第7話 個人実習1
2日かけて今後のスケジュールを計画したエルザは、次なる任務を控えたその前日にマナミアを自室に呼び出していた。
計画自体はいたってシンプル。
明日から3日連続で、マナミア、カナン、グスタフの順で任務をこなしていく。
エルザとの2人組であるということがミソである。
それぞれの適正や戦闘スタイルに合わせて、より細かい部分で立ち回ることでより戦術への理解を深めさせることが目的だ。
その第一弾がマナミアである。
「言ってた通り、明日からは俺と2人組で任務にあたってもらう」
「うん。でもなんで私だけなの?」
デスクの椅子に座るエルザと、ベッドに腰掛けるマナミア。
呼び出すなら全員のほうが効率的なのでは?と眼で問いかけられたエルザは早速本題に入る。
「グスタフとカナンは戦場で教えていくが、マナミアに関しては戦いが始まる前から準備しておく必要がある立場にある。つまりはオペレーターとしての経験を積ませたい」
「うん」
「狙いはもう一つあって、このアセンションにはオペレーターを担える人材が極端に少ない。ゆえに明確化されたマニュアルがないのが現状だ。だからマナミアを成功例として報告したい。」
「・・・。なんで報告するの?」
「裏事情的な話にはなるが、設備購入の時にどこにどう使うかというのもポイントになってくる。このご時世資材は有限だからな。だからマナミアを成功例としてチームの設備拡張を推し進めていきたいというのが俺の考えだ」
「うん。わかった」
(やっぱりマナミアへはこういう言い回しの方がいいな)
この場で改めて一対一の話し合いをしてエルザはマナミアの性格と判断基準を把握する。
マナミアはチーム内で一番頭が良い。知能指数が高いというのが正確な表現である。
大抵のことは理解した上で答え合わせの意味で質問をしてきている。
加えてマナミアは効率的、合理的であるかどうかという判断基準を持っている。
先ほど、グスタフとカナンを呼んでいないのはなぜかと問うたのもここに起因するものだ。
であれば、説明するにしても納得させるにしても、効率的、合理的な部分を押し出すことが早い。
オペレーターという役職の性質上、この点も重要になってくる。
戦場では時に非情な判断を下さねばならないときもある。一人を犠牲にチームを生還させるなど。
心を殺せとまでは言えないが、やはり最適解を叩き出せるのは、効率と合理を重視する感覚である。
「ということで、今回の演習の中身は任務を知るところから始めて、限られた人員の中で遂行できるだけのプランを立案し共有。実戦の中で適宜修正をかけつつ、戦闘員に的確な指示を飛ばすことだ」
「うん」
「そんで、あまり時間がないが任務完了までの期日は明日の夜までとする。詳細はマナミアのメールに転送してあるから確認してくれ。ちなみに俺はまともに中身を見ていない」
「分かった。じゃあ準備してくるね」
流石は効率重視のマナミア。
自身のやるべきことを把握したうえで、質問する事すら今回の件に関してはしない方が良いと判断したのだろう。
早速エルザの部屋を去っていった。
(メールの中身で驚くかもな)
マナミアが説明を求めなかったためあえて言わなかったが、任務の中身はエルザへの指名任務であった。
指名任務とはその名のとおり、アセンションから個人へ直接依頼される任務の事。
その中身は多岐に渡る。表題を見て霊魔討伐だと判断できたためマナミアに投げたが。
「特級でないことだけ祈ろう」
唯一の懸念は討伐対象の階級である。
リーダーであるエルザに指名任務が来た以上、下級霊魔討伐ということはまずありえない。
であれば必然的に、上級か特級かのどちらかになる。
確率は2分の1だと祈るエルザだが、特級と戦える強さは持っている。
ただ純粋に戦いたくないのだ。あのいくつ命があっても安心できないような敵とは。
【明日10:00に出撃ゲートに集合。詳細はそこで】
【了解】
電子端末にマナミアからのメッセージが入る。
明日が少し憂鬱になったエルザであった。
念入りに装備の手入れを行った翌日。
いつもより気合の入ったエルザが慣れたアセンションリング外の住人からの視線を感じつつ出撃ゲートを目指していた。
目線の先にはすでに自分たちのハンヴィーがスタンバイしていた。
