第13話 ファストストーリーザデイ3 中編



「にしてもなんて広さよここは」





『まさかあんだけサイズあった寮が 全部繋がってたとはなあ いや、この感じじゃあ校舎の方もか?   とっくに迷ったせいで部屋番号がどうとか言う話じゃねえな

IDもないしな』






「確かにそうよねえ  せっかく貸してくれたけど、マスターキーじゃどこでも入れるから逆に今は困るわ

部屋割りだけでも確認しないと…  シリカさんの所でも行くしかなさそうね」







西洋の城チックな建物  同じような形で規則性があればわかるがところどころ特徴を出した構造のせいで場所がイマイチ掴めないのだ







ちなみに今は渡り廊下らしき所にいる











「『ねえ、(なあ、)   なんかおかしいくない?(か?)』」








「いや!  どう考えてもこんだけ歩いて端につかないのはへんよ!」


 





『体感1キロ以上あるな  寮だけでこの広さこの学園   いくら広いとは言って 全部繋がってるにしても妙だ』








「……外から見たら離れていたはず、 地下で繋がってるにしても一度も下の階に降りた覚えはない…わよね?」






『術の反応は?』






「それが無いのよ  いや、あるにはあるけど入ってからずっとで…   てっ、つまりそういうことぉ?」






『多分な   俺としても迂闊だったか

これはトラップタイプのやつだな…  とは言っても、あんなガキにここまでの空間系の術を使えるか?   強力な反応か?』






「うぅ〜ん…  弱くは無いけど、雰囲気は認識操作系? 大掛かりなやつじゃないわねぇ   あっ、じゃあさっきから後ろから追ってきてる怖そうなのも術のやつかぁ…

もうちょっとで追いついてきそうだし、 どうする?」







『うん  とりあえず逃げよう』







――――――――――――――――――――――――





「はっ!…… ここは…?」



『う、うぅ〜ん』






「あっ! 気づきましたか  よかったぁ…   大丈夫ですか?」







ミトン 気づけば少し低身長でありながらフクヨカな雰囲気を持つ 長い青みがかった髪の少女に膝枕されていた


ガバッと立ち上がり捲し立てる







「あっ、 貴女こそ!  アイツはスパッドでもダメで……!?  私のスパイドは!?」






「…やはり、 防犯トラップにはまっていたんデスか…

聞いてください  今まで見ていたのは

対侵入者用接地型魔術で極々小さな異空間に対象を固定して思考迷路に入れる  強力なものデス…

スパイドがないのもそれの効果デス

解除法は外から解くか、一種の嘘発見器の機能を持つ術内で… 例えばここなら自分の部屋に入れば解除されるデス」






「そんなので良いの?  解除は」






「電子ロックの解除をするにはパスワードなどの "確実に本当の事"をしなければならないのデス  防犯としては充分デス

中から解いて出てくることもできなくはありませんが相当強力な術師だけデス」






「つまり貴女が出してくれたのね   いやぁ、助かった 本当に助かったわよ

ありがとうね  ええっとぉ… 名前は?」






「あっ、 私は…」






自己紹介をしようとした矢先ドタドタと先ほどの生徒が走ってくる






「おかしいですわ!   この術、そう簡単に…

貴女 どうやって!?  ………あぁ 貴女ね…  パチモン・ブルー……!!」







「ひっ…!」






「パチモン……  えっ!?」






ミトンが驚く  さっきのストーカー娘が大量の魔力を床に送ろうとしているのが見えたのだ

恐らくまたあの術が来る…!





しかし!  ミトンはパチモンと呼ばれた先輩を引き寄せ回避の動きを見せない!!






「えっ!?  ちょっとっ!」








「観念したわね!  さあ!  その中で存分に許しを乞いなさい!!!」







バシュウウウウウ!!!!   






ミトン達が空間に開いた隙間のようなところに吸い込みれる






「……さて、 中はどうなって……」







ストーカー娘が中を覗こうと術の準備をしようとした時






パカッ






「ハハハハハハ    解除完了ーーー!!!」






ストッ…!






早くも脱出したミトン一行を見て流石に狼狽えるストーカー娘が言う







「なっ、  ど… どうやって……?   パチモンブルーが解除する暇なんて……」





「簡単よ!   ジャックパイセンから貰ったマスターキー、 案外役に立つじゃない!!」







「……貴女、 今何と言って…」






急に静かになるストーカー娘






「うん〜?   マスターキー…」







「違うっ!!」






「……ジャック先輩に貰った、のよ…」






ジュバッ!  ガシッ!  「えっ…?」






言い終わった瞬間首を掴まれる



騎士であるミトン、 エフェクターにどうこうできないのはわかりきっている

しかし今のストーカー娘は冷静ではない







「ねぇ…  パイセン、  無駄ですよ 

術出す前に…



死にますよ?」









「ヒッ!  ハッ…!ウッ、ハッハッ …」






「……あれっ?  冗談なのに…  それにしても、私のスパイドは?」






ガックガクに震え出したストーカー娘が小〜さい声で答える






「…わ、 私(わたくし)の…  部屋……   転移させて…」





プルッ ガクガク…… シュシュシュ……






言いながら震える手をワキワキさせる


それを見たパチさん(仮称)が叫ぶ






「レイダさん!!   逃げてください!!!」







「うん?  でもっ……  わかったわ」






パッ   手を離し






「失礼っ!」  ガシッ!






