Chapter. III “落ちこぼれ”訓練生、ハシカミーズ

Clause 1.2024年9月11日 日本・西京都 ホープ・アカデミー日本校

Episode 70 - ホープ・アカデミー

 極東の日出る国、日本。

 国際協調とは少し異なる独自の文化を歩んできたこの国も、今では急成長を果たし、東アジア圏随一の技術大国として知られるようになった。

 世界ルカリシアに20のみ存在する〈ホープ・アカデミー〉が、その首都・西京都に設立されたことが、この国の救命活動に関する姿勢を色濃く示している。

 西京湾に広がる、広大な海上浮遊式基礎フロートには、全校生徒1,000名あまりと、幾多の教師や彼らを支えるスタッフが生活を共にし、次世代の威療士を輩出する教育機関としての役割を担っていた。

 楕円を主軸とするフロート群の連なりに、国花をモチーフとしたカラーリングと配置。シチュエーション次第で“散る”姿も再現できることから、ここ日本校は、別名“サクラ・アカデミー”として世界的な知名度を誇っている。

 そして各国にあるアカデミーの中で随一の多様性を持つ訓練設備が、アカデミー日本校における最大の特徴だ。

 想定されうるあらゆる救命・涙幽者出現のシチュエーションを再現可能な、通称〈時の大地〉システムは、とある天才発明家による画期的な状況再現機能であり、このシステムを利用すべく、各国から訓練生や現役の威療士までもがひっきりなしに訪れるようになって久しい。

 そんな〈ホープ・アカデミー〉日本校の一角、〈時の大地〉が展開可能な訓練フィールドの1区画である『B地区』では、今日も威療士の卵たちが過酷な訓練に邁進していた――。


 †    †   †


「――エリアB-67に涙幽者出現の通報! ハシカミーズ、アザガミ、ショウノウ。行けるな?」

「おっしゃあっ! いっちょ派手に行きますかぁ!」

「お兄ちゃん、落ちついてっ! テンションの出し方、そこじゃないよ?! あと、アツタ教官、その“ハシカミーズ”は恥ずかしいですっ」

「了解しました、教官。すぐに出動します。勇義ユウキ一季カズキちゃん、テッド、頑張ろうね」

「フッ。安心してくれ、マイ・ダーリン一季。キミの絹のような肌には、傷ひとつ、付けさせやしないからな。そして、第79期生首席卒業間違いなしのこの正能ショウノウテッド様に〈ドレスコード〉されることを光栄に思うがいい、泣き虫ども! ククックッ」

「テッド、一季ちゃん、引いてるけど?」

「チッチッチ、阿座上アザガミ。女心がわかってないな。感激のあまり言葉を失っているのだよ、マイ・ダーリンは」

「おいこのロリコン! 毎度毎度オレの妹に色目つかってんじゃねえ!」

「フッ。よく吠えるな、お義兄様」

「だれがオマエの兄だ――」

「――貴様らいい加減にしろッ!! さっさと用意せんかッ!」

「「「「はい!」」」」

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