幕間 ルーヴェント × ユキ 未来にあるもの

 *時系列として、43話『ベアトは白金貨百枚の価値になる』と44話『ベアトはガシアス総統府を制圧する』の間の話です。

 ベアトリーチェが王権を奪って、ルーヴェントが拠点であるロンバルディアの街に戻り、しばらく経っての話になります。



 深夜。

 ロンバルディア娼館。

 深奥の間。


 豪華に飾られた客室でベッドの端にすわり待ち受けていたのは、女性用の透けた緑のキャミソールをつけたユキだった。その下には、細い黒のインナーを身に着けているのがわかり、独得の淫靡な空気を身にまとっている。


 ランプに灯る炎はだいだい色で、どこか理性を崩すように部屋を揺らしている。


「まさか、団長がここに来るなんて……思ってもいなかったよ」


 娼館長ヴィオラに聞いたところ、すでにユキは三人ほど客をとっており、俺(=ルーヴェント)が訪ねても、今日の稼ぎには影響はないはずだ。


「おうユキ、はじめてお前を抱いてみたいって気分になったぜ……なんてな」

 うつむいた顔をあげた俺を見て、ユキは愛くるしい目を大きく開いた。


「どうしたんだよ、そのあざは!」


 ユキの指摘に対し、俺は、椅子に腰を下ろし苦笑する。腫れているわけではないが、まだらの刺青いれずみのように紫の模様が顔にあった。


「団長、またカシスさんと痴話喧嘩か……。今回は特にひどいね」

「ああ、二週間は口きいてもらえねえだろうよ」



「てゆうか、殴られたってことは、もう決めちゃった訳ね」

 ユキの顔つきが強張る。


「ああ、決めたよ」


 相変わらず察しのいい奴だ。この天性の聡明さが、黒鷲傭兵団を大きくしたといっても過言ではない。


 そして、揺れる橙の炎が、ほんの一瞬だが止まったような気がした。それほどに、ユキの緊張は高まったのだろう。



「ユキ……お前には散々世話になった。礼だ、フロストハイムの姓をやる。まあ、すべてが終わった後の話になるがな」

「それ、特に僕がのぞんだものじゃないんだけど」

 ユキは、つまらなそうな顔をする。

 この見慣れた表情とも別れないといけないのか……。そう思うと、やはり悲しい気持ちが生まれた。


「『ユキ・ベクドイァグル(=黒鷲)・フロストハイム』お前の新しい名前だ」

 ユキは、宙を見据えるとわずかに心を揺らした。俺の目には、そのしなやかな体に柔らかな芯のようなものが通ったように見えた。


「僕は……あまり嬉しくはないな」

「悲しいぜ、そう言うなよ、王家の名前って奴は恐ろしい程に便利に使えるんだぜ」


「断るってのは、無理みたいだね」

「頼んだぜ、俺たちが大きくした自治領ロンバルディアと、『黒鷲傭兵団』を」


 ―――― 俺は黒鷲傭兵団を、そして自治領ロンバルディアを離れる。

 決めたことだ、俺の後継者はユキしかいない。




 いぜん変わらずランプに灯る炎はだいだい色だった。ユキの瞳には、俺の顔が揺らめくように映っている。


 その赤らんだ頬に手のひらを当てると、ユキは驚いたような、しかし娘のような表情を浮かべた。

 冗談っぽく語りかける。


「男の娘って奴か……、餞別に……俺が女にしてやろうか」


 ユキは妖しく誘う女の気配を漂わせていく。

 やがて、その口元はゆるく開いた。




 ***


物語の描写はここまでです。

この二人がこの後、この部屋でどうなったのか? は貴方の思うように想像ください。






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