第五章 3 救出
地下牢の暗い通路を私は鍵束を握り締めながら走る。一番奥の部屋の扉の鍵を開けて開くと、そこは大きな部屋だった。壁にずらっと掛けられているのは、悪趣味な拷問器具ばかり。私はギョッとして、急いでサーラの姿を捜した。こんな拷問を受けているなんて、考えたくない。けれど、悪い予感ばかり頭の中には広がっていく。
大きな部屋のその奥に鉄格子の扉があり、さらに部屋があるようだった。私は扉に駆け寄ると、中を覗いてみる。兵士がいるかもと思い用心したけれど、中にいたのはサーラと砦の兵士数人。「サーラ!」と、私は鉄格子をつかんで声を抑えながら読んだ。その声に、壁に鉄の手枷で繋がれていたサーラが、疲れ果ててやつれた顔をして薄らと眼を開く。
よかった、取りあえずみんな生きてる。私はそれだけでも、最悪の状況を免れたとわずかに胸をなで下ろした。
「ジャン……ヌ……どうして……ここに……」
弱い声を押し出したサーラは、私の姿を見て目を見開く。他の兵士たちも同じように驚いていた。私は鍵束の中から、この鉄格子の扉の鍵を探す。あまり手間取っていると、いもしない魔獣を追いかけ回しているだろう兵士たちが、諦めて戻ってくる可能性がある。
何度かトライして、ようやく合う鍵が見つかり、鉄格子が開いた。私はすぐさま中に入ると、サーラに駆け寄る。
「……ジャンヌ! どうやってここに……それに、牢番がいただろう」
「ええ、階段下りたところで、カードゲームしてたわ。今は……えーと、ちょっと眠ってるわね」
私は肩を竦めてみせる。差し入れをする振りをして、近づき、短刀の柄で思いっきり殴ってやったんだけど。もう一人は、椅子を振り上げて、頭にガボンッとね。おかげで、二人とも仲良く床に寝転がっている。もちろん、気を失っている間に、縄で縛っておいたから、そう簡単には抜け出せないはずよ。仲間の兵士が気付いてやってきて、縄をナイフで切らない限りは――だけどね。
私は「待って、今助けるから」と、急いで手枷の鍵を外そうとしたけど、どれも扉の鍵ばかりで開かない。もしかして、門番がいた部屋の壁にかかっていたのかも。だけど、引き返して取りに行くような時間はなさそうだった。
「私のことはいい……早くここから逃げろ。君の顔を見られただけで十分だ……戻って……」
「馬鹿なことを言わないでよ。遺言を聞くためにここまではるばるやってきたわけじゃないわ。あなたたちを救出するのが私の最重要任務。放棄しておめおめジュリアンのところに帰れるものですか」
私はサーラの話を遮ると、すぐに隣の拷問部屋に向かう。そして大きな金槌と鉄の杭を持ってもどってきた。拷問器具は悪趣味だけど、使いようはある。私は手枷を繋ぐ鎖に杭を当てて、思いっきり金槌で叩いた。鎖は案の定、錆びていたこともあり割れて外れる。手足の鎖が外れると、サーラは支えを失ったように私に倒れかかってきた。
「すまない……ほんとうに……っ!」
サーラは私に寄りかかりながら、堪えきれず泣き出した。彼女を支えながら、その背中を宥めるように叩く。
「生きていてくれてよかった……ここに来るまで、本当は半分くらい諦めそうになっていたから」
だけど、サーラたちは人質で、重要な交渉材料にもなる。だから、そこまでひどい拷問も受けていないのだろう。ただ、顔や腕、膝などにはひどい痣ができている。私は「とにかく、早く離れましょう」と、他の兵士たちの鎖も外しにかかった。サーラは気丈にも涙を拭うと、頷く。
「た、助かった! 嬢ちゃん……」
「もう、見捨てられたかと……」
鎖が外れて自由になった兵士たちは、一様に安堵した顔になっていた。
「ジュリアンは自分の部下を見捨てるような薄情な人ではないわよ」
私はそう言って「ほらほら、急いで」と、兵士たちを急かす。幸い、拷問部屋には武器になりそうな痛そうな道具が山ほどある。私たちはそれをつかむと、拷問部屋を出て通路を走る。途中で転がっている牢番を全員が蹴っ飛ばしたり、踏みつけたりしてささやかな報復をすることも忘れなかった。これくらいは許されるわよ!
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