時刻は9時45分。定刻より15分早いがマナミアは既に行動していたようだ。
エルザの接近に気づいたのだろう。運転席からマナミアが下りてきた。
「おはよ」
「おはよう。準備がいいな」
「エルザなら15分前にはくるだろうと思ってた」
「やるな」
やりとりをしながらエルザはわしゃわしゃとマナミアの頭を撫でてやる。
えへへとはにかむマナミアは非常に可愛いらしい。
これが見たいために頭をなでていることはエルザは否定しない。あと撫でやすい位置に頭があるのも悪い。
「移動しよ。ちょっと遠いから詳細は走りながら話すね」
「了解だ」
今回の指揮権はマナミアが持っている。それは双方承知していることで、エルザもよほどのことが無い限り口を出さないと決めている。
マナミアは運転席に、エルザは助手席に乗り込んだ。
雄々しいエンジン音と共に2人を乗せたハンヴィーはアーコロジーの外へと飛び出していった。
「ブリーフィングをするね。今回の討伐対象は上級霊魔1体。場所はここから25km先の森林地帯」
(上級か、一安心だ)
特級と戦うつもりでいたエルザは気づかれないように安堵する。
「該当霊魔を発見したのは資材回収をしていた小隊なんだけど、発見っていうと少し語弊があるかな」
「どういうことだ?」
「資材回収に向かった小隊は5人で生還したのは1人なの。でもその1人は霊魔の姿を見ていないって報告がされてるの」
「ほぉ・・・?死体も無しか?」
「うん。見つかってない。でも観測レーダーではしっかりと霊魔の反応があるっていう状況なの」
「なるほどなぁ」
相槌を打ったエルザだが、特に何かが分かったわけではない。
「状況が不透明なのと余計な被害を生まない為に単騎での討伐をアセンションは指針としたみたいだね。それと当該霊魔は森林地帯から動かないことから得物を待ち伏せる知能を有している可能性があるっていう補足もあったね」
最後の方は言い切りにならないのは、アセンションから提供された情報であることとマナミア自身、霊魔に対する知識と経験が足りていないからだろう。
だがマナミアの内面を鑑みれば必要であるだろうから伝えているということなのだろう。
数を投入するリスクが高いため、エルザに指名任務が来た。それだけの話であろう。
ここ最近は指名任務がなかったエルザにあとはお任せ。といった構図だろうか。
(厄介な案件だから報酬も良さそうだしな)
このレベルの任務であれば過去いくつもこなしてきたエルザにとってさほど脅威を感じない。
かといって油断していいわけでもないが。
ハンヴィーは問題なく走行していき、周囲の景色も人工物から自然が目立つようになってきた。
「話は変わるが、マナミアは今後投資していく設備は何がいいと思う?」
「個人的にはマシンウォーリアとドローンの拡張パーツかな。あとは支援要請用のマーカー」
「まぁそんなとこだよなー」
「オペレーター育成の実績ができたらオペレーションルームも欲しいなー」
「わかるー」
エルザとマナミアのビジョンは非常に似ている。
現状オペレーターごとハンヴィーで移動しているため、有事の際は連携が乱れる可能性が高い。
最終的にはマナミアはアセンションから指示を飛ばし、マシンウォーリア等を操作するのが理想的である。
(そこを目指すんだったら、もう一人人材がいるな)
エルザ、グスタフ、カナンの3人でハンヴィーを運用しながらだと、どうにも人手不足を感じてしまう。
マナミアレベルは要求しないが、ある程度機械に強く戦闘もこなせる人材がいればチームとして円滑にすすんでいくだろう。
そんな人材そうそう見つかるわけもないが。
(目先としては設備の拡充だな)
指名任務の報酬相場を思い出し、予算組みをするエルザ。
今度グスタフとカナンにも欲しいものを聞いておくことを頭の片隅においた。
「もうそろそろだよ」
武装の最終チェックをしているエルザにマナミアが声をかける。
エルザが顔を上げると鬱蒼とした森が目の前に広がっていた。
標高は600mほどでそう高くはないが、木々の一つ一つが盛大に育っている為膨張してみえる。
人の管理を離れた自然がそこにはあった。
「情報の通りずっとここに留まっているみたいだね」
車内の観測レーダーを確認するのはマナミア。
