第3話 良くはないライバル
早歩きでさっさと事務局についたエルザは、必要書類を受け取って面倒な手続きを開始する。
爆速で必要事項を書き上げたエルザは事務局のスタッフに書類を提出し、いくつかお願い事をした。
「掛け合ってみます。それと正式にチームとして登録されるのは明日からですので、この点はご注意ください」
「わかりました。よろしく頼みます」
即日登録であろうとチームで仕事が出来るようになるのはもう少し先のことなので、大した問題にはならない。
ともあれ手続きはこれで完了だ。あとは事務局が勝手にやってくれる。
まだ時間が15:00前くらいなので、用事を作ってもいいな。などと思いつつエルザは事務局を後にする。
(うわ)
振り返りざま、視界に入った人物でエルザは思わず足を止めた。
「ふん。お前もチームが決まったみたいだな」
第一声からケンカ腰の男の名はカイル。エルザと同期で、同じく隊長権限を同時期に獲得した優秀さを持つ。
身長は165cmとやや小柄で、切れ長な青い眼と白い肌に白い髪。第一印象からして白い。
だがその体は鍛え抜かれていることは衣服越しでも分かる。
「ここに来たってことはお前も決まったのか。チーム」
互いに名前で呼ばない二人。同時期に隊長権限を獲得した両者は周りから比較対象とされてきたせいで仲良くする気がない。
ただ根本的に嫌っていないので必要最低限の会話は行っている。
「あぁ。俺のチームも粒ぞろいだ」
「てことは、さっきの場にいたな」
「あんだけ目立っていれば嫌でも情報は回るさ」
「だよな。ま、機会があればメンツにも合わせてくれ」
社交辞令ともとれる会話を交わした二人は、そのまま別れる。
(カイルのチームか。どんな感じか気になるな)
カイルの優秀さを認めているエルザは、彼が結成したチームのことが気になりつつも、自身のチームでやるべきことを整理するために自室に戻ることにした。
自室に戻ったエルザはカタ、カタカタと、軽快にではないがキーボードを叩いていく。
PC画面には消化していきたい事項が羅列されている。
最優先事項は、連携力の強化、個の強化。次いで資材投資だ。
(連携と個は訓練と実戦を重ねれば自然と強まってくるが、問題は資材だな)
何よりも金がかかる資材投資については、資金の調達をどうするかを考えていかなくてはならない。
割の良い仕事がゴロゴロ転がっていれば話は早いが、現実はそうではない。
飯をおごるくらいには余裕はあるが、高額な資材をポンポン買える余裕はない。
(地道に仕事をこなしていくしかないか)
投資先としてはマナミアを考えながら、チーム運営の難しさを早速実感するエルザ。
「うーん」
エルザは座っている椅子の背もたれにのけ反りながら腕を組む。
「あ。あいつらが持ってる武器とかも知らねぇや」
しまった。とエルザは舌打ちする。
「わざわざ呼び出すのは手間だし。メールで済ますか」
グスタフ、カナン、マナミアに自身で所有している武器をリストアップするようにメールで指示を出す。
それに付随する形で、正式にチームとして認められるのは明日からだが、即実戦はアホのすることなんで明日からは実戦を想定した演習を行うこと。
という点も伝えておいた。
この演習は仮想空間ではない。
アーコロジーの地下に広がる空間には演習場がある。それを可能な限り連日使用したい。お願い事その1がこれだ
(あいつらはまだ霊魔討伐士になって半年だよな・・・)
何を前提に教えていくかというところが悩みどころである。
(無難に基礎の基礎から教えて、あとはアドリブだな。)
武器の扱い方や、戦闘スタイルは今日の模擬戦闘で大方わかったが、もう一つの戦い方に関しては仮想空間ではどうしてもできない。
ひとまず明日の演習に意識を向けたエルザは、自室の一角を占めるロッカーやコンテナを漁り始める。
小太刀が一振。拳銃が一丁。投擲ナイフが数十本。
後は各種弾薬や応急処置キットなどの携行品。
よく手入れしている己の武器をチェックしながら、明日使用する物を見繕う。
小太刀を一振、拳銃を一丁、投擲ナイフを五本。それぞれロッカーとコンテナから取り出したエルザは次に戦闘用衣装に手を触れる。
伸縮性に富んだ漆黒のレザースーツ。
耐衝撃、対刃性に優れるそれは命を守る上で欠かせない装備だ。
