太刀根 攻
足は全く進まないが、俺は仕方なく校門をくぐった。いやいや、BLゲームったって、男と男で恋愛するのが確定ではあるまいし。何よりここは共学校らしい。
似たようなブレザー姿の女子が、華やかに笑いながら校舎へ入っていくじゃないか。なら女子と会話して女子と恋愛すればいい。うん、全く無問題だ。
「お、護じゃん!」
「え?」
振り返った俺は、少し背の高い男に抱きしめられた。俺は奴の鎖骨辺りに顔を埋める形になり、なんとも言えぬシャンプーのいい香りが鼻をついた。
って、そうじゃない! 俺はなんとか奴から離れ、抱きついてきた男を睨みつけるようにして見上げた。
「誰だよ!?」
赤毛のそいつは「え?」と信じられないというように目を何回か瞬きし、それから俺の両肩に手を置いて「ま?」と顔を覗き込んできた。いやいや、近い近い近い。
「
なんだ一年間の思い出って。俺には一日の思い出すらないんだが。てか何、同じ布団て。俺は誰とも同じ布団で寝たことすらないんだが!?
「ごめん、ちょっとわかんない……」
「やっぱ階段から落ちた時に、打ちどころが悪かったんじゃ……? それとも熱があるのか?」
そう言って、太刀根はおでことおでこを合わせてきた。瞬間、全身にぞわぞわと鳥肌が立つ。
「ひぃっ。やめろよ、離れろ!」
つい強い言葉で引き剥がしたが、ちょっと悪いことをしたかもしれない。案の定、太刀根は「なんだよ……」と悲しそうに目を伏せた。やめろ、罪悪感がすごい。
「俺が心配してんのに。ま、熱はねぇみたいだし? お前、職員室に行かなきゃいけねぇんだろ? ついてってやんよ」
「いや、いい。遠慮します。一人で行けます、大丈夫です」
「んだよ……、
と言われても、こっちはお前のことなど一ミリも知らないのである。初対面の奴にダチ呼ばわりされる筋合いもなければ、男に熱を測られる趣味もない。
「ま、まぁ、ほら、俺も久しぶりに学校来たわけだし? 思い出すついでってか、俺に付き合ってたら太刀根も遅刻するだろ? だからいいってことだよ」
それとなく、それっぽい理由をつけて断れば、太刀根は「護……」と微かに頬を赤くした。何々、なんで赤くなってんの。
「やっぱお前、いい奴だわ。じゃ、また教室でな!」
太刀根は嬉しそうに鼻を掻いて、手をぶんぶんと振りながら一目散に校舎へと走っていった。
……待てよ。ギャルゲーやエロゲをやり込んだ俺にはわかる。今のって好感度イベントか!? いや、最初は大抵キャラ紹介イベントで全員と話すみたいな感じになるよな!? まだ上がってない、よな? よな!?
「俺は! こんなのは、嫌、だー!」
俺が頭を抱える姿を、校舎へ入っていくモブ顔生徒たちがジロジロ見ていた。
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