第2話

 アパートに帰り着いて、早速袋から出してコンセントに挿す。

前面の1か所に、さっきは気づかなかった小さな明かりが点灯する。

赤色ということは昔のガラケーとかと一緒で、緑色になると充電完了ということか。

中古品らしく、保証書は当たり前として取り扱い説明書もついていない。

だけど、つくりはシンプルだし、簡単に使いこなせるだろうと思った。


 充電が終わるまで、友人と電話して時間をつぶした。

「明日、遊びに行こう」

とりとめのない話のあとに遊ぶ約束をして、待ち合わせ場所と時間を決めて電話を切った。

ふと見ると、ランプが緑色に変わっていた。

コンセントからはずし、懐中電灯をつけてみる。

思ったとおりの場所がスイッチだったし、ちゃんと点灯した。


 明るさも、十分だった。

ラジオも思ったとおり、ダイヤル状のものがスイッチと選局とを兼ねていた。

アンテナを伸ばすとちゃんと受信するし、目立たなかったけれど音量調整用のスライドバーもあった。


 ひととおりの動作は確認できた。

値段から考えたら、十分お値打ちと思われた。

満足して、コンセントに挿しなおした。

小さく緑色のランプが点灯した。


 翌日、友人と遊ぶために待ち合わせ場所に行った。

ちょっと早く着いたらしく、友人はまだ来ていない。

仕方がないのでスマホを見て時間をつぶしていたら、急に声をかけられた。

「こんにちは!」

誰か知り合いでも来たのか?と顔をあげると、友人ではない知らない誰かが立っていた。


 「こんにちは」

とりあえず、挨拶を返す。

「あ、わかりませんか?昨日はありがとうございました」

「昨日?」

なにか誰かに感謝されるようなことをしただろうか?

「ラジオ、買ってくださったじゃないですか」

思い出した。

昨日レジのところにいた店員さんだ。

制服着てないから、わからなかった。


 「あ、リサイクルショップの」

「そうです。あ、昨日のお品はどうでしたか?不具合はなかったでしょうか?」

「ええ。まだちょっと試しただけだけど、無事に動くみたいです」

「よかった。ところで今日は、何してられるんですか?」

───なんだ?ほぼ初対面なのに、そんなの聞かれる筋合いないと思うけど?


 「あ。まあちょっと」

そう言ったところに“遅れた!ごめん”と友人が走ってきた。

「今からこいつと遊ぶんです。じゃ」

その場を離れて歩いていくときに、また視線を感じた気がした。

 

 「あれ、誰?」

歩きながら友人が聞いてきた。

「昨日買い物したリサイクルショップの店員。ちょうどおもしろそうなモノ品出ししてて。結局それ買ったんだけど、レジ打ってくれたのもあの店員」

「ふうん」

「どうかした?」

「いや、気のせいかもしれないんだけど、さっき待ち合わせ場所で会った時に、にらまれたような気がしたんだよね。一瞬だったから気のせいかもだけど」

「にらむとか、ないっしょ?知らない人相手に、さ」


 ゲーセン行って、雑貨屋と百円ショップ巡って、美味しいと別の友人が話していた店でソフトクリーム食べて、夕方すぎに友人と別れて帰途についた。

最寄り駅で電車を待っているときに、反対側のホームにあの店員の姿を見かけたような気がした。


 何事もなく数日が過ぎた。

その日はバイトが入っていた。

本屋のバイト。

本が好きだから勤まるけれど、思っていた以上に重労働だ。

働き始めるまで、こんな内情とは知らなかった。


 本来のシフトとは違う日だったけれど、昨夜店長から電話があって、急遽勤務が入ったのだ。

今日は新刊が入荷したので、仕事はそれらを書架に並べていくこと。

ラックに積んだ本の山を、先輩が所定の位置に置いていく。

それを既存の本と入れ替えながら、並べていくのだ。


 雑誌にマンガ、文芸書。

今日の入荷が参考書や問題集じゃなくて、よかった。

いくら自分はもう見なくていいと判っていても、やっぱりあのジャンルは苦手だ。

黙々と並べていく。


 「あのぉ。探してる本があるんですけど」

背後から、声が聞こえた。

「いらっしゃいませ。どの本をお探しですか?」

答えながら振り返る。


 そこには、あの店員が立っていた。

なにやらスマホを操作している。

やがてスマホの画面を見せてきた。

「この本、ありますか?」

それは、ちかごろ話題になっている本で、ついさっき陳列棚に並べた本だった。

「それでしたら、こちらにございます」

案内しようとした。


 「あれ?えぇ!ここで働かれてたんですか?」

その客がびっくりしたような声を出した。

「え?」

「前に、お店に来てくれた人ですよね?リサイクルショップ。ラジオを買いに」

「え?ええ。そうです」

「うわ~偶然ってすごい。ここの本屋って滅多に来ないんですよ。そんなとこで会うなんて」


 返答に困る。

とりあえず書棚に誘導し、本の場所を示した。

「先ほどの本でしたら、こちらです」

「ああ。ありがとうございます」

にっこりと笑う。

仕事に戻るためにその場を離れ、ひと通り並べ終わったあとにさっき教えた書棚の前を通った。


 本は一冊も減っていなかった。



 


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