今回の頭脳は彼女である。だからエルザは指示を待つ。
「まずは情報収集だよ。交戦じゃなくて偵察を行う事」
「了解だ」
「エルザと私のマシンウォーリア2機で3方向に展開。霊魔を確認したら一旦下がること。エルザの場合、霊魔を抑えられるなら戦闘に入ってもいいよ」
「あぁ」
「作戦の指針は以上。じゃインカムつけて」
マナミアの指示を記憶したエルザはインカムを装着してハンヴィーから降りる。
それにマシンウォーリア2機も続く。
【状況開始】
インカム越しにマナミアが作戦開始の合図を告げる。
機敏な動きでマシンウォーリア2機が森の中へ侵入していく。
エルザもそれに続く。
森の中は薄暗く昼時にも関わらず少し肌寒い。
湿度も高く地面や飛び出している岩が湿って足場も悪い。
山道などという優しい道ではなく、まさに獣道。進めど進めど上りの傾斜が続く。
マシンウォーリアたちは既に散開しておりエルザは一人警戒しながら歩みを進めていく。
(音もなく消えた4人の霊魔殲滅師か。レベルが低かったのか、霊魔が想定以上に厄介なのか・・・。)
マナミアからのブリーフィングを頭の中で振り返る。
痕跡が見つからないというのが最大の難所であることは明白。
遺体がないことも踏まえると、連れ去られたという可能性が高くなる。
1人だけ生還したのも新たな贄を呼び込むための作戦かもしれない。
計画性が垣間見える時点で上級霊魔としてはかなり高レベルな位置づけだろう。
「動きはあるか」
【今のところ何もないよ】
索敵中のマシンウォーリア2機も収穫はない。
(長期戦となれば、こちらが消耗していく一方だ。マシンウォーリア2機も活動時間に限りがある。俺自身も集中力が満たされているこの時間で少なくとも接敵しておきたい)
「マナミア。現場判断での提案だ。多少のリスクはあるが、俺が霊気を広範囲に展開して揺さぶりをかけたい。許可をくれ」
こういった場合の対処方法の一つとして、霊気で釣り出すというものがある。
高確率で霊魔になんらかの動きを起こさせることができるが、反面アクティブになった霊魔が強襲してくる可能性もある。
格上が強襲してきた場合はたまったものではないが、エルザは経験から今回の霊魔は己より格下であると判断した。
【いいよ】
一拍置いた後マナミアから短い返事があった。
「了解」
マナミアも長期戦は避けたいという考えがあるのは想像に難くない。
指揮官から許可を得たエルザは即座に行動に移す。
両腕を左右に大きく広げ霊気を展開。薄暗い空間でなお闇夜のような黒さがエルザを覆っていく。
そこから緻密なコントロールで掌に霊気を収束させていく。
一個所に固められた霊気は膨張していき、巨大な球体を形成する。
霊気で霊魔を釣り出すことのデメリットは霊気消費が大きいことも挙げられる。
効果範囲を広げるほど、消費が大きくなるのはもちろんだが、消費した直後に戦闘になると不利な状態から立ち回らなければならなくなる。
故に基本的には複数人で行動しているときがリスク低減になるが、細かいことは言ってられない。
(さてどうなる)
エルザは膨張し肥大化した己の霊気を開放する。
開放された霊魔はまるで波のように360度に広がっていく。
半径1kmを対象範囲とした霊気の波はさらに空間を暗くする。
音もなく物理的な衝撃もなく拡散した霊気はしばらく揺蕩っていたが、徐々に薄くなりやがて消えた。
【今何か通り過ぎていった気がするっ!】
マナミアが声を荒げ、にわかに緊張が走る。
「どっちだッ」
【エルザの右手側!】
「マナミア。少しの間喋るなよ」
エルザは体を右へ90度向け臨戦態勢をとり、霊気を鼓膜に展開し集音性能を向上させた。
空気の流れる音や葉がこすれる音など、普段であれば絶対に聞こえることのない音たちがエルザの聴覚を満たす。
この状態でインカムから音が漏れると鼓膜がお釈迦になるため、マナミアには喋らないように伝えた。
ありとあらゆる音が聞こえているため、情報過多にはなるが、だからこそ不自然な音はかなり目立つ。
ずり・・・すり・・・
(・・・?)
今の状態にあってなお聞き逃しそうなほどに小さなノイズをエルザが捉える。
意識的にそのノイズを拾っていくと、自身の周囲から聞こえてくることに気づく。
(すでに囲まれているのか・・・!)
