戦が私から奪ったモノ

ゆる弥

戦が私から奪ったモノ

「ただいま」


 そこは見慣れた古い屋敷。

 屋敷の扉を開けると、出迎えてくれたのは妻だった。


 涙を流して抱き合い、長年の戦から戻った俺を温かく迎えてくれた。その後ろには記憶より遥かに大きい息子。


 一番見たかった赤子からの成長する姿を見る機会を、戦が奪っていった。その戦で私は、誰かの親を殺し、子から奪って来たわけなのだが。


 その事は今は置いておきたい。

 私は国のために魔法と剣閃が飛び交う戦場を生き抜いてきた。


「その人が、お父さん?」


 恐る恐る言葉を紡いだ息子は、私を見上げながら隠れた。

 

 なんと可愛い息子。今まで、片時も忘れたことがなかった。胸が熱くなると共に、目から熱いものが込み上げてくる。


「そうだよ? アルのお父さんだよ?」


 私は、腰を落として手を広げて息子を迎え入れた。

 すると、妻は涙を流し始め、息子は首を傾げた。


「お母さん、アルってだれ? この人本当にお父さんなの?」


 長年の戦いは私の頭から息子の記憶を奪ったのだ。

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