「さて、最後に依頼のチェックだけしておくか」
明日の準備を済ませてエルザは再びPCと向かい合う。
メールアプリの受信フォルダとは別に設けられた、各種霊魔依頼のフォルダをチェックする。
隊長ともなれば個別でアセンションビルから依頼がくることもある。
強制任務であることは少ないが、報酬が他と比べて高額なため基本的には受注することにしている。
「まだ無しか。演習場はあっさり借りれたのに」
新着のメッセージが無いことを確認したエルザは早々にメールアプリを終了する。
「もうこんな時間か」
時刻は22:00を少し過ぎた頃。
晩飯も忘れて作業に没頭していたようだ。
食堂は24時間開いているが、空腹よりも疲労と睡魔が勝ったエルザは、
明日早めに起きて飯にしよう。とベットに転がりそのまま眠りに落ちた。
「よーし。揃ったな」
翌朝10:00
戦闘用衣装に着替えたエルザ達はサッカーコートほどの広い演習場に集まっていた。
打ちっぱなしのコンクリートには演習を行ったであろう痕跡がいくつもある。
陥没、破砕、弾痕、擦過痕、血痕などなど、生々しい現状だ。
綺麗な人工的な地形よりも、より実戦に近づけるためにあえて整地をしていないらしい。
そんな野性味溢れる空気感の中、横一列に整列した三人の装備を目視で確認するエルザ。
グスタフは、戦闘用衣装と同素材のグローブ。そしてプロテクター。
カナンは、拳銃、小銃、狙撃銃。そして銃を帯びるためのホルスター。
マナミアは、ノートPC、通信機、ドローン、犬型マシンウォーリア。
今朝のメールを確認する限りカナンとマナミアは他にも装備があるようだが、今回は個人で携行出来る武器や申請のいらないものを持ってきたようだ。
グスタフは本当にその身一つで戦うつもりのようだ。
「これより演習を開始する」
空気感がさらに引き締まる一言を発したエルザは、緊張しているのが表情で見て取れる三人に向けて話し出す。
「昨日の模擬戦闘でお前らが出来ることは大体わかった。でもそれは人間の範疇での話だ。俺たちが仕事をしていく中で一番重要なのは、いかに霊気を効率よく柔軟に使えるかだ。カナン、霊気とは?」
「人類が霊魔に対抗できる唯一の手段であるが、扱える者は限られている未知の部分が多いエネルギーの一種。また霊気を扱える者を霊魔討伐士と呼称する」
エルザのいきなりの問いにすらすらと回答するカナン。
きちんと前提知識は身についているようだな。と安心しながらエルザは続ける。
「そうだな。そして霊気は武器に纏わせて攻撃するというのが一般的だが、これは簡単にできる。まずお前たちにこの演習で学んで欲しいのは、霊気で身体能力を増幅させることだ」
言ってエルザは腰に帯びた小太刀を抜刀する。
「というわけで、デモンストレーションを見せてやる」
「あの噂ってマジだったのかよ・・・」
エルザの言動にグスタフが驚愕する。
(それは最後にやるけどな)
聞こえたが聞こえなかったフリをしたエルザは、集中を高める。
自身に流れる霊気を意識して、手のひらから小太刀に流し込むイメージ。
すると、黒い炎がユラユラと出現しじわじわと小太刀に纏わりついていく。
この黒い炎とも形容されるエネルギーこそが霊気である。
カナンが言った通り、人類が獲得した能力であり、脅威に抵抗できる最大で最後の牙だ。
エルザから発せられるその現象は三人にとっては見慣れたもので、特に反応はない。
「まず、俺がお前たちに教えたいのは汎用性、柔軟性を意識した霊気の使い方だ」
言ってエルザは小太刀を上段に構えて、予告もなしに振り下ろす。
すると斬撃を起点として二方向に三日月形の霊気が飛翔し、三人の隙間を通り抜けていった。
「「「!?」」」
驚愕する三人。
何もエルザが予告なしに動いたからではない。彼の霊気の使い方は今まで見たことが無かったからだ。
「次」
そんな三人に構うことなく、エルザは次の動作に入る。
小太刀を逆手に持つと、一呼吸入れる。
するとユラユラとした霊気が薄いオーラのように変化していき、研ぎ澄まされたような雰囲気を放った。
そのままゆっくりと力を込めるような素振りを見せずにコンクリートの地面に小太刀を触れさせる。
小太刀は抵抗を感じさせることなく、すーっとコンクリートに埋まっていく。
「切れ味を増幅させたようね」
