中嶋ラモーンズ・幻覚11
安保 拓
中嶋ラモーンズ・幻覚11
いつか、こんなことがあるだろうとアパートの二階までの階段16段に、スプーンを一個づつ置いていた。誰か来たらそのトラップで、音が鳴り危険を察知できるからだ。朝方、途方に暮れて誰も居ない部屋から階段を降りると、スプーンは1ミリも動いていなかった。その時、あれは幻覚だったことに気がついたのだが、仁王立ちした男が部屋にいたのは確かだった。何がなんだか分からないままに、一階のガスレンジの上にヤカンを置いて火をつけて、涙とよだれと吐き気で汚れた顔を水道水でジャブジャブと洗った。季節は、2月から6月へと変わっていた。もう今は、朝の味噌汁もコーンスープも無い。中嶋は、おもむろに熱くなったヤカンのお湯でインスタントコーヒーを淹れると、テレビのスイッチを入れた。そしてイエス・キリスト風の仁王立ちした男は、なんだったのだろう。一瞬、背筋がブルッと震えた。頭がおかしいのは確かに俺の方なのだが、あんなに鮮明にくっきりとした映像で幻覚症状はでるものなのだろうか?この目の前にあるテレビの映像も本物なのだろうか?確かめようがないのだが、今晩もイエス・キリスト風の男は、現れるのだろうか?
見る物。聞くもの。触る物。何もかもが、信じられないのなら精神病院行き確定なのか、判断が迫られる。
お気付きの方は分かると思うが、もう精神分裂病の状態はゆっくりと陽性症状へ上がっているのである。普通、階段に誰かが来るとおびえスプーンなんか置かないでしょう。2日前には、酔っ払いフラフラして黄色い線を歩き湯沢駅のホームに電車を急停止させた。
「お客さん、ちょっと危ないじゃないですか〜
。呑みすぎですよ。本当に、たく。」
ラーメン屋でも、ちょいいざこざがあった。
「麺伸びてる〜?スープが薄いよ〜。」
攻撃的になる自分を止めることができない気持ちがここち良いのです。観える物全てが、キラキラと怒りに満ちているのです。そして、あらゆる物に監視されているようにも思えるのです。私は、Googleの位置情報サービスを消しました。それからこの狭い街を、夜、徘徊するようになってました。お酒をコンビニエンスストア前で呑み、また歩いてはコンビニエンスストアの前で呑み、だんだん怖くない日中にしかアパートに帰らなくなっていました。日中の気分は上々です。
「はあ、はあ疲れた。歩き疲れた。少し仮眠しよう。」
今日は、ぐっすりと眠れた。半分開けている窓からの陽射しが眩しいし、あれから変な幻覚も夢も見ない。ただ、黒いスーツを着た男とやけにすれ違う。見張られてるのか?俺。警察か?裏稼業か?宗教団体か?ゾロ目のワンボックスカーとも良くすれ違う。俺をさらう気か?。
妄想が妄想を呼んでる時だった。2月から6月ずっと妄想と幻覚が行き来しているとき、日中のコンビニエンスストア前で缶ビールを呑んでると、片腕にスミの入った青年に声をかけられた。
「兄ちゃん。ここからイオンって遠い?足ないねん。」
「はい、結構遠いですね。」
「そか、俺は、兄ちゃんみたいなやから見つけたらさらえって東京の足立から来てるねん。もしかしてもうビンゴ?」
「なんのことですか?」
「またまた〜この街の夜に自由気ままにやってる奴がいるって噂になっていて、さらえっていわれてるの。違うなら違うで良いけど。」
中嶋は、頭の中を素早く計算して、何かやらかしたか考えていた。すると目の前の道を、ゾロ目のワゴン車とパトカーが通過していった。
「やるならやるぞ。」
とボソッと言った。
すると、片腕にスミの青年に、
「まあまあまあ観光案内でもしてや。暇だし。」
と言われた。缶ビールを飲み干し、歩き始めると片腕にスミの青年はついてきた。中嶋は、何かをやらかしたのでは無いかと疑心暗鬼になりながら、片腕にスミの青年を横目で観察していた。ただの不良がわざわざ東京の足立から来る訳がない。なんならこの街で、一番怖い場所に連れてってやろう。そこで勝負するしかないな。そう考えながら清涼寺というお寺さんの方へ歩いていった。
清涼寺に向かう途中、いつも瓶コーラを飲む古いお店のおばさんに声をかけられた。
「あら?今日は珍しいね。友達と一緒なんて…。」
この店の前で、怪訝そうな顔のおばさんに挨拶をして、また歩き出した。俺は片腕にスミの青年に素直に聞いた。
「何をしたんだべそいつ。」
「いや、地元の銀行員と酒場で揉めたらしい。それで、中堅の銀行員があまり腹が絶って、なんかのツテでうちの親父に連絡してきて今ここにいる訳なんすよ〜。」
「東京の足立区の割には結構ダサいねw」
そう会話しながら清涼寺のほうへ歩き出した。無言のまま歩く寺への坂道は長い。ここで相手の体力を消耗させる魂胆で、少し速歩きをして時間稼ぎをした。頭の中で、何かあだ名でも付けようと思いシンプルに足立にした。足立は身長173センチ60キロくらいに見えた。あとは、本当に裏稼業かどうかが気になるだけだ。足立を倒したところでまた次があるだろう。そして、やっと清涼寺の入り口のところに着くと、44−44の自動車のナンバーでお出迎された。思わずナンバーを手で触ってしまった。
「本物だ。また不吉なナンバーを付けるな、お寺さんの入り口だぜ。足立はどう思う?」
「ただの偶然じゃね。俺のセルシオ、ナンバー1だし。」
中嶋ラモーンズ・幻覚11 安保 拓 @taku1998
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