「きゃっ!」





パチさんを抱えて走る  


 




ズババババババビビビビビビビ!!!!!!






「レイダさん!  来ます!!!」






「わかってる!!  電気系の、 この威力じゃぁ攻撃術ね!?

空気を伝ってくるなら……   これよね!!!」






立ち止まりパチさんを置き方向転換

飛んでくる術へ向かって走る





バシュ!  飛び上がり、







「でぇやあっ!!」






ビュビュッ!!   回転しながら手刀で十字に斬撃を飛ばす






すかさず体を正面に向け手を横に大きく広げ






バンッッッッ!!!!






腹のあたりで手を叩き合わせる

普通に手を叩くのとは訳が違う あまりの威力にほとんど爆発音のような音が響く





ミトンの口角が左側のみ グニャァァ〜〜と上がる





当然そのような音

パチさんは気絶しストーカー娘もふらつく






しかしどうにか耐えるストーカー娘に先程の手刀が到達





ドドッ!  「ゲフウッ!」





弱めに打っていたため、相当な衝撃と痛みはあるが出血はない







だが!  まだ強力猫だまし(さっきのヤツ)の効果が来ていない!!






先程の猫だまし

あまりの威力に前方が一時真空になり、空気を伝う電撃は周囲に霧散する

加えて

当たり前であるが押された空気は向き的にストーカー娘の方に向かう




ストーカー娘は手刀で術を中断させられてはいるが……





一部空気中に残った電気が吹き寄せた風に乗り

以外に伝導性の良い物である人体

つまり!

ストーカー娘に一気に伝わるのだっ!!!






バチンッッッッ!!!!!






「ギャンッ!!」






ドサッ… プシャアアアアア……







いくらある程度空気中に帯電し弱まっていると言っても攻撃用魔術の電撃


外傷はないが当分は手足の痺れと付き合うこととなる

回復術を使い焼かれた神経を治したとしても、急激な再生に伴う苦痛を遮断する術や薬の影響で発生する軽度の運動障害である






「ハハハハハハ  新学期始まる前に制服汚してやーんの   助けは呼んでやるからね〜〜〜」






電撃で盛大に漏らしてしまった姿を見送りミトンが走り去る






本来であれば騎士による騎士以外への攻撃しその後相手は重症、 公共施設での私闘、 介抱せずに逃走







重罪である  


しかし今回の件、実際全くと言って良いほどミトンに非はなく、介抱しないのも被害者であるパチさんの介抱を優先したためである





ここからは保護者(超多忙で死にかけのシリカ)の出番である







喧嘩の後始末は、 それぐらいの認識でよいのだ






――――――――――――――――――――――――



その後、普通に廊下に張り出されていた一年の部屋割り表を見つけ入室

またもマスターキーが役にたった





一方、ジャックはマスターキーなしで思いの外苦労してしていたのは別の話……





とりあえずベッドにパチさんを寝かせ、横にシュガーも寝かしてあげる






「コレね…」






内線を使おうと備え付けタブレットに手を伸ばす






グニャァァ〜〜……







突然の目まい






「…うん?」







グラッ…  ドサッ







――――――――――――――――――――――――



20年前………






ある街の外れ



岩や木が生え、地形も凸凹な土地



色黒で黒い短髪、黒い装甲服に色褪せた小さめのマントを羽織った大柄な男

ひどく沈んだ雰囲気のおとなしい顔である








「……12番!!!」






そう叫び、抜刀し斬撃を飛ばす




刀身はまさに巨大な鉈であった




前を走っていた男がバラバラになる







ギュッ……ドドドドドッ!!!!!




ズババババババ!!!!!







少し走った後同じように叫び、今度は先ほど使った剣の鞘に内蔵したショットガンを撃つ






「31番ッッッ!!!」






ドキョッ!!  バババッ!!!






 高散布型ベアリング掘削弾が命中しまたもバラバラになる







「………後、63人… いつ、 いつ終われるのだ…

僕は……」






何かを感じ取り喋るのをやめ、しゃがみ込み構える







「70番っ!!!」






ガギイインッ!! キリッ! キュキュッカチカチ…






どうやって隠れていたのか  全くの背後からの攻撃


何とか受け止め鍔迫り合いをする



黒い男、上がった口角が耳に付かんとする勢いの笑顔である







黒い男が袖口から小型のスライダーを四つほど滑り出させ

敵の足を狙う






パララッ…   シュッシュッ!!





スカッ!  ドドドッ!!






