第13話 ブロッコリーは腐りやすい②

「で、結局紫雨音は何しにきたんだ?」


俺はスーパーで買ってきたイカニンジンを食べながら聞く。

彼女もようやく泣き止み、今は恐怖に引き攣った顔で膝の上に木村を乗せながらみかんを頬張っている。


「昔の友人に会いに来るのに理由がいるの?」

「男友達ならいらないけど、女ならいるだろ」


、、、女って、、、女だって友達は友達でしょ。


紫雨音は剥いたみかんの白い筋をいじりながらもごもごと言う。


「理由は、、、あるわよ」

「転勤かなんかだっけ?県庁か?」


紫雨音は、農水省に勤務しているキャリア官僚だ。

紫雨音によれば、キャリア官僚はその経歴の中で地方自治体に出向することがあるそうだ。


「左遷か?」

「違うわよ、要するに国は地方の情報が欲しかったり、コントロールするために人材を送る、地方も地方で人間関係に縛られない新たな発想とか、国とのパイプがほしかったり、いろいろ理由があんのよ」

「へー、それで戻ってきたと」

「まぁ、あともうひとつ」


紫雨音が言いにくそうに、手をもじもじしている。それに新品だというカバンの方をチラチラ見ている。

こういう態度を見ると4つ上のお姉さんにはまるで見えない。


「ま、もう一個の理由はいいや、私には関係ないし」

「なんだよ、気になるな」

「いいのいいの、私には私のやり方があるから」


まったく意味がわからない。

が、さっき言ったこととは逆になるが、紫雨音は女性だ。

彼女が言わないなら、言わなくていいことなのだろう。



「ねぇねぇ、私はちゃんと訪問の理由があるのですが!」


ずばーん、と我が妹の最愛が挙手をする。


「家に顔だせってことだろ?」

「それだけだったらめんどくさくて来ません、これでも受験生ですからね!キットカッツください!」

「めんどくさいって、家族愛をもてよ」

「お兄ちゃんには言われたくありません」


正論である。

正論ばっかだと友達失うよ?お兄ちゃん家族愛的に心配しちゃう。


「なんかぁ、最近ストーカーっぽい人に付き纏われてるんですよねぇ」

「おお、まじか」


意外に重い案件だった。


「警察には?」


と、紫雨音。


「うーん、まだ確定じゃないし、それに挨拶もしたんですよねぇ」

「「はっ!???」」


俺と紫雨音の声が重なる。

ストーカーに挨拶?

うちの妹フレンドリーすぎない?

世界みんな友達的な過激思想をお持ちで?


「お前がこんなに馬鹿だとは知らなかった、、、大学生になって友達いなくて、寂しくてデモ隊に参加とかするタイプだとは、、、」

「なんか飛躍してない!??」

「最愛ちゃんは、美人すぎるキャリア官僚として巷を賑わせた私ほどではないにせよ、ちょうど手の出しやすい、アイドルグループの端の方ぐらいの顔なんだから気をつけないと」

「しうねぇ!?なんかキャラ変わってない?辛辣なんだけど!?それに自信がすげぇ!」


大人2人で心配の眼差しを向ける。


「2人ともばーかばーか!だってその人お兄ちゃんの知り合いって言ってたもん、一緒に写ってる写真見せてもらったし」


写真?


「それならストーカーじゃねぇだろ。俺は滅多に写真撮らないし、確実に知り合いだ。合成でもない限り」

「でもでも、挨拶した後も、何日もつけてくるの、もしかして私に一目惚れしたのかもって、、、、心配になって」

「一目惚れ?まさか」

「いや、あり得るかも、ほら最愛ちゃん下手したら見た目小学生だし、中3なのに私の胸の100分の1ぐらいしかないし、ロリコンなのかも」

「ねぇ、しうねぇ、なんでさっきから聞いてもない自慢ちょいちょい入れてくるの?そしてなんで自慢するために私を下げるの?そしてなんでこれ見よがしに胸の上にみかん乗っけてるの?!?どうしたの?馬鹿なの?自信あるのかないのかどっちなの?」


紫雨音のアホはほっとこう、そう言おうとしたとき、当の彼女が、ハッとした顔をした。


「まさか、、、」

「なんか心当たりあるのか?」

「うん、、、ねぇ最愛ちゃん、その男金髪?」


唐突な紫雨音の質問に、最愛は驚きながら、


「そうだけど、、」

「なんていうか、ハーフ系のイケメン?」

「そうそう、バラとか似合いそうな。でもちょっと鼻につく感じ」


紫雨音は、何かをじっと考えるそぶりをして、自分の鞄から封蝋がされた手紙を取り出した。


皆の視線がその封筒に集まる。

そして、紫雨音がその封筒を開けると、中から何かが転がって出た。


皆が絶句する。


「これって、、、」


俺が呟いたとき、皆が理解した。

それは落とし物を探すための、小型のGPS機器だった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る