屹立 壱
放課後になる頃には、俺の気力も体力も削られていた。あーでもなんだっけ、生徒会があるんだっけ。
自分で立候補したわけでもない生徒会だが、決まったものは仕方がない。これもクリアするために必要なことかもしれないし、俺はダルい身体を引きずって、教えられた四階にある生徒会室へ向かった。
「なんつーご立派な生徒会室だこと……」
よくある豪華な生徒会室の扉。これはあれだ、学校を牛耳ってるのは生徒会とかいうやつだ。
少しビビり気味に俺は扉をノックした。
「入りたまえ」
うわぁ、イケてる声だな、おい。モブ声でなさそうだし、これは恐らく生徒会長で、しかも攻略対象っぽい。もちろん俺には無関係である。
「失礼しまーす」
なるべく印象を悪くしようと、間延びした挨拶で扉を開けた。こういうのは最初が肝心だ。嫌われるなら大歓迎!
「やぁ。キミは……、確か二年生の御竿護くん、だったか。始業式から大変な目に合ったと聞いている」
奴は一番奥の少しデカい机で、背後に夕日を浴びながらそう言った。銀の髪が夕日を受けて赤く染まり、眼鏡の奥に見える緑の目が、俺を品定めでもするように細められる。
「あー、そっすね。でも見ての通り元気なんで、まぁ大丈夫っすよ」
気に入られないように。生意気な後輩だと思われるように。
しかしそんな俺の努力も虚しく、会長 (たぶん)は興味を持ったのか「ほぅ」とその緑の目を見開いた。
「大した生徒だ。オレと普通に話せる生徒、いや、人は初めてだ。改めて歓迎する。オレはBL学園、生徒会会長、
なんか色々引っかかる言い方だけど、わかるのは、気に入られてしまった、らしい。引きつる顔になんとか笑顔を張りつけて、俺は「うっす」と頭を下げた。
そうして頭を上げ、ふと気づく。
「……会長、今日は顔合わせだと聞いたんすけど。なんで誰もいないんすか?」
「ん? あぁ、そんなことか。簡単だ、キミ以外は特に顔ぶれは変わっていないからな。オレだけがキミを知れれば問題はない」
「は、はぁ」
そういうもん、なのか?
にしても、この会長、なんかこう不思議な感じがすんなぁ。なんていうんだろ、惹きつけられる魅力みたいなもんがあるというか……。ま、そうだとしても、俺がどうこうなることなど、絶対に、ぜーったいに、あるわけが、ないのだが!
「それにしても」
会長が席を立ち上がり、俺の隣へと並ぶ。その気迫に動けないまま、会長の接近を許してしまい。
「!?!?」
顎を片手で掴まれ、無理矢理視線を合わせる形を取られてしまった。
「ここまで近づいてもオレにあてられないとは。キミは本当に素晴らしい。これからが楽しみだ」
下唇をすーっと指で撫でられ、俺は「ぎゃーーー!」と女子顔負けの悲鳴を上げてしまう。会長は面白そうに笑った後、手を離してくれた。
「ふふっ、悪いことをしたようだ。でも……」
夕日が雲で隠れたのか、部屋の中が薄暗くなる。
「覚えておくといい。いくら悲鳴を上げようと、助けを求めようと、誰も来ないことを。ここはそういう場所、なのだからな」
「は、はぁ、はは……」
俺は苦笑いを浮かべて、挨拶もそこそこに、俺はとっとと生徒会室を後にした。
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