第4話 三人の関係


慌てて駆け寄り、彩音の手を外した。



「彩音!何してるんだ!殺す気なのか!?」



しかし、彩音は僕に振り向くと、カッターシャツの首元を握り、ぎりぎりと絞める。



「う……ぐ……」


何も言葉が出ない。

支倉は笑う。


「清川さんは首を絞めるのが好きなの。自分の首も絞めるんだよ。悪い嗜癖しへきだよね」



だが彩音はひとこと、


「黙れリスカ女」


とだけ怒鳴りつけると、僕に向き直っていった。


「あなたは、業界調査をしていなさい。こいつに構う必要はないの。窓ガラスの外なんて気にせず、ただ黙って業界調査、インターンシップ、就活してればいいの。わかる?」



僕は反論したかったがそんなことが許される雰囲気ではなかった。彩音の怒りは僕に向いていた。


目の前がチカチカしてきたころ、彩音は手を放す。加減を知っているあたり、本当に自らの首を絞める嗜癖があるのだろうか。


僕は暑さと酸欠と、道路の騒音と、セミの鳴き声と、インターンシップと就活と……何もかもで辟易へきえきして、そして“結衣”をみた。


彼女は病んでいる。それは高校のころから知っていたことだ。だが今、目の前に現れた彼女は、過去の、不安定な精神を持つ同情されるべき相手ではなく、“狂気の人”になっていた。


「結衣……」


「久しぶりに名前を呼んでくれた」



そういうとうっとりと嬉しそうに結衣は表情をほころばす。


どこからともなくわいてきた罪悪感に突き動かされ、僕は現実から逃げるように結衣の手を取って走り出した。


「隼斗!」



後ろから叫び声が聞こえるが、無視して走り出した。


僕はもう何もかも嫌だった。



ずっと、


今のままで停滞していたいと思っていた。




──――大人になりたくない。




結衣と走り続けたが、結局財布までも鞄に入れっぱなしで置いてきてしまい、行き先は家か大学くらいしかない。


「僕は就活なんてしたくない!もう現実なんて嫌なんだ!結衣だってそうだろう?未来なんて欲しくないんだ!あの図書館のように涼しくて夢のようで、穏やかな世界が好きだった。就職なんてどうでもよかった。未来なんていらないんだ」


「あはは、そうだね。私たちだけの世界にずっといたい。いつまでも私たちだけで幸せ。他には何もいらない」


結衣は喜んでいた。

心が繋がったかと思った。

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