「やあ、エリー。太陽系外探索に行ってから久しいな」
「そうね、久しぶり。あれは最悪の探索だったわ、かなりキツかった」
「なにしろ俺とエリー以外の十五人は全員死んだ。それに十五人中十五人が実はアンドロイドでしたって、気が狂わなかっただけ褒めてもらいたいね。国はこれを知ってたのか?」
「もちろんよ。旧型から最新型までアンドロイドを作ったのは国が抱えてる製造部よ。旧型何体、新型何体、人間何体って全て把握しているはずだわ」
「なぜ知らせないんだ」
「知らないわよ。政府の考えることなんていつもわからないわ」
ダーンズカフェの二階、汚染された海の見える席に浮遊型のアンドロイドが足音を立てずに注文したコーヒーを運んできた。一度、地面と胴体の間に足を入れてみたが何も起こらなかった。どういう原理で浮いているのかはわからない。
浮遊型は古い機体で未来的な見た目をしているため人気を博していたが、燃費が悪すぎるという理由で今ではあまり見かけなくなった。
二足歩行の最新型アンドロイドが普及して、人間とアンドロイドの差はほとんど無くなった。人工の肉体に機械の心臓と脳を埋め込んでいる。見た目では全く人間と変わらない。
「エリー。君はアンドロイドじゃないだろうな」
「私は人間よ、たぶんね。これまでの記憶もちゃんとあるもの」
「たぶん……か。それはよかった、君が死んだ時に渡されるのが機械心臓じゃなくて遺骨であることを願うよ」
六十二回目の太陽系外探索でエリーの乗る宇宙バギーが横転して爆発した。破片の中から取り出されたのは機械心臓だった。
彼の手の中で機械心臓は鼓動を続けている。送る血液がもう無いことに気づかずに。心臓の真ん中にはエリーと刻印されていた。
「……なにがエリーだ。機械のくせに。ロボットはロボットらしく番号でも付けておけばいいんだ、誰も悲しまないように」
彼は仲間の心臓を通りかかった職員に渡した。
「この忌々しい心臓もどきの電源を切ってどこかへ放っておけ!」
彼は一人歩き出した。目からは涙が止まらない。そのまま佇んで子供のように泣くわけにはいかず、誰も居なかった武器庫へ入って座り込んだ。
「……どうせ俺もロボットなんだろう? 仲間が一人残らずそうであったように。薄々気づいていた、可能性を考えたくなかったんだ」
視線を落とすとそこに対戦車爆弾が置いてあった。彼はそれを手に取るとスイッチに手をかけた。
「アンドロイドにも死後の世界はあるだろうか。みんなに会えたらいいな、また馬鹿な話でも聞いてやろう」
スイッチを押すと凄まじい轟音が鳴り響いて彼は飛び散った。生身の心臓はそのまま鼓動を止めた。
「最後の人間が死亡しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます