Clause 2.カシーゴ・シティ ヘリックス・メディカルセンター

Introduction II.歴史家ウルフビョルン著『ルカリシア全史 近代編』より

 ……前述の通り、ルカリシア史に残る二度の破滅的な大戦〈黒狼大戦〉〈英雄大戦〉は、気高き英雄たちと名も無き戦士たちの尊い犠牲によって、人類は辛くも滅びを免れる結果となった。

 しかしながら、歴史とは往々にして皮肉なものだが、それは大戦を経験した当事者たちにとっても同様のことであったらしい。


 二度と、大戦を繰り返してはならない。

 

 その危機感を共有した各国指導者は、ルカリシア歴1845年、終戦に大きく貢献したラクリキア王国王都・ウーリに集結。ウーリ会議とも呼ばれるこの歴史的な会合において、戦後の世界秩序が話し合われた。

 ここに、後代〈ウーリ協約〉として伝えられる、ルカリシア初の世界協約が結ばれることとなる。


 ウーリ会議が果たしたもっとも大きな貢献は、やはり〈世界救命基金World Life-saving Fund〉の創立だろう。

 この議案を巡り、〈英雄大戦〉でもっとも多くの英雄を輩出し、人類の勝利を導いたラクリキア王国と、〈黒狼大戦〉において最大の犠牲者数を出しながら敵の猛攻を押し止めた北米合州国のあいだで激しい議論が交わされたことは有名な逸話である。

『人命を救う統合機関の設立』および『黒狼を人間として認める』という画期的な〈ウーリ協約〉は、後のルカリシア近代化に大きく寄与することとなった一方、黒狼に人権を認めるという第三条の内容に反対意見を唱える有識者も多くおり……



※註釈……本文中には、現代において差別用語となる語句が含まれるが、原文のまま記載した。

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