武器には一定の知識があるカナンが目の前の光景を分析する。
刀身を半分ほどコンクリートに侵入させたエルザは、小太刀から手を放して、柄を蹴り抜く。
まるで紙を切るかのように滑った小太刀は、カナンの目の前で急停止した。
「見るのはこっちな」
小太刀に視線を送る三人の顔を自身に向けさせたエルザは、手のひらに纏わせた霊気から紐を形成する。
腕を振り霊気の紐をまるで鞭のように伸ばし、小太刀の柄に巻き付け、回収する。
器用に空中で一回転した小太刀は鞘の中に納まった。
「とりあえずこんな感じだな。じゃあ最後にとっておきを見せてやろう」
その場から三歩下がったエルザは、両手をだらりと下げてリラックスした姿勢をとる
「カナン。俺を撃て」
「は・・・?」
わけのわからない一言に固まるカナン。
「俺の知ってることが本当なら、弾は絶対に当たらないから大丈夫」
「あぁ。てめぇの銃撃はかすりもしない」
グスタフ、エルザにそう言われたカナンは、自身の技量をバカにされたと内心イラっとした。
「いいわ。体に穴が開いてもしらないから」
言い返したカナンは、自然な動作で太もものホルスターから拳銃を引き抜き、しっかりと銃口をエルザに向ける。
カナンの人差し指がトリガーにかかり、一気に緊張感が高まる。
銃声。
しかし一瞬でエルザの体に到達するはずの弾丸は、いつまでたってもその行方が分からない。
エルザも特に大きなダメージを負っている気配がない。
「何が起きたの?」
4人の中で身体能力に劣るマナミアが純粋な疑問をエルザに投げる。
「銃弾を撫でて方向を変えた」
言ってエルザは、自身の指の腹をマナミアに見せる。
エルザの指の腹には擦れたような傷跡があった。
「ちょっと。もう一回撃っていい?」
カナンはどうやら納得がいかないらしい。先ほどよりも闘気が高まった様子だ。
「いいぜ。何発でも撃ってこい」
カナンのお願いを快諾するエルザ。
するとカナンは躊躇なく銃を構え、即座に発砲する。
(俺も訓練するか)
時間の流れを引き延ばしたかのような視界の中、こちらへ迫ってくる弾丸を見ながらエルザはしかし余裕がある。
脳へ霊気を使用することにより人間としてのレベルを瞬間的に爆発させる荒業。
効果持続時間はあまり長くない上に、連続使用や長時間使用は脳を破壊してしまうリスクがあるが、弾丸を目視できる領域にまで到達する。
近づいてきた弾丸。それを指の腹で優しく触り進行方向を変える。
と同時にカナンが構える銃がマズルフラッシュの火を吹いた。
(狙いを変えてきたな)
二発目の弾丸はエルザの丹田に向かって放たれた。およそ急所である。
それに対してエルザは抜刀術で対応。
銃弾を真っ二つに両断する。
三発、四発と放たれる弾丸も小太刀で裁く。
拳銃のマガジンもそろそろ尽きるころだろうと予想したエルザは、小太刀を納刀し
マントに仕込んだ投擲ナイフを準備する。
飛んでくる五発目の弾丸に狙いを定めて、ナイフを投擲する。
正面衝突しないように角度を調整したナイフは、銃弾の横っ腹にぶつかりその進行方向を捻じ曲げる。
銃弾もナイフも勢いそのままに飛んでいくが、エルザもカナンもけがを負うことはない。
「もう。いいわ」
銃弾が当たらないことに諦めがついたのか、カナンは銃口を下げる。
「ふぅ」
エルザも霊気の使用を解いた。
「とまぁこんな感じで、お前らも練習すれば銃弾程度なら裁けるようになる」
デモンストレーションを締めたエルザは、
「今からは個人練習の時間とする。もちろん霊気の使い方をカスタマイズするためだ。俺は先生役をやるから何かあったら聞きにこい」
優先タスクである、個の強化に乗り出したエルザは、早速各々のスタイルに合わせた霊気の使い方を模索する三人を眺めながら飛んで行った投擲ナイフを回収する。
これからチームとして戦場をくぐり抜けていく以上、結束はもちろんだが、単独でも状況を切り抜けられる力量をつけてもらわなければならない。
個の強化は群の強化へと直結する。そう考えるエルザは演習をメインにプログラムを組んでいる。
そして霊気の扱いは個人の感覚に依存する部分でもある。理論的に説明できれば楽なのだが、どうしてもイメージという抽象的な言い回しになってしまう。
(だから習得には時間がかかる)
