Episode 22 - エドゥアルドの直感
「――バイタル安定っと」
意識を失っているタイラ夫人の浮遊担架を、チームの救助艇〈マルガリータ〉機内の所定位置に固定し、バイタルモニターを接続する。モニターと〈ギア〉の数値に違いがないことを指差し確認し、エドゥアルドはその情報をこれから搬送する威療センターへ送信した。
「ママの隣に座ろうね。手を握っててあげて」
フォリナーと名乗った姉のほうを抱き上げて補助席に座らせ、シートベルトをしっかりと留める。緊張からか、ひんやりした小さな手を母親の手に添えると、短いツインテールがこっくり頷いた。
天井のスピーカーをオンに切り替え、「前のほうにブランドンっていう。丸っこい人がいるから、お話しててね」とフォリナーに伝えると、そのスピーカーからすかさず『だれがデブだ!』と反応が返った。
「ブランドンさん、ピザをたべすぎちゃったの?」
「ぶっ」
『耳が痛いなあ、お嬢さん。そうなんだよお。うちのリーダーが作るピッツァは、もう最高なのなんのって。あと、いま笑ったそのヒョロヒョロ、オレより食うんだぜ? しかも、野菜、食べないんだぜ?』
「お野菜たべないと、びょうきになるって、ママが言ってたよ?」
『だってよ、ベジー』
「うっ……。がんばるよ」
あからさまな意趣返しだが、普段、ティファニーからも注意されていることだから、エドゥアルドとしてはぐうの音も出せなかった。今ごろ、パイロットはニタニタしているに違いない。――と。
「……ティファニー?」
〈ユニフォーム〉の脱装を報せる通知が〈ギア〉に表示され、エドゥアルドは眉をひそめた。
救命活動中は着用義務がある〈ユニフォーム〉だが、状況によっては脱装することもしばしばあった。今回は免れたものの、もし重傷者が出た場合には〈ユニフォーム〉が最適の保護着になる。
それに、脱装には二種類ある。一つは、許容値を超えるダメージを受けて自動的に外れる緊急脱装、もう一つは文字通り、
エドゥアルドの〈ギア〉に届いた通知は後者のほうで、だからチームメイトには見えない。逆なら、エドゥアルドも同じだ。
(だけど……)
「……ブランドン、ボク、ちょっとティファニーをみてくる。二人をたのむよ」
『通信で訊きゃあ、いいんじゃないのかなあ』
「えと……その……直接たしかめたいっていうか……」
『冗談冗談。ラブラブだなあ、きみらは。安心して行ってこいって。こっちは、いつでも離陸できるようにしとくぜ』
「だ、だから、ちばうってば! ……でも、ありがとう」
パイロットのからかう言葉に、つい口ごもってしまった。それがブランドンなりの気遣いであることは、最近ようやく理解できるようになってきた。
「おにいちゃん」
「大丈夫。お姉ちゃんとトゥルーくんを迎えに行くだけだから」
「ちがうの。あのね……。トゥルーはいい子なの。だから、怒らないで」
「もちろんだよ。怒ったりしないさ」
「よかったあ……」
「じゃ、ママと待ってて」
心配げに見上げてきたフォリナーの肩にそっと手を置き、機体の後部ハッチを開くハンドサインを結ぶ。
(フォリナー、なんであんなこと言ったんだろう)
姉弟の姉の言葉に違和感を覚えたが、今は自分の目で確かめるほうが先だ。
「よし」
気合いを入れ、エドゥアルドは通報者の自宅を見下ろす位置に浮かぶ機体から飛び降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます