転生ジャンヌは恋をしない
春森千依
プロローグ 雨の中の出会い――。
「君……しっかりしろ……目を覚ますんだ……!」
必死に呼びかける声で、私はうっすらと目を開ける。
雨が降り注ぐ中、顔を覗き込んでいるのは、金色の髪をした青年。その人の翡翠色の瞳に、ぐったりとしている私の姿が映っていた。彼も全身雨に濡れていて、髪から滴が落ちてくる。
私の肩に回されているのは彼の腕だ。まだ、ぼんやりとしたまま瞬きしていると、ホッとしたように彼の表情が緩む。
「よかった、意識はある」
「あの……えっと……私は……」
「砦に護送中、猛獣に襲われたんだ。ひどい血だ……怪我は?」
「怪我? いいえ、これは猛獣の返り血で……」
私は自分のドレスが雨と泥と猛獣の血に染まっているのを見て、ハッとする。
そうだった、私は猛獣に襲われて――。
ようやく頭がはっきりとしてガバッと起き上がると、びっくりしたように青年が私の肩から手を離した。
私は自分の汚れている両手を見てから、周りに視線を移す。
「……猛獣がすでにやられてる……」
「しかし、ひどいな……生き残っている者はいるのか?」
「おい、こっちはまだ息があるぞ!」
「こっちもだ。負傷している者を馬車に運べ!」
兵士たちが大勢集まっていて、馬車に倒れている男と御者をしていた兵士を運び込んでいる。そのそばには、大きな猛獣が息絶えて倒れていた。それを、兵士が念入りに調べている。
そうだった。私は今、王都から辺境の砦に護送されるところで、渓谷を通り抜ける途中に猛獣に襲われたのだった。
「ほとんど、一撃で致命傷を負わせていますね。よほど剣の腕の立つ者がやったのかと」
猛獣を調べていた兵士の一人が駆け寄ってきて報告する。
「それはすごいな……いったい、この猛獣を一体誰が?」
「えっ!?」
青年にきかれた私はうろたえて馬車に運ばれている男に目をやる。あの男たちは、私と一緒に護送の馬車に乗せられていた荒くれ者の男たちだ。
「あーっ、それは、あの方たちですわ~! 私は、怖くてすぐに気を失ってしまったので……よ、よくは覚えてはいませんけど……」
馬車を指さしてから、私はごまかすように答えた。気まずい顔をしている私を、青年はマジマジを見ている。
でも、本当のことを話したところで信じてもらえないだろう。
この私、〝元〟公爵令嬢『ジャンヌ・ド・クロエ』――が、猛獣二匹を仕留めたなんて。
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