自身が体得するまでの道のりを思い返すと、色々なアドバイスは貰ったが結局は自分でコツを掴むだけのことだった。
ヒントのヒントくらいは言えるだろうが、一秒でも多く霊気を扱う時間を設けることが一番の近道になるのだ。
(あとはお前ら次第だ)
毎日、毎日、霊気が枯れるくらいまで鍛錬していれば嫌でも成長する。
エルザは、三人が泣き喚こうが手を抜くつもりはない。ぬるい鍛錬は死を招く。
まずは10回に1回はエルザに勝てるレベルまで引き上げるのが目標だ。
「エルザ!!」
壁にもたれかかって個人練習を観察するエルザに、グスタフが声をかける。
「ちょっと相手をしてくれないか?」
「いいぜ」
グスタフは個人練習を始めて1時間が経過した頃合いで、何か成果があったようだ。
(身体能力のレベルアップはグスタフが一番早いな)
実のところ、物体を通して霊気を扱うよりは、直に体を通した方が操作しやすい一面がある。
「「・・・・・・・」」
エルザとグスタフは真剣な表情で対峙する。
開始の合図など不要。実戦ではそんなものはない。
グスタフが霊気を展開する。
腰から下全体へと霊気が広がっていく。
(どうくる)
対するエルザは霊気を展開することなく様子を伺う。
グスタフがほんの少し重心を落とす。
地を蹴る。
ダァンッ!と爆発的推進力を霊気によって獲得したグスタフは超スピードでエルザに接近する。
駆けるというより飛翔に近い高速移動。
グスタフは勢いそのままに飛び蹴りを繰り出す。
(もろに食らったらヤバそうだ)
ただでさえパワー自慢のグスタフ。そこに霊気によるアシストが加わったとなれば生身で攻撃を受けるのは避けたい。
エルザは自身の顔めがけて飛んでくる飛び蹴りをキレのあるサイドステップで回避する。
攻撃が空振りに終わったグスタフだが、間髪入れず着地と同時に再駆動。さらに速度を上げてエルザめがけて飛翔する。
(はやいなっ)
グスタフがエルザの懐に入る。
今度は肩から上腕にかけてを破壊するような軌道のキックを繰り出すグスタフ。
回避をあきらめたエルザは、腰を切り体の正面でキックを受ける体制へ移行。と同時に腕に霊気を纏わせてガードした。
ゴッ!!とおよそ人体が衝突するような音ではない打撃音とともにエルザが弾き飛ばされる。
おぉ。とカナンとマナミアが感嘆する中、グスタフはさらなる追撃へと移行する。
「は?」
だが、足が動かない。
グスタフが視線を落とすと、霊気によって足が地面に縫い付けられていた。
(さっきの蹴りのときか!?)
エルザを蹴り上げた足が動かないため、先ほどの交錯の際にエルザが仕込んだのだろう。
「戦闘中は敵から視線を外すな」
グスタフの真横からエルザの声。
「っ!?」
気配もなくグスタフに近づいたエルザは、小太刀を喉元に突き付けていた。
「エルザ強すぎるぜ・・・」
一本取られたグスタフは拳を下げ降参の意を示す。
エルザも小太刀を下げ、霊気の拘束を解いた。
「1時間でで基本的な使い方はそれなりに掴んだみたいだな」
一言、グスタフを褒めたエルザは続ける。
「改善点としたら、霊気の使い方に無駄があることだ。霊気は無限にあるわけじゃない。なるべく最小限で最大のパフォーマンスが出来るようになったらレベルも技術も格段に上がる」
ちょっと見てろ。と三人の視線を集めたエルザは、少し間を開けて、少し腰を落とす。
先ほどのグスタフの再現だ。
次の瞬間。
エルザの姿が掻き消える。
霊気を展開していた様子はなく、いきなり三人は彼の姿を見失った。
「こっちだ」
声がした方向を三人が見ると、壁にもたれかかって苦笑いするエルザの姿があった。
その姿がまた掻き消え、今度は三人の前に現れた。
「俺なりのやり方ではあるが、物体に触れている面のみに霊気を展開することで相手からは見えないし消費も最低限で済む。ということで、グスタフやってみ」
「おっしゃ」
自身の話を聞きながらウズウズしていたグスタフに早速促すエルザ。
さきほど同様に少し腰を落としたグスタフは、深呼吸し集中する。
エルザ、カナン、マナミアが見守る中、グスタフの体は、
「うおぉぉぉぉ!??」
真上に跳ね上がった。
50mはある天井すれすれまで飛んで行ったグスタフ。
「霊気を惜しむな!着地姿勢を崩すな!」
パニックになりかけてるグスタフに向けてエルザが指示をとばす。
(聞こえるか・・・?)