放出後加速し対象の足を狙うがかわされ地面に刺さる






しかしこの一瞬にも上では剣撃が続く


黒い男は片手で大型の鉈状のスパイドを振り回し、本来の鉈の使い方同様肉を削ぎ落とすための刃を相手に添わす動きをする

対する敵はショーテルを2本持ち 防御に重きを置きつつ刀身のカーブを利用した巧みな攻撃を行う





僅かながらに黒い男の方が体の各所から出血がはじまる

しかし男は冷静である



こうなってくると逆に敵側が焦る



互いに短期決戦型のはずのスパイド系武器を使い、加えて男の鉈は当たれば一撃 さらについ先ほど何人も斬り、何かしらの病原菌を持つ可能性すらある


そしてその男は非常に冷静にこちらの隙を見ている






落ち着いていられる訳がない






カチンッ!   ズバッ!





ショーテルを振り上げ鉈を跳ね除け、もう一本でガラ空きの腹を斬りつける






ガチャッ…





「ッッ!!」







ここに来ての鞘ショットガン!


しかし 本来騎士には銃など当たらない



そのための散弾!   避けなければ面の攻撃を受ける





やはり当たらない





そのための閃光発生弾!!






ドキョッ!!    ドバッ… キカアアアッッッ!!!







「ッ!!」






カチンッ!





目眩しを喰らい正確な攻撃を諦めた敵はシャーテルを連結させ、





ギュギュッ…  ギュルルルルル!!!






柄に付与した術式を起動し手のひらの上で回転させ突撃する


銃を避けるため離れて閃光を喰らったのだが、とにかく前からの斬撃が来る前に対処したい一心でまた近づいたのだ






閃光弾、 一般にイメージされるほどの 喰らえば短時間目が見えなくなる

それほどの効果は無く、 一瞬ビックリするか、数秒ボヤける程度である





ボヤける視界  しかし正面から左右に動いた風には見えていない

つまり 少なくとも正面にいると考えての攻撃なのだ






ズバッ!





スカッ……








まさかの位置!



なんと背中を見せ帰っていく!!






逃げるべきである


持ち前の想像を超えるような相手と、 戦ってはいけない






タワケ! 間抜け!! バカ!!! 阿保!!!!






飛び込む  飛び込んでしまった!!







「まぁ…わからんでもないが、  迂闊だよ…」








カパッ…  シュシュシュッッ!!






ドズドスドス






ドサッ






先ほど地面に刺さったスライダーの柄の部分が展開し小型の針が射出

全て命中し敵、

沈黙






ようやく終わったが、ゆっくりもしてはいられない



番号待ちは決まって部下もいる


基本命惜しさに逃げるが、こと番号持ちの一味に限ってはイカれたやつしかいないのでそうもいかない







「……僕はね…」







ズシュッ! ゴッリュッ!バッ ドボォ! グジュジュッ 

ズルゥ ドパア! ガリッ! デゥブブッ  ゴポッ ビジッ! ベジョオッ!








ベッチョッ…  ドチャッ…カリカリカリ…






30人以上斬り捨て、戦闘中に着いた血や肉片を滴らせながら歩きつつ、 一言







「……俺は、 僕で良いんだよな?   私は自分だが……  いや、僕のはずだ  私でないはずがない…」











「君はどう思う……?」









えっ………?









――――――――――――――――――――――――





「ハアッ!!??」





がバッ!







「夢…  記憶の同化?   でもP.Kにも乗ってないし……  



あの鉈、『俺の』 鉈そっくりで……



えっ?  俺っ、て… 今……!」







ガサガサ……  もにっ…!






「あっ…」






手元を弄っているとなにか柔らかいものに触れ、

更に






ガチャッ 「ミトン様、あれ?  鍵、もう開いて……  は?」







到着したフレクが入室






客観的に今のミトンは、寮に入って早々自分の部屋に連れ込んでベッドで寝ている女に若干被さった体制で胸を揉んでいる……



ように見える!!







「……誰ですか?  ……その女…」






「いやっ! 違うからっ!」







「何がです?  何が違うんですか?」








「さっき助けてもらってえ!  私もちょっと助けて今に至るのよ!!

まだ名前もこれからでっ!!」








「つまりまだ名前も知らない相手に盛っていらしているのですね?」








「いやいやいやいや  その認識はおかしいんだってぇ……」








「私も混ぜてくれないとですよ」








「あぁ 確かに! …… てっ!  え?  そっちなの?」


(あちゃー  フレク、まさかそのタイプかー  どうしよっかなー……  あれ?  クッソ スケベよねこれは………   ああー 流されそうー   この感じ流されそうーーー

早くおきてくださいパイセーーーン!!!!)






「とりゃあああ!!!」







「いや待ってええええ!!!」






ルパンダイブしてきたフレクを押さえつけ、チラリと先輩の方を見る






目が合う






「「あっ……」」






ミトンは気づいた

客観的に見ればこの状況もミトンがフレクをベッドに押し倒しているようにしか見えないと!!



 




「先輩… これはぁ〜〜……」







「あっ…  私のことは気にせずどうぞぉデス〜」 スススス〜〜







「違うんですー!! だから逃げないでくださいい!!」







「先輩も混ざらないんですか?」






「そこお! ややこしくなるからやめてーー!!」






「いえ、 私はこういう時は見る専デス」






「えぇ……」







結局あれこれ誤解を解くのに10分ほど掛かったとさ















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