エルザとて慢心している自覚はない。ここまで容易に接近を許したのはかなり久しぶりのことだ。
先のチームが壊滅したのも頷けてしまう。
鼓膜に展開した霊気を解除したエルザは、どこから襲撃されてもいいようにしきりに首を振って辺りを観察する。
「こちらエルザ、霊魔に囲まれている。余剰戦力を回してほしい」
【了解。哨戒用に1機残したいから、1機を援護に向かわせるね】
「助かる」
状況はあっという間に悪くなった。
霊魔に補足され、対するエルザ、マナミアは相手の姿すらまともに視認できていない。
ステルス性に長けた敵を前にして有効打を模索するも良い案が浮かばない。
(その辺全部切り飛ばすか・・・?)
この森の地形が霊魔に有利に働きすぎている。であれば更地に変えてしまえば地の利は平等にすることができる。
【援軍到着だよ】
エルザが逡巡していると、犬型マシンウォーリアが木々の間を駆け抜けてきた。
(そういやこいつって救助活動も想定してたよな)
久しぶりに間近でそれを見たエルザの脳は、初実戦の時にマナミアが言ったセリフを思い出した。
「こいつってサーチライトみたいな機能もあるのか?」
【あるよ】
「多機能って素晴らしいな。周囲を照らしてくれ」
なぜ他の霊魔討伐士は導入を渋っているのか。と疑問に思うエルザ。
普段はグリーンに光っている犬型マシンウォーリアの眼がパッとさながら車のハイビームに切り替わる。
お座りの状態のまま首を振って光を当てていく様子は、どこか愛くるしさを演出している。
「待て。今のところ映してくれ」
ライトが次の場所を映しかけたその端に妙なものが映り込んだ。
「そう。そこだ」
ライトが照らすのは木と木の間。枝と枝が交差する場所。
「なんだ・・・?」
薄暗い空間のせいで境界が曖昧だが、チューブのようなものが枝から枝へと渡っている。
木々のように自然なうねりがなく、一本に見えたのがエルザが抱いた違和感だ。
その見た目と雰囲気から霊魔の一部であることは特定できるが、全体像がわからない。
【高い隠密性と形状、前回の報告内容を照らし合わせると霊魔の正体は___】
マナミアが即座に情報統合を行い、霊魔のベースとなる生物を突き止めかけた瞬間。
ギュンッ!とチューブが加速した。
その勢いで木々の葉がこする音が大きくなる。
それに合わせるような形でエルザの思考も加速する。
(今見てるのは明らかに頭部じゃない。てことは後ろだろ!)
数々の経験と持ち前の柔軟さで体制を崩すことなく真後ろを振り返ったエルザは、
「やっば」
眼前で大口を開けて迫りくる霊魔のそのサイズに面食らう。
縦に割けた口には黒い歯がびっしりと生えており、人ひとりを丸のみしてなお余裕があるほどに開かれている。チューブのように見えていたのは尻尾の部分だろう。
手足はなく、這うという移動を行うその霊魔はすさまじいスピードでエルザを食らわんとしていた。
その正体は蛇。しかも特大サイズ。
【エルザ!】
マナミアが叫ぶも時すでに遅し。
エルザの姿は霊魔によって連れ去られ見えなくなっていた。
「焦るな!マシンウォーリア2機で追跡しろ!」
最悪を想像したのは一瞬。
回避不可能と判断したエルザは小太刀を抜刀。即座に霊気を展開。霊魔の上顎に突き立て、下顎に霊気を展開した脚で乗り丸呑みにされるのを耐えていた。
新人が指示を飛ばすのは無理な状況である。とも判断したエルザは今回の趣旨は置いておくことにした。
(簡単には抜けれないか)
霊魔は木々が生い茂る自然の中をかなりのスピードで這って進んでいる。
視界は真っ黒で周囲の様子はわからないが、背中に受ける風圧で感じ取ることができる。
おまけに霊魔も顎に入れる力を強くしてきているため、下手に動くと黒い歯の餌食になりかねない。
(前回部隊もこうやって仕留めたんだろうな)
静穏性と隠密性で一人一人呑み込んでいったのだろう。
元来の蛇にはない歯で咀嚼でもしたか。
霊魔にとって霊気はエネルギー源そのものである。
霊魔は放っておいても消滅することはないが、霊気を持った存在を食らうことでさらなる脅威になると判明している。
隙だらけの霊魔討伐士など、格好のエサであろう。
「生き残りの顔は知らんが仇は取らせてもらう・・・!」
情に厚い側面もあるエルザは、わけもわからず死んでいった者たちと残された者を想像しふつふつと怒りを見せる。
