下獄 嬢
一日で五キロは痩せた気がする。そんな気怠さを抱えながら、俺は校門を出た。
不思議なもので、自分の帰る家も、その道順も知っている。近道もわかるし、なんなら街のどこに何があるのかも大体はわかる。まぁ、元がゲームなわけだし、そういうもんなんだろう。
「ここ曲がると公園なんだっけな」
下校時刻はとうに過ぎ、辺りは微かに暗くなっている。電灯が点滅した後明るくなり、公園の中がよく見えるようになった。
「や、やめて下さい!」
野太い声が聞こえ公園内を見れば、どう見ても背丈がニメートルを越えた体躯のいい野郎が、俺と背丈も変わらない野郎どもに囲まれていた。
「やめろだってよー!」
「やめて下さいー! あははは!」
周囲を囲む野郎はどう見てもモブだし、てことはあの巨大な奴は攻略キャラなのか? 髪ピンクだし、まぁモブ顔はしてないが。どう考えても今まで会った奴らより、イケてる顔をしていない。
「やめて! やめて下さい!」
「早く確認しようぜ! 本当についてるのか!」
「ま、ついててもついてなくても、こんだけ上等なら関係ないよな!」
上、等? いやいや、ごついんだから、どう見てもついてんだろうが! 胸板もしっかりしてるし! お前らモブより、余程男らしい体つきをしてるって!
「いやぁ!」
野太い悲鳴が上がったのを聞いて、俺はいてもたってもいられず、大股で集団に近づいていく。
「おい」
声をかけたはいいものの、そこでハタと俺は気づく。三対一、だよな。俺は牧地が言っていたように帰宅部であり、運動の“う”の字すらやってこなかった人間だ。
かといって、あの女神の言い様だと、こういった時に役立つ能力を与えられたかといえば、そんなことは絶対にないだろう。
「と、とにかく、その子……、いや野郎? いやわからんが、離れろ!」
どこぞの主人公よろしく威勢よく言ってみる。が、モブたちは首を傾げたまま固まっている。
「なんだ? こいつ」
「仲間に入れてほしいならそう言えっつーの」
何度も言うが、俺は男に興味などない。だからといって、見知らぬフリをするほど薄情でもない。さてどうするかと悩んでいると、囲まれたままの巨大男が「御竿先輩!」と俺の名前を嬉しそうに呼んだ。
「は? え、なんで名前」
名前を知っているのか問い詰めるより早く、俺の名前を聞いたモブたちが明らかに焦りだした。
「お、おい御竿って……」
「まじかよ、あの御竿か?」
「やべぇって。早くずらかろうぜ!」
何がどうなっているのかわからないが、モブたちは俺の名前を聞いた途端に逃げてしまった。何? まじ御竿護何者なん?
とりあえず、落ちたままの鞄を拾って巨大男に渡してやる。奴は嬉しそうに笑うと、
「あの、ありがとうございました! ウチ、
「あ、あぁ、うん、まぁ……」
自分よりも遥かに背の高い男(下獄だったか)が、両手に鞄を抱える姿は、なんとも言えぬものがある。それに圧倒されつつも返事をすれば、下獄は「本物だぁ」と顔を輝かせてから、すごい勢いで頭を下げてきた。
「本当にありがとうございました! また今度お礼させてください!」
「う、うん。気をつけて帰れよ……?」
「はい!」
下獄は踵を返して走り出し「うわぁ!」と転びそうになりながらも公園から出ていった。
まさか、あれも攻略キャラ、なのか? 嘘やろ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます