第四章 5 防衛の城

 私とアルセーヌさんが向かったのは、国境から一番近い場所にあるバークロシー城だ。高い城壁に覆われた堅牢な城で、周囲は堀が囲んでいた。跳ね橋の前では兵士が見張りをし、検問が行われている。馬車の窓から検問を行っている兵士たちをこっそり見てから、私は顔を引っ込めた。

「サーラも他の人たちもみんな、無事だといいけれど……」

「彼女は口が硬い。決して重要な情報や機密を漏らしたりはしないでしょう……」

 アルセーヌさんも窓の外に視線をやっている。ということは、口を割るまで容赦なくサーラを痛めつけているかもしれないということだ。

 私は膝の上で強く拳を握る。女性だからなんて理由で優しい対応なんてしてくれないだろう。むしろ、女性だからこそ余計にひどい目に遭わされているかもしれない。イブロアの兵士に紳士的な振る舞いを期待することはできない。


(サーラ……)

「おわかりかと思いますが……失敗すれば、あなたも私も牢獄送りです」

 アルセーヌさんは私をジッと見て、真剣な顔で言う。それはつまり、今はサーラの身を心配しているが、捕まれば、今度は私たちが拷問を受ける番になるということだ。覚悟をしておけと、アルセーヌさんは忠告しているのだろう。

 その時、たとえどれほど悲惨な目に遭ったとしても、余計なことを言わないようにと――。もし、迂闊なことを言えば、自分たちの身だけではなく、捕らえられているサーラや他の兵士たちの身も危険にさらす。それだけではない。砦陥落の原因を作ることにもなる。もし、砦が陥落すればジュリアンは捕らえられるか、殺されるかする。そうでなくても、第一王子という立場上、捕虜となれば政治的な交渉に利用される。ただ、たとえジュリアンが捕虜となったとしても、王都にいる国王や第二王子を擁立する勢力は、決して彼を助けようとはしない。

(でなければ、あんなに冷遇されているものですか……)


 私は「わかっているわ」と、強く頷いた。

「それに……私を捕まえて拷問にかけたところで、あの砦に関して重要なことなんて一つも知らないのよ! しゃべられて困るようなことなんてないから、安心して」

 ニッコリ笑うと、アルセーヌさんは呆れた顔をする。

「それでも、あなたが捕らえられれば、ジュリアンが心配します」

 そう言われて、私は「あっ、そうか」と呟いた。それはそうよね。ジュリアンは責任感が強いもの。自分が救出任務に送り込んだ私やアルセーヌさんまで、敵の手に落ちれば、きっとそのままにはしないだろう。あの人は、王都にいる無責任で恥知らずの連中とは違うんだもの。


「そうね。ジュリアンのためにも、砦で待っているみんなのためにも、絶対にサーラやみんなを連れて無事に戻らなくちゃね……」

 馬車が進むと、「扉を開けろ!」と横柄な兵士の声がした。検問の順番が回ってきたのだろう。私は合図の代わりに、アルセーヌさんにウィンクして見せる。

 国境の検問所も通り抜けられた。その時の押印もしてあるのだから、城には問題なく入れるはずだ。そうでなければ、他の手を考えるまでよ。

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