第一章 1 始まりは乙女ゲームから
猛獣に襲われる数時間前のこと――。
舗装もされていない泥水のたまる悪路を、私を乗せた馬車が揺れながら進んで行く。これが某有名な童話なら、白馬に引かせた立派な馬車で、向かう先はイケメンスパダリ王子――だったかどうかは童話には書かれていなかったけれど――が待つ、舞踏会開催中の王宮だっただろう。だけど、生憎と私が乗っているのは、そんなご立派な馬車なんかじゃない。
簡単に言ってしまえば、『護送用の馬車』だ。それも、乗っているのは、私と、三人の見知らぬ男だけ。男は揃いも揃って捕獲された野獣のような鋭い目つきをした荒くれ者で、私はというと、そんな荒くれ者の視線を避けるように、隅っこで小さくなり、膝を抱えていた。
この馬車に乗せられているのは、何かしらの罪を犯した言わば罪人。つまり、この私、ジャンヌ・ド・クロエもそのうちの一人だった。送られる先は、目下隣国と交戦中の国境の砦である。つまり、私たちは一度送られたら生きては王都に戻れないと噂の戦場へと送られている最中だった。
て、なんでこの私がこんな豚小屋みたいな馬車で、戦場送りにならなきゃ行けないのよ――――!!
と、心の中で憤慨しながらギュッと唇を強く噛んだ。さっきから何度も噛んでいるから、血が滲んで嫌な味がする。
私はこれでも、このフロランティアス王国の公爵令嬢だ。正確に言えば、つい一週間前まではだ。その私が罪人共々辺境送りになった理由を説明する前に、もう一つだけ語らねばならないことがある。
私のこの世界の住人ではない。
これまた正確に言えば、住人ではなかった。それも一週間前まではだ。
この――『キュンキュン❤ラバーズファンタジー』なる、謎の乙女ゲームの世界に転生するまでは。
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