第五章 5 合流

 翌日の夜、私たちは兵士たちが走り回っている街道を避けて宿を目指す。兵士たちが捜索しているのは当然私たちだ。逃げ出したことがようやくバレたのね。ワイン樽に隠れ、上手いこと城外に脱出できた私たちが樽からようやく出られたのは、酒造工房に運ばれた後だった。街外れにあるその工房の倉庫に転がされ、工房の職人たちがすっかり帰った後で私たちは樽を抜け出した。ここまでは無事だったけど、街に出ていればこの通りだ。宿に泊まっているアルセーヌさんたちのほうが心配だった。もちろん、不審な旅行者は取り調べられているはず。

 

「ジャンヌ!」

 サーラに肩をつかまれ、私はハッとして街道の先を見る。兵士の一団がいるのが見えた。私は頷いて、部下の兵士たちを連れ、急いで脇道に入る。人気はなくて猫が警戒心もなく毛繕いしていた。その細い脇道を、私たちは警戒しながら走る。どこかに身を隠さないと。焦りながら通りを抜けたところで、急に馬車が目の前で止まった。驚いて足を止めると、扉が開いてアリシアさんが顔を出す。

「アリシアさん!」

「無事だった! ほら、早く乗りなよ」

 アリシアさんはニカッと笑うと、席を詰めてくれる。サーラが「この女性は?」と、怪しむように私にきいてきた。

「アルセーヌさんに雇われたアリシア・ルーナンさんよ。大丈夫、信頼できるわ」   

 私はそう答えて、サーラや兵士たちと一緒に馬車に乗り込んだ。おかげで、馬車の中はぎゅうぎゅう詰めだった。


 走り出した馬車の中で、私は「アルセーヌさんは?」とアリシアさんに尋ねる。

「あのお兄さんなら、森の中で待ってるよ」

 

 馬車が向かったのは、教会の裏に広がっている郊外の森だった。

 その森の小道を進むと、明かりが揺れている。そのそばで馬車は止まり、アリシアさんが先に降りた。私たちも続いて馬車を降りた。

「アルセーヌ!」

 サーラがカンテラを提げているアルセーヌさんを見つけて声を上げる。

 そのそばには、大きな馬車が止まっていた。

「サーラ、無事でよかった。ですが、再会を喜んでいる時間はないでしょう。すぐに街を離れます」

「だけど、兵士が捜し回ってるのよ。街の城門も通行禁止になっているかも」

「そのために、ルーナン嬢に協力してもらうことにしたのです。すぐに着替えを」

 アルセーヌさんはそう言うと、馬車の後に積んでいた荷物を下ろし、草の上で広げる。それは侍女や侍従の服だった。私たちは顔を見合わせる。アリシアさんの格好はお嬢様が着るようなドレスだ。つまり、アルセーヌさんはアリシアさんに私の代わりをこのまま勤めてもらうつもりみたい。


 そして、私たちはというと、その侍女や侍従になるってことね。それでうまく城門を通り抜けられるかわからないけれど、失敗すれば強行突破するのみ。私は「OK、作戦は分かったわ」と笑顔で頷いた。


 馬車の中で私は「でも……アリシアさん、本当にいいの? あなた、このままだと本当に私たちと一緒に国外に脱出することになるわ」と、心配になって彼女に尋ねた。もちろん、フロランティアスに戻ったらジュリアンが身元を保証してくれるでしょうし、安全も確保してくれるはず。だけど、無事に国境を越えられるかどうかは、わからない。


「そんなこと、百も承知だよ。この国にはいい思い出もないしね。すっかり愛想を尽かせていたところなんだ。未練なんてこれっぽっちもないよ! それに、こっちに乗るほうが楽しそうだ」

 アリシアさんは楽しそうに笑って、隣に座っているアルセーヌさんの腕に自分の腕を絡める。アルセーヌさんは、苦々しい顔で咳払いをしていた。「あっ、なるほど」と、私とサーラは呟いて笑い合った。そういうことなら、どうあっても全員で脱出しなきゃね。

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