第二章 9 治療の後
重傷者の治療を終え、軽傷者の傷を見終わった時には、深夜を過ぎていた。
救出作業も一段落したみたい。私とマリーは厨房の椅子に腰をおかけ、温かいミルクを飲む。このまま寝てしまいたいくらいクタクタだった。
ご飯なんて食べている余裕もなかったから、お腹も空いていた。料理を作るような気力なんて残っていないから、保存していたビスケットをつまむ。
「私、今まで自分以外の人の血を使って治療したことなんてなくて……ちゃんと治療できてよかった~~。ありがとう、ジャンヌがいてくれなかったら、きっと助けられなかった人もいたと思うよ~」
机に突っ伏したまま、マリーはヘラッと笑う。私の腕にも、マリーの腕にも包帯が巻かれている。けっこう血を使ったけれど、兵士の人たちも強力してくれたし、私たちの話を聞いて、他の兵士たちも駆けつけてきてくれた。
おかげで、重傷者を含め、この砦に運ばれてきた兵士は全員、助けられた。
ただ、運ばれてくる前に、亡くなっていた人もいたと聞くから、心から喜べるわけじゃない。それでも、助けられるだけは助けたのだから、それは良かったと思ってもいいのだろう。
「お肉三倍の約束だけは、忘れないでよ、マリー」
私はミルクをゆっくりと飲みながら、片目を瞑って言った。マリーは私を見つめて、「もちろん!」と笑顔になる。
「お兄ちゃんに頼んで、特大の猪を狩ってきてもらうよ~」
「い、猪なのね……まあ、この際、猪でもいいわ」
霜降りの牛肉が食べたいなんて贅沢は言えない。それに、猪もこの世界では宴席に出されるようなご馳走ではある。
「私ね、ちょっと怖かったんだ~」
「治療が?」
「うん……前に戦闘が起きた時、たくさん怪我した人が運ばれてきて……でも私はまだ医療魔法士になったばかりで、ちゃんと治療できなくて……たくさん目の前で亡くなって……お兄ちゃんは、お前のせいじゃないって言ってくれたけど……そうは思えなくて……だから、もっと勉強して、腕を上げて、たくさん、たくさん助けたいって思ったの。でも、今日、負傷した人たちが運ばれてくるのを見て、あの時のことを思い出しちゃって……」
それで、最初、震えていたのね。私はミルクのカップを唇に当てたまま、黙ってマリーの話を聞いていた。
「でも、ジャンヌの声で、しっかりしなきゃーって気合いが入ったんだよね!」
体を起こしたマリーは、ギュッと拳を握る。そして私を見て緩い笑みを浮かべた。
「ありがとう。私や、他のみんなを助けてくれて」
「私は……やれることをやっただけよ。治療したのはマリーじゃない。あなたは立派に仕事をこなしたわよ」
きっと、私が知らないような悲惨な状況を、何度も経験して、辛い思いをしてきても、逃げないで乗り越えてきたんだ。
マリーは「へへへ」と、嬉しそうに笑っている。
「今日は、お疲れ様。片づけは明日にして、もう寝ましょう」
私はカップを置いて立ち上がった。
「うん、お疲れ様」
マリーも頷いて立ち上がる。
明日も早く起きて、療養している兵士たちの治療や世話を行わないといけない。
私は厨房の火を消して、マリーと一緒に出ていった。
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