こころのありか

 広大な砂漠の真ん中に二つの対立した国があった。それぞれオアシスを拠点にして立国したため、よく目をこらすと敵国の人間がかろうじて見えるほどに距離が近くなってしまった。


 一つの国はオリシア。資源と兵力の多さで敵国に攻め込んでいる血気盛んな国である。


 もう一つの国はシアベル。初めに拠点にしたオアシスが小さかったために資源も人の数もあまり豊富ではなかった。しかし、シアベルの人間には少しばかり特別な知識があった。


 どこで手に入れたか知れないその知識は砂漠の砂とオアシスの水によって巨大なゴーレムを作り出せるというものだった。


 そのゴーレムは砂と水以外にあと一つだけ物質を混ぜ込むとその性質を合わせ持つことができた。


 鉄を混ぜるとより強固なゴーレムに、油を混ぜると柔軟性が増した。そんな中、ゴーレムの製作中に一輪の花を投げ込んだ者がいた。そのゴーレムは花の色を取り込み、オレンジ色のゴーレムが誕生した。……それ以外は何の変化もなかったという。


 オレンジのゴーレムは失敗作として雑に扱われ、一度も敵が攻めてきていない辺境の地へ一人配置されていた。



 ある時、オリシアの少女が冒険に出た。もちろん皆で送り出したわけではない。この国にそんな無謀なことをよしとする人はいないだろう。


 少女は飲み水と食料、そしてお気に入りの花を一輪リュックサックに入れて歩き出した。冒険といっても二つの国以外にあるのは鉱山か油田くらいだ。行くとしたらシアベルになる。


 少女からすると長い道のりを歩く。少女の目的は誰にもわからない。ただ探検したかったのか、それとも戦争をやめるように諭しに行ったのか……。


 少女が辿り着いた先はまさに、辺境の地であるオレンジのゴーレムが居る場所だった。ドシンドシンと地響きのような音が聞こえてきた。辺りを見回すとあのゴーレムが少女に向かって歩いてきている。しかし、少女は呑気にも笑って同じように歩み寄っていく。


 ついに二人が対峙した時、しばらくの間砂漠の風の音と砂が転がる音だけが辺りに鳴った。ゴーレムは製作者に指示された通り動く。大きなオレンジ色の右腕を振り上げると、少女に向かって無機質に振り下ろした。


 少女はギリギリのところでかわすとゴーレムに怒った。


「危ないでしょ! 何考えてるの、乱暴なことはやめて! オレンジでかわいいと思って近づいてあげたのに!」

 

 そう言うとお気に入りの一輪の花をリュックから取り出し、ゴーレムの腕の継ぎ目に刺した。


 ゴーレムは目を丸くしてその花を見つめると左腕で優しく引き抜いて胸の近くの継ぎ目にブローチのように刺し直した。


 「お気に入りだけどあげる。なかなか似合ってるじゃない」


 ゴーレムはリュックの中身をちらっと覗くと、飲み水も食料もからっぽになっているのを理解して少女を両手で傷つけないように掬い上げた。そしてゆっくりと少女が来た方角へと歩き出した。


「ちょっと何してるの! 私はシアベルに行くのよ!」


 力いっぱい逃れようとするものの、ゴーレムには全く効果が無かった。


 砂漠には少女の不満を叫ぶ声と優しい地響きだけが鳴っていた。

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