第6話 襲撃
ばぁん!
ドアを乱暴に開けて、長剣を持った男が叫ぶ。
「ここに神官はいないか?すんなり差し出したら命だけは助けてやる」
「ここに神官はいない。朝から血を流したくないし、わが領内での武装と暴力は禁じられている。武器を置いて帰ってくれ」
「ははっ。そんな事が出来るわけが無いだろ?そこにいるじゃねーか?血は流したくないんだろ?そのまま差し出せよ」
「嫌だね」
「じゃぁ、そのまま死ね」
無造作に長剣を振りかぶる男に対してアルベルトは懐に入り、椅子をそのまま突き出した。
「カウンターシールド」
男は派手にドアの外に吹き飛ばされる。
そのまま、入り口に仁王立ちに立った。
「あのファーナ様、魔法で支援はできないのですだ?」
「さっき魔力を使い過ぎて、魔力が無いの。それに杖が無いから、信仰の力を魔力に変換させて収束させるのも難しいの」
「うら、死ね」
そう言って次の盗賊が突いてアルベルトに攻撃してきた。ドアの辺りは長剣を振り下ろすには高さが足りない。そこで突いてきたのだ。アルベルトはどこまでも冷静だった。
「カウンターシールド」
本来は全身に張るシールドの剣技だったが、盾の部分だけに集中すると恐ろしいほどの防御力を発生させる。例え丸椅子であってもだ。
ぼきっ
長剣と手首が折れる音がする。
「次は誰だ」
恐ろしいほど冷酷で冷静な声をアルベルトは発する。
「敵は一人だ。片付けろ」
「グリムどうしよう。いくら強くても数が多くない?」
「旦那様は得意な形で戦っているのですだ。入り口からは一人しか入ってこれないですだ。そうすると盗賊は正面から攻撃するだけですだ。そうなると戦列騎士である旦那様の得意とする戦法で戦えるのですだ。それでシールドの剣技で防ぎきれるですだ」
「でも魔力は尽きるわよ」
「魔力の根源は精神力ですだ。今の旦那様はファーナ様を襲った事と領地への侵入した事で怒っているのです。それに美しいファーナ様を守るためにやる気の上限が突破しているですだ」
「さんざん、私の胸事を馬鹿にしたのに」
「それ以外の美しさを否定はされていないのですだ」
そうこうしているうちに三人目がドアの外に吹き飛んでいく。
「ナイフだ、ナイフを使え。同時にかかるぞ」
リーダー格の男は叫ぶ。
そう言って、ほぼ同時に突きを繰り出してきた。
アルベルトは冷静に半身になり、丸椅子をリーダー格の男に叩きつける。
ごきと骨が折れる共に一緒にドアから入ろうとした盗賊と一緒に吹き飛ばされて壁に背中を叩きつけられた。
「領主様、大丈夫ですか?」
棒を持った村の青年団が集まって来ていた。
「青年団にはけが人はいないかな?」
アルベルトは青年団に基本的に戦わせずに、全員がそろった時に数で押し切れる時にしか攻撃しない様に言って訓練している。
「ええぇ、誰も怪我をしていません」
「良かった。盗賊達を縛り上げてください」
それにしてもアルベルトはこんなに強いのに、武功や武勇を自慢したり、自分を大きく見せて出世しようと思わないのだろうとファーナは思う。
「ねぇ、アル?」
「はい。ファーナ様」
「どうして、アルはあんなに強いのに、功を誇らないの?」
「盗賊相手に強いとか止めてくれ、あいつらが弱いんだ」
アルベルトがそう言いながらファーナに近づいてきた。
「それに有利に体勢で戦っていれば、戦列騎士はそれなり活躍できるからな」
「ヘルムート城の時みたいにうまく事が続く訳ないですだ。早く出世して欲しいのですだ」
「ヘルムート城って、あのオーク達がブラックナイトに操られて、城の中で伏兵を仕掛けられて、貴族連合軍が総崩れになった戦い?」
「そうだな」
「あっ。もしかしてアルベルトって砂塵のアルベルト!?」
「やめてくれ、恥ずかしい。荒野の戦いで見方を逃がすために橋の上に立っていたら、砂嵐に合って鎧の汚れが取れなくなっただけだよ。お仕えするヘンドリック男爵が先鋒を務めていらっしゃったから、そのまま殿をしなければいけなかったから、必死だっただけだよ」
謙虚なのか昇進欲が無いのか分からないが、なんだかファーナは機嫌が良かった。
「領主様、縛り上げ終わりました」
青年団の一人が報告をアルベルトにする。
領主として、騎士としての振る舞いはどうあるべきか少し考える。
床に無造作に落ちている長剣を拾い、リーダー格の男の元に向かう。
「お前達の仲間はこれだけか?」
「武器を持たないヘタレ騎士に答える義務はねぇな」
