Episode 18 - チームの絆

「……いいんすか。あんな約束なんかして」

「約束とは?」

「おたくのメンバー、ガキに『必ず助ける』つったっしょ。んなこと、わかんねじゃないっすか。ダメだったら訴えられるんじゃないんすか?」

 身を屈め、いつでも対応できるよう慎重に敷地を進んでいたアシュリーへ、実習生のデレクが気怠げにそう尋ねてくる。変則的なチーム編成のために、前方を行くマイクの蒼い背中を確かめながら、アシュリーはひそめた声で質問に返した。

「“威療士は如何なる命の保証もしてはならない”。威療士規則第5条7項ですか。よく勉強していますね、デレク」

「あー、どうもっす」

「質問に質問で返すのは少々ずるいですが、あえて訊きましょう。デレク、もし、貴方が……いえ、貴方の大切な相手が、涙幽者になるかもしれないというときに、聞きたい言葉はどちらですか。励ましか、事実か」

「そりゃ、安心したいっすけど、気休めにすぎないんじゃ……」

『チッチッチッ、わかってないわね。そこは、心のケアって言わなきゃ』

 最後尾を任せてあるサマンサの声が、イヤコムを介して伝わり、アシュリーは思わず小さく笑ってしまった。

『あー! ボスに鼻で笑われたー! アタシ、もうやっていけないんですけどぉ』

「すみません、サマンサ。とても貴方らしい表現だと思ったのですよ。そういう言い方ができる貴方が、頼もしい」

『でしょでしょー? もっと褒めてー』

「メンタルケアって、医者がやるやつっすよね。それ、役に立つんすか」

「サマンサが言ったのは比喩ですよ。専門的なメンタルケアは、僕たちの領分ではありませんし」

『んー、ま、ティファちゃんは、お子ちゃまには甘いしねー。あ、これシーッね?』

「オープン回線ですよ、サマンサ」

 そう苦笑しつつも、ほぼ間違いなく当の本人は通信を聞いていないという自信があった。

 ティファニーの集中力には、目を見張るものがある。現場に出た彼女は、目の前の命を救うこと以外のあらゆる雑念を頭から取り払えることを、6年近いチーム生活でアシュリーは幾度となく目の当たりにしてきた。にもかかわらず、救命活動に必要な指示などはきちんと届く。ブランドンが“フィルター耳”と茶化したことがあるが、まさに言い得て妙だ。

 その反面、周囲が目に入らない傾向も持っている。そういう意味で、エドゥアルドをチームメイトに迎えられたのは、えにしに恵まれたのだろうと思う。

「だったらなんで――」

「――リーダー。あれは……」

 先行したマイクの硬い声が届くとほぼ同時に、〈ギア〉へ【注意。反転感情波を検知】の表示がオーバーレイされる。が、警告を見るまでもなく、視界に捉えたその光景がアシュリーの足を止めさせていた。追い付いたサマンサが、傍らでため息を吐く。

「ありゃー。どうするー、ボス? アタシはいつでもイケるけどぉ」

「……なんすか、あれ!? 樹?!」

 蠢くその緑色の集合に目を細くしながら、アシュリーは答える。

「いえ。あれは、ツタのようですね。――つまりターゲットは、〈敬愛アドレイショナ〉、ですか」

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