ラジオ

奈那美

第1話

 ラジオを買った。

最近できた近所のリサイクルショップで、だ。

はじめは、ラジオなんか買うつもりはなかった。

ラジオが聴きたいなら、PCでもスマホでも聴ける。

いつでもどこでも、どんな地域の放送もネットで聞ける時代になった現在いま、電波が受信できる範囲の放送しか聴かれないラジオなんて、持っている意味がない。

そう思っていたからだ。


 “災害発生時には、携帯ラジオが便利です”

そんな広報が流れていることも、知っていた。

(持っといた方がいいのか?)そう考えないこともなかったが、ついつい先延ばしにしてしまっていた。

それが今日、たまたま店を覗いてみたら面白い商品を見つけたのだ。

見つけたというか、ちょうど店員が品出しをしているところを通ったんだ。


 “ラジオ付き懐中電灯(LED)” 

一台だけ展示してあったそれを、手に取ってみた。

「お客様。そちらは今出したばかりの商品でございます。よろしかったらどうぞ」

そう言って店員はにっこりと笑った。


 スマホの三分の二ほどの大きさで厚みは倍。

直方体といった形だ。

面積が一番狭い面の片側の半分に透明なカバーがはめてある。

中には小さな電球が設置されている。

カバーの下が押せるようになっているから、これで電球のON/OFFをするのだろう。

その反対側の面には、かどのほうに周囲がギザギザのダイヤル状のものがついているから、おそらくこれはラジオ用。


 いちばん広い面の片面には長方形の小窓が開いている。

透明なカバーがかかっていて、赤い棒が中にはめ込んであるようだ。

小窓のほかの部分には、小さな穴がたくさん円状に開いている。

おそらくはスピーカーなのだろう。

その反対側の面には、何もない。

四隅が小さなねじで止めてあるから、きっと裏ぶただ。


 中くらいの面の片側には、細い可動式のアンテナがついている。

伸ばして使うらしい。

そして最後の一面の、ライトから一番離れた部分には収納式のプラグがついていた。

これをコンセントに挿して充電し、何かあった時は懐中電灯として使えるし、ラジオとしても使えるということだろう。


 (ラジオなんかいらないけどな)そう思ったけれど、アパートの部屋には懐中電灯もないから保険の一種と思って購入を決めた。

───スマホを懐中電灯代わりにしたら、電池すぐ減りそうだしな。

他にも何か珍しい商品はないかと思って、ラジオを持ったまま店内を見て回った。

途中、なにか視線を感じたので(店員が万引き防止で見てるのか?)と思い、レジ近くの店内カゴにラジオを入れなおし、さらに店内を見て回った。

けれど、他には取り立てて目を引くようなものはなく、ラジオだけが入ったカゴを持ってレジにむかった。


 「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」

マニュアル通りの言葉を店員が言う。

さっきこの品を勧めてくれた店員だ。

ふうん、さっきは気づかなかったけど、結構キレイだな。


 「こちら、返品不可の商品となっていますが、よろしいですか?」

店員が聞いてきた。

店頭に出す前に動作確認をおこなっているので、購入後の故障は自己責任で引き取れないというシステムだそうだ。

それで構わない旨を伝えると、店員は購入手続きを始めた


 「商品をお預かりいたします。こちら五百円でございます。よろしかったら、メンバーズカードをお作りしましょうか?」

勧められるままに申込用紙に必要事項を記入して渡す。

そして代金を渡し、商品とカードをを受け取る。

袋を持って、帰路についた。


 ───店を出るときに、また視線を感じたような気がした。






 






 

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