「王国法により、神官に対する侮蔑、誘拐未遂は死罪だな。それに領地内での乱暴を禁じていると警告したのに暴れたのは領主の判断で死刑にもできる。ここで首をはねる」
「長剣使えるのかよ。ヘタレ騎士」
「すまないなぁ。俺はヘタレだから一撃で首は落とせそうにない。痛いだろうが、何度も切り付ける事になる。我慢してくれ。しかし、知っている事を全て話せば、首切りを止め開放を考えるよ。こんなヘタレ騎士でも領主だから、それくらいの権力はある」
「女子供も前で首を斬れるのか?それだと大罪人になるぞ。だから見逃せ。ヘタレ騎士」
アルベルト長剣を盗賊に見せつける様につぶやく。
「手入れもされていない上に安物だな。俺の技量じゃ、首を一撃で跳ね飛ばせるのだろうか?」
「神官の前だぞ」
とてもうれしそうな声でファーナは答える。
「ごめんね。私は大地の巫女だから、冥界の支配者ハデス様も信仰しているの。ちゃんとお葬式はしてあげるわね。だから安心して死んで頂戴。戦う者の敗者を決めて、冥界に送るのも仕事なの。滅多に無い仕事だからうれしいかも」
「大地の巫女様のお言葉も賜った事だし、打ち首だな」
「だんな助けてくだせぇ。あっしは頼まれただけなんです。なんでも答えますから命だけは助けてください。
「連れ去られた神官はどこに連れて行く?」
「旧街道を東に1万リーグほど行った所にある廃村です。そこにある元宿屋にさらった神官は閉じ込めておきます。そこから黒い鎧とマントをかぶった男が神官を連れて行きます」
「お前らの人数はどれぐらいだ?」
「昨日から帰ってこない、五人組と俺たち五人、村にリーダーを含めて仲間が五人います」
「ファーナ様、嘘発見の魔法を使ってくれていませんか?」
「あっ。アルベルト殿すみません。今使います」
アルベルトは安堵していた。神官、それもまだ若い子供と言っても良い年齢の少女が尋問に手慣れてい過ぎるのは嫌すぎる。汚れ仕事をするために騎士と首切り役人はいる。
「感じるのは純粋な恐怖だけ、嘘はついていませんわ」
「青年団のみなさん、この者たちを私の家にある座敷牢につないでおいてください」
「はい。分かりました」
青年団の声は張り切っていた。アルベルトが強いと言う事は想像ができたのだが、一体どれぐらいの強さを持っているのが理解できていなかったのだ。椅子に傷1つつける事無く、息も切らさずに盗賊を制圧してしまった。青年団は尊敬の念を抱いたのだった。
「マスター、四週間分の食料とロープを手配してくれ。店先で暴れたわびとして今年の税金の免除を約束しよう」
「へい、喜んで」
税金の免除がうれしいと言うより、領主の強さを民として純粋に喜んで誇りを持っていた。強い騎士が宿屋を利用してくれると言うのは良い宣伝にもなるから、宿屋の主人冥利に尽きると言うものだ。
「ご主人どうするつもりですだ?」
「フレドリック男爵様に報告をして犯罪者を引き渡す。その上で盗賊の討伐隊の指揮役に立候補するつもりだ」
「やる気なのは良いですだが、旦那様とファーナ様だけでも討伐をできないですだ?ファーナ様は強いですだ」
「領地外の事は男爵様のルールに従わなければならないし、ファーナ様をお連れする事と盗賊を捕らえるのは男爵様の大きな手柄になる」
「そこまで男爵に気を使わなければならないの?」
ファーナは疑問を口にする。
「騎士の誇りだよ。臣下として分を通す。そうじゃないと権力争いに巻き込まれてすぐに命を失ってしまう」
ファーナはどうしよう。一人じゃ危険だけど、戦闘に連れて行くわけにもいかない。
「ファーナは男爵の元に付いて来てくれるか?」
「もちろん、私もいくわよ。一人じゃ危険だし、多くの人たちと行動した方が安心だからね」
アルベルトはそれもそうだと思う。
「そうですね。大地の巫女にして大司祭のファーナ様を王都にお連れになれば、とても大きな功績になる。グリム荷馬車の準備を頼む」
「すぐにフレドリック男爵様だ。ファーナ様を自分で王都にお連れはしないのですか?昇格の良い機会ですだ」
「臣下が何の報告も無く勝手に王都に向かい功績を誇るのは臣下の分を超えている」
「分かりましただ。荷馬車と食料と水を用意しますだ」
こうしてアルベルトによる盗賊達の討伐が始まるのだった
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