第4話 アルベルトの素顔

「マスター、まだやっているかい?」

「これはアルベルト様。美人とご一緒何てうらやましい事で」

「朝に話しておいた、大司祭のファーナ様だ。粗相なく頼む」

「分かりました」

ファーナは懐から金貨を三枚取り出して、店主に投げる。

「たぶん、この店で一生止まって食事を出しても足りる額だと思うけど、足りなかったら言ってね。それとおつりはいらないわよ。払えないだろうし。とりあえずエールと何の肉でも良いからジャーキーをたくさん、フライドポテトを作ってちょうだい」

実はこの村は自給自足で足りないものを行商人から買ったりする程度の経済しかない。銀貨が月に一枚あれば暮らしていける。銀貨一万枚で金貨一枚の計算になる。金貨三枚だとどんなに豪遊したとしてもおつりがくると言う訳だった。

「へっ、ただいま」

「すごい金持ちだな。ファーナは」

「大商人とか大貴族が勝手に払っていく浄財よ。使わないと損よね」

「それより神官がエールとジャーキーなんか食べて良いのか?」

「本来は駄目なのよ。神殿では一切れのパンと野菜のスープこれだけよ。それはそうと座らない?」

「どうぞ、ファーナ様」

月光が良く入るガラス窓の付近のテーブルにアルベルトは近寄ると椅子を引いた。

「あら、ありがとう」

アルベルトも階級は低いとは言え騎士、ファーナは年齢こそ若いが大司祭、これぐらいの事は出来て当然だった。

「アルも座って。早くヘルメットを取ってよ。じゃないと大地母神様の加護の力である怪力で無理やり引きはがすわよ」

「先祖伝来の家宝なんだ。止めてくれ」

そう言ってアルベルトはヘルメットを脱ぎ、チェーンメイルの頭部を保護する鎖のフードの部分を背中に降ろす。

そこには武勇一辺倒の粗忽物の顔でも無く、部下に戦わせて自分の功績にする大貴族の高慢な顔も無かった。実直にして誠実な表情が月明かりに照らされている。ファーナは少し胸が高鳴るのを感じる。それと同時に胸に不審な視線を感じた。照れ隠しの様な事を言う。

「アルどこを見て、何を思っているの?」

「どこも見てない」

「神官に嘘をついて良いと教わったの。邪気感知の魔法が発動して邪気を感じるのよ。私ほどの美人でスタイルが良くて、大地母神の神官の教えが産めよ、増やせよと言っいる訳だから性的な魅力を感じても仕方が無いわよね。アルも男だしね」

右手の甲を整った顎に当て微笑む。

「さぁ言いなさい」

「あの、その」

「嘘発見の魔法を使われたいの?」

「言いにくいんだが」

「強制命令の呪文が必要?」

この時までファーナは勝ち誇った顔をしている。

「胸が」

「胸が?」

「その大地の巫女にしたら残念だなって」

「フレイムバレット」

「シールド」

間髪を入れずにアルベルトは右手についている小手から全身を覆う様にシールドのイメージを強く描き出す。シールドの力は生存本能からくるものもあるのでその力は強力になる。

1リーグほど飛ばされて椅子とテーブルを巻き込み転倒するアルベルトだった。

「嘘、殺す気で杖の力を借りた全力のフレイムバレットなのに防がれた」

「殺す気か!」

「乙女の特徴を揶揄するのは、騎士としてあらざるべき行為。殺されても文句は言えないわ。それにしても殺す気で放った全力のフレイムバレットを盾の力も借りず防ぐなんて、やるわね。その腕に免じて今回だけは許してあげる」

「あの、いちゃつくのは良いのですだ。でもパブのマスターが料理を持って困ってますだ」

「いちゃついてない」×2

ファーナとアルベルトの声が綺麗にそろう。

「店主、済まなかった。テーブルとかは直しておくから、ファーナ様に食事を提供してくれ」

「分かりました。アルベルト様」

そう言って料理を並べて行く。

この村にしては法外なぜいたくだった。この辺りに森は無いので、肉は村で飼育している豚の肉、頭数をたくさん飼っている訳でも無いので、自然と保存食になる。フライドポテトに使われるジャガイモは貧しい農家の主食だった。保存もある程度できるために良く食事に上がる。使われる油は菜種湯だったが、非常に高価なものだ。菜種を収穫できる地方から離れており、この村は寒すぎて菜種の生育などできない。そして酒など飲めるほどの生活に余裕のあるものは少ない。

アルはジャガイモと香草のスープを頼んでいる。

グリムも同じものを頼んでいた。

机を並び終えるとテーブルに付く。

「やっぱり旅のだいご味はエールよね。そして肉」

右手にジョッキを持ち、左手でジャーキーを持ち歯で断ち切るかのように食べていく。

「食事前のお祈りをしなかったり、神官が肉食をして良いのか?」

「もちろんお祈りはしないといけないし、肉食何て持っての外よ?でも狩猟の神ディアナ様の加護を受けているし、酒の神バッカス様の信仰もしているの。でもここだけの秘密でお願いね、秘密を許してくれたら、大司祭にして大地の巫女にして命の刈り取り手の私を馬鹿にした事を許してあげるわ。それに大地の巫女の宿命なの。誓えるかしら」

アルベルトは立ち上がりながら、右手を握りしめて自身の心臓の前に握りこぶしを持って来る。

そして深々と頭を下げて礼をする。大地の巫女は4人いて、それぞれ、春の巫女、夏の巫女、秋の巫女、冬の巫女に分かれる。春の巫女はこれから万事にこれから成長していこうとする若々しさの象徴で種まきや農耕の始まりを告げる事を表している。だから若い神官が春の巫女として選ばれる。夏の巫女は成年に達した者が選ばれて、夏の生命力の成長と表される。

秋の巫女は成熟した女性が選ばれて、物事の収穫と感謝の立場が与えられる。冬の巫女は老婆が選ばれて全ての生き物の眠りと土地の休養を司る。生命力の象徴として胸の大きさも考慮される。アルベルトは夏の巫女が良かったと思惑もあった。しかし、それもここまでだとアルベルト思い覚悟を決める。

「略式で申し分かりませんが、ファーナ様にしたご無礼を謝ると共にこの誓約を守る事を誓います」

アルベルトは心の底から誓えた。自身でも不思議だと思う。フレイムバレットを打ち込まれたく無いと言うのもあったが、何かアルベルトを引き寄せるものがあった。

美少女が特別は好きでは無いのだが。

もちろん神官が好きと言う特殊な気持ちも無い。

でも人を寄せ付ける不思議な魅力をアルベルトは感じているのだった。

                                     

続く

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