第2話 大地の巫女 ファーナ

アルベルトとグリムは白い神官服を着た16歳くらいのものすごい早さで歩いてくる少女とそれに追いつけない馬に乗った盗賊たちを見つけた。

その少女がアルベルト達の前に来て止まる。

「あなたは大地の巫女にして大司祭様のファーナ様でよろしいのでしょうか?」

「そうよ。この杖と紋章がその証拠よ」

そう言ってファーナは杖に先端にエンブレムを出す神聖魔法を使う。

平たい胸を張って、自身のある声でアルベルト達に集う・

「旦那様、30リーグに馬に乗った奴らが近寄ってきただ」

「男爵様の領地内で起こる犯罪を取り締まる義務がある。グリムは頼むぞ」

「はい。旦那様」

アルベルトは一歩前に出た。

その様子を見て、追っていた5人の男たちはアルベルトを半円形に取り囲む。

リーダー格と思われる半円系の中心部にいる男が話し出した。

「神官を差し出せ、そうすれば見逃してやる」

「嫌だと言ったら?」

「ぶち殺す」

「神官への暴行は法律で禁じられている。逮捕権を執行する」

「田舎騎士の分際で、この男から殺せ」

田舎騎士と言われたアルベルトは冷静だった。長剣の間合いでは同時に馬に乗っては切り込めない。いくらか攻撃に時間差ができる。

最初に攻撃した左横の男のロングソードの一撃を盾で受け流すと、そのままウォーハンマーを攻撃した相手の左足に叩きつける。ごきっと骨が砕ける嫌な音が鳴る。

「死にやがれ」

そう言ってアルベルトから見て右端の男が攻撃をしてきた。

アルベルトは冷静に対処する。

「シールド」

剣技を呼ばれる魔法を行使して、右腕のガントレットに強力な防御力を与え、ロングソードの一撃を受け流す。盗賊達は騎兵の絶対的優位である機動力を失って、馬上から切り下す事しかできなかった。

長剣の一撃を受け流したまま、長剣を握る手首ごとウォーハンマーで粉砕をした。

そのまま、三人の男たちと対峙する。立ち止まった騎兵などアルベルト達戦列騎士が恐れるものなど何も無いのだ。

「フレイムバレット」

アルベルトの後方から、無数の炎の矢が発生し、右側の盗賊が丸焦げになる。

アルベルトは内心、驚いていた。剣技を除く魔法の行使には一定の発音、術を補強するための詠唱、魔力の集中、発動させるべき魔法のイメージなど全てがそろわないと発動できない。

それもバレットと言う、魔法の矢を作り出す呪文、フレイムと言う魔法の炎を作り出す呪文の2つが同時に使用されているのだ。無数の矢に炎が乗るなど見た事が無い。戦列騎兵はその役目上、魔法使いの攻撃をシールドの剣技で防ぐ事が多い。魔術の知識も無い訳ではないので驚いたのだ。

その魔法を見ても盗賊達はあきらめなかった。

「同時にやるぞ」

馬馬上から切りかかろうとする。しかし、馬上からの攻撃は角度など制限される事が多い。

リーダー格の男の右側に回り、ウォーハンマーで左腕を粉砕する。

馬とロングソードを扱えない最後の盗賊に向かって、ウォーハンマーで襲い掛かる。

馬上からの突きを盾にシールドの剣技を使って防ぎ、ロングソードを持っている右腕にウォーハンマーを叩きつけて、骨を粉砕する。

「ファーナ様、ファーナ様ほどの力があると盗賊など物の数では無かったのではありませんか?」

「そうですが、術を行使するタイミングで切りかかられるものですから、怪我をする可能性がありました。」

「魔法ですから間合いを取らないとしかたありませんよね」

「そう言えば、名前をお聞ききておりませんでしたね」

「略式で申し訳ありません、アルベルトと申します」

立ったまま一礼をする。本来はヘルメットを脱いで一礼するのが略式の礼だったが、盗賊達がいるのでままならなかったのだ。

「こちらがクネヒトのグリムです」

「グリムですだ、よろしくお願いしますのだ」

「盗賊達をどうしますか?」

「当然処刑よね」

「ひぃ。頼まれただけなんだ。下っ端なんだ、見逃してくれ」

倒れて折れた足をかばいながら逃げようとする盗賊達にアルベルトは声をかける。

「警告を無視して、犯罪行為を起こったものに慈悲は無い。しかし、知っている情報を話せば、幸運が訪れるかもしれないな。ロープぐらい持ってきているのだろう?」

「あぁ。捕らえた神官を拘束するために持ち歩いている」

「グリム、男たちから全てのロープを取り上げてくれ」

「分かりましただ」

「ファーナ様、この男たちを歩ける程度に回復魔法をかけてもらう事はできるでしょうか?」

「できない事は無いわ。でも私は大地母神デメテル様の巫女であり、冥界神ハデス様の使者でもある大地の巫女なのよ。その神官を襲った罪は重い。地獄に送ろうかしら」

「情報を聞き出さないといけませんしね。グリム男たちを縛り上げてくれ」

「分かりましただ」

数分後、男たちは縛り上げられる。

「大地母神の名において、負傷せしものを回復せよ」

ファーナの杖の先が緑色に光ると辺り一帯を包み込む。

「自然治癒の魔法よ、骨は治っていると思うわ、でも一生、犯罪行為には働けない程度にしか回復していないわ」

「そんなー。犯罪こそ暴力こそ楽しみなのに」

盗賊の一人はぼやく。

「幸運な事に俺はヘルメットで今の言葉は聞き取れなかった。さらなる幸運を望むなら今のような発言をしない事だ。ファーナ様、ご案内します。グリム最後尾で男たちを監視してくれ。お前らついてこい」

「良いわよ。案内されましょう」

そう言って上機嫌なファーナを先導するアルベルトだった


                                 続く

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