エルザの真骨頂は小太刀や人心掌握ではなく、自在な霊気操作である。
(まずはこいつの動きを止める)
既に小太刀と両足に展開した霊気を操作する。
両足の霊気を帯状に伸ばし、霊魔の下顎と自身を固定したエルザは、次に小太刀の霊気を操作。
まるで人間の手のように形成し霊魔の上顎を押し返す。
最所は拮抗した力であったが、エルザが霊気の出力をあげたことにより、徐々に上顎が上へ開かれていく。
パワーバランスが傾き片腕が使えるようになったエルザは後ろ腰の拳銃で霊魔の口内から体内へ向けて霊気の弾を撃ち込む。
それなりのダメージが入ったのか、悶えるようにうねる霊魔だが、さすが上級というべきかスピードと力は落ちない。
「もらい続けるのも癪だろ?」
2発3発と発砲するエルザは霊魔を煽っていた。
それが通じたのか今まで存在感のなかった霊魔の舌がエルザの腹部めがけて刺突の如き勢いで繰り出された。
「お前にできるのはこんくらいだろ」
人心掌握の延長線である行動予測はエルザの得意とするところである。
舌による攻撃を予測していたエルザは、霊気を腹部に展開してノーダメージで受け止めた。
さらにそこから霊気を剣山状に操作。複数の細い針が霊魔の舌を貫通する。
流石にこれは堪えたのかエルザにかかる力が急激に弱まった。
その隙を見逃すエルザではなく、即座に上顎と下顎を小太刀で切り落とし見事に脱出を成功させる。
スピードによる衝撃は地面を転がることで殺したエルザは右手に小太刀、左手に拳銃という構えをとる。
「で?ステルスに特化したお前が正面から戦う術があるのか?」
エルザを強襲してから今までの流れはすべて裏をかく攻撃が全てであった。
一手一手の攻撃力は低いが、無防備な相手に浴びせることでダメージが期待できるものだ。
悶えのたうち回る霊魔に下手に近づくことはしないエルザ。
これがアナコンダだとか生き物であるならばさっさと脳天を一突きして仕留めるところであるが、相手は未知の部分が多い存在。
隠し玉の1つや2つあると想定するべきだ。
ここでようやく霊魔の全体像が見える。
「ほんとバカみたいなサイズだな」
エルザの視界に収まっているのは頭部と首にあたる部分だけだ。胴体と尻尾については森の中へと伸びており終点が分からない。
【エルザ大丈夫!?】
油断なく構えるエルザの両脇に犬型マシンウォーリアが到着した。
(銃声を追えたようだな)
そう指示をするかどうかで結局しないことにしたエルザであったが、追跡を完遂させたマナミアを内心褒めていた。
初見の状況の中で手掛かりを取りこぼさない力はオペレーターにとって必要不可欠である。
「大丈夫、無傷だ」
【流石だね】
「人間なれるもんさ。さて、とっちらかってしまったがマナミア。こっからどうするか指示をくれ」
エルザは流れてしまっていた今回の趣旨を戻し、マナミアに指揮権を渡す。
【一番手は研究材料としてこの場で無力化。拘束することなんだけど、できそう?】
「可能だ。こっちの方が報酬も上乗せされるし、それでいこう」
【了解。回収班は手配するね】
「なるべく早く来るように伝えてくれ。結構霊気を無駄遣いしちまった」
【わかった】
索敵時の消耗が無視できない。感覚的にまだ余裕はあるが、回収班の到着が遅れると霊気が足りなくなる可能性がある。
(欠乏症にはなりたくないしな)
「さて、お前に這う以外の移動手段はないだろ」
エルザは霊気を展開したままの小太刀をそのまま地面に突き刺した。
すると少し間が空いて、ザクッ!!と地面から槍状の霊気がいくつも飛び出し霊魔を貫き中空へ固定する。
【こんなこともできるんだね】
「霊気を応用することを忘れるな。だ」
どうしても一度に霊魔の全身を固定することはできないため、数回にわけて同様の作業を完了させたエルザは念のためひも状の霊気を数本生成し、木と霊魔を繋いでおいた。
【エルザは休んでて。私は記録用の映像とか撮るから】
「了解」
大して疲れていないエルザであるが、もうやることもないのも事実。
あとはマナミアに任せることにし、手近な木を背もたれにして座ることにした。
回収班が到着したのはそれから20分後であった。
現場引継ぎを手短に済ませたエルザは、マナミアの運転するハンヴィーでアーコロジーへと帰投した。
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