第23話 ベアトとルーヴェントは甘々の街デートをする① 街へ

 □ここからはベアトリーチェの視点で物語が進行する



 スッキリと目が覚めた。 体の調子が良いようにも感じる。


 ディルトは早朝訓練に出向いた後のようだった。気が付くと、机の上には私の為に用意されたリンゴと水が入ったコップが置いてあった。


 昨夜、私は傭兵団長の命令で、副官のディルトに『日当』として抱かれた。その情景を、ふいに思い出してしまい体の芯に熱を感じてしまう。


 昨夜、覚悟を決めて部屋を訪れた私に対して、彼は丁寧に優しくあつかってくれた。こういった事に慣れていない私でも、リラックスできて、正直言って気持ちよかった。


 彼の話によると傭兵団長の命令で、カシスや娼婦ヴィオラを抱くこともあるらしい。そして、これは『よくある話』で、断ったら傭兵団長から殴られるそうだ。

 何故、自分の女を自分以外の男に抱かせるのか……これもディルトが『性癖』だとか言って少し説明してくれたが、私には理解できない。


 しかし心が、どことなく軽いと気づき、自分でも不思議に思う。


 傭兵団長に乱暴に抱かれたことしかない私にとって、ディルトの優しく丁寧な女性としての扱いは心と体を癒してくれたのかもしれない。

 ―――私自身も、体を開きディルトを受け入れていたのも確かなことだった。



 ロザリナの部屋を訪れると、ユキと治療師ヒーラーが一晩ついてくれていたようだ。問題なく順調に回復しているとのことで、すごく安心した。ロザリナの顔色は昨日よりかなり良くなっており、今日中には間違いなく意識が戻るそうだ。


 館の外に出ると三人組が待っており、三人組は昨日のベラヌール酒場での話に熱中しており、朝日も昇る前から異様に盛り上がっていた。

 「師範! 俺達は師範に一生ついて行きます!」

 彼らは拳を握りしめ飛んだり跳ねたりしながら、そう言う。そこから彼らと一緒に、ロンバルディアの街でランニングを行なった。この三人組とのランニングが朝の日課になりそうだ。


 朝食を取り、三人組相手に午前の訓練に取り組んだ。ディルトは時間通り十時にやってきて剣の訓練をつけてくれた。

 ディルトはしきりにロザリナの回復度合いを気にしているようだ。

 傭兵団長と似たような体格のディルト。荒々しく武骨で強靭な肉体を持つ彼だが、一夜を共にすることで、中身は傭兵団長とは全然違うものだと分かった。


 ここに連れてこられて数日しかたっていないが、傭兵団内部の人間がどんなものか分かってきた。

 良くも悪くも何も考えていないが、人の良い三人組。

 面倒見よく人当たりが良いが、芯には強いものを持ち傭兵団を支えるユキ。

 強く優しく、女性の扱いが上手く、しかし根は単純な男ディルト。

 頭脳が切れる上に、戦闘も強い、傭兵団長が好きで好きで仕方がない女、カシス。


 まだ、喋ったことすらない団員も数多かったが、皆が意外なほどに優しく暖かく、親切な気がする。

 この傭兵団。私は先入観で下賤の者の集まりと思っていた、……カシス以外には心を許せそうな気がする。



 ただ、傭兵団長については、全く理解できない。

 

 何故、盗賊団の毒矢を受け、死にかけていた私を助けたのか。

 何故、私を王国へ戻さずに、奴隷の身分として買ったのか。

 何故、私を訓練で鍛えようとしているのか。

 何故、ロザリナ救出に力を貸してくれたのか。


 私のことが好きなのか? 憎んでいるのか? それとも違う何かの感情があるのか?


 ロザリナを救助した後、ベラヌールの街からの帰路。

 しがみついた彼の分厚い背中に、不覚にも私は安心感を得た。

 そのまま、その夜……好きなように、無茶苦茶にされても良いと覚悟を決めたのに……。


 ただ、私は出来るならば―――彼を理解したい。

 何故だかわからないが、強く……そう思っている。


 ⬜︎


「おいベアト! 出かけるぞ、支度をしろ」

 夕方、三人組とホールでトランプをしている所を傭兵団長に声をかけられた。


 傭兵団長は商人風の衣装を身に着けているが、巨躯からは獣の気配を消しきれていない。私は、商人の衣装を借りると、羽根のついた帽子をかぶり男装した。


 館を出るとき、街の巡回から帰って来たカシスの一隊とすれ違う。団員たちは元気よく団長と、何故か私にまで挨拶をしてくれた。しかし、カシスは露骨に団長を睨みつけると頭を下げる事すらしなかった。そのまま私の足元に唾を吐き、館の中へ入っていった。


 夕方、ロンバルディアの街は、夜の訪れに向け仕込みの真っ最中で、見渡す限り活気にあふれていた。


 美味しそうな匂いがする。

 飲食店や宿泊施設は、食事の準備であわただしく人が動いており怒号が飛び交っていた。その食材のおこぼれを狙い、猫科の獣が物陰に身を潜めているのが見える。


 酒場や娼館の前には、すでに開店待ちの客が列をつくって賑わっている。

 治安を守るために巡回をする傭兵団員とも時々遭遇した。彼らは必ず私に声をかけてくれた。


「あの、傭兵団長、ロザリナが目を醒ましました。もう大丈夫だって、教会の治療師ヒーラーの方もおっしゃっていました」

 私は、前を歩く分厚い背中に、恐る恐る話しかけてみる。

「そうか、良かったな。しかし教会の奴らめ、いつもお布施とか言って金をぼったくりやがって」

 怒気をわずかに匂わせ傭兵団長はそう言った。

「すみません、ロザリナにもよく言っておきますから」


「いや、お前達に文句を言っているんじゃねえぞ、気にするな」

 傭兵団長の意外な返しだった。本気で教会に対して怒っているようだ。


「あの、今ロザリナにはディルトさんが付きっ切りで、面倒を見て下さっているようです」

「はっはっは、ディルトも単純な奴だな。お前の侍女が女優のマリアに似ているってだけでベタ惚れしたらしいぜアイツ、面白え、はっはっはっは」

「ロザリナは美人ですからね、でもディルトさんらしくて良いじゃないですか」

私がそう返しても、傭兵団長はしばらく上機嫌に笑い続けていた。



「で? ディルトの野郎とはどうだったよ、昨夜……」

笑い終わると傭兵団長は、設営を始める大道芸人の一座を眺めながらそう聞いてきた。


(昨夜どうだったよ、……て、ちょっ)



■甘々な展開の『ベアトとルーヴェントは街デートする②』へ続きます

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