焦っている中でも味方の声が聴けていないと対処方法も講じれない。
落下が始まった直後、グスタフは持ち前の身体能力を活かし、体制を立て直した。
その体全体から、ボッと聞こえてきそうなほどの霊気を噴出させる。
「よし!そのまま着地しろ!変にビビったらケガじゃすまないぞ!」
返事をするほどの余裕はなさそうだが、指示を聞けるだけの冷静さは保っている。
グスタフの視線はまっすぐに自身の落下地点を向いている。
見てる側が内臓が浮き上がる感覚を覚えるほどのスピードでそのままコンクリートの地面へ激突する。
その衝撃でコンクリートが粉砕され、粉塵が立ち込める。
「痛そう・・・」
マナミアが思わずこぼす中、粉塵の中に仁王立ちする影が浮かび上がる。
「どうだ?」
「全っ然痛くない・・・!」
「「おぉ・・・」」
感動を覚えるグスタフとカナン、マナミア。
「今のはいい例だったな。少量の霊気でも十分な強化とかは可能なわけで、効率も上がる。でもコントロールは難しくなる。グスタフ。お前はとりあえず今の感覚を忘れないうちに何度も繰り返しておけ」
「おう!」
「マナミアはマシンウォーリアや機械操作に霊気をどう応用するのかを考えると良い」
「うん・・・!」
「それとカナンはちょっと俺とマンツーマンで練習しよう」
「わかったわ」
演習場を借りれる時間がなくなってきた頃合いでエルザは個人練習に具体的な方向性を示す。
グスタフが跳ね回り、マナミアが機械たちと向かう中、
エルザはカナンを連れて彼らと十分な距離をとる。
「今時点での個々の役割だが、カナンが一番運動量が多くなると思ってる」
カナンは拳銃から狙撃銃までのレンジを自在に操れる。その反面射撃ポジションを確保するために動き回らなければならないことも想像がつく。
「さっき話したみたいに霊気の効率化は全員が達成するべき目標だが、カナンの場合だともう一個達成するべき項目がある」
「弾丸の強化かしら・・・・?」
「お。話が早い。例にもれず弾丸にも霊気は作用する」
カナンを個別に呼んだ理由を明らかにしたエルザは、自身の拳銃を見せる。
「俺が使ってる拳銃は口径も威力も並み。邪魔にならない重量だから選んだだけだ。でも繰り返すようだが霊気の使い方次第でどうとでもなる」
言ってエルザは拳銃を構える。
誰もいない方向へ向けられる銃口。
「見た方が早い」
トリガーに指をかける。
一拍置いてトリガーを引く。
するとズドォンッ!!!と拳銃からは鳴るはずがない銃声が轟いた。
銃口からは霊気が噴き出し、30m先の壁にはクモの巣状に罅が入っている。
音に驚いたマナミアがひっくり返っている。
「俺はあんまり拳銃は使わないから霊気操作はザルだ。銃口から噴き出た分だけロスに繋がる。直接体の能力を上げるより難易度は高いがモノにすればチーム随一の火力になる」
「わかった。練習しておくわ」
「頼んだ。弾薬コストもかかるからゴム弾とか安いのでやった方がいい。半分は俺も出す」
カナンも個人練習に戻したエルザは、時間を気にする。
演習場が使えるのは残り10分ほど。
あと2日間も同じ時間で押さえているが、何を訓練していくか。
エルザはそう考えながら訓練に励む3人を見渡す。
霊気の効率化と身体操作を促したグスタフ。
火力の増強を促したカナン。
機械への応用を促したマナミア。
個人の特徴をさらに強固なものにするべく、霊気の扱い方、幅の広げ方、発想の仕方、というポイントを伝えている。
これが3人一緒の方向性であれば指導も方向性が決まってくるが、そうではない。
個人を伸ばしつつ、最低限の連携も取れるように調整していく必要がある。
(見ている限り、個人の練習は放っておいても良さそうではあるな)
エルザがこの時間で行ったことはデモンストレーションの域を出ない。
3人が見て吸収して自分の分野に活かすしかない。
「そもそも基礎能力が高いしな」
エルザは強い。本人はその自覚が薄く鼻につくような言動はないが、その彼が認めた才覚達だ。
実戦でも下級霊魔であればぶっつけ本番でも対処できるだろう。
忖度なしで現状を分析したエルザはぱん、ぱんと手を鳴らし3人の注目を集める。
「今日はここまでだ。あと5分で荷物を纏めて撤収。明日明後日も同じ時間でここを押さえてるから好きに使え。以上解散」
チーム初の演習を締めたエルザは、3人を残し演習場を後にする。
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