第5話 ロマンスは昔話の後に
僕は今、岐路に立っている。
僕の人生で、最も大きな意味を持つ選択かもしれない。そう思っていた。
それが…
「チケット、どうやって渡そう…。」
という問題である。
「いやほんとに、チケットどうやって渡そう…。」
チケットを渡す必要は無いんだけどね?とりあえず「クリスマスにイルミネーションでも見に行かない?」とかって誘えばいいだけだし…。それ別にハードル下がってないし…。クリスマスに異性を誘うとか、意図透け透けだし。
というわけで、作戦会議です。
「よろしく。クマさん、キツネさん、ウサギさん。」
今回は自分で考えるべきだと思ったので、ぬいぐるみさんに協力をお願いしてます。ちゃぶ台を囲んで、
ウサギさんが肉食獣(雑食含む)に囲まれて可哀想ですが、仕方ありません。今日は、猫の手も借りたいので。
…猫も肉食獣だけどね。
「まず、タイミングだよね。」
今日も華陽が部屋に来てくれるはずだから、そこからの段取りを考えないと。
「そんなの来た時点に決まっとろう!先手必殺じゃけぇのぉ!」
このイカつい兄さんがクマさん(C.V.僕)。やっぱり森の王者だけあって威厳に満ち溢れてるね。
「でも、後の雰囲気を考えると、最後がいいと思いヤスが…。」
このセコそうな奴がキツネさん(C.V.僕)。やっぱり狡猾な狩猟スタイルからも分かる通りのズル賢いやつみたいだね。
「おっ、おほっ。毎日、へ、部屋に来てるなんて、エ、エッチですな。」
「おい、ウサギ!お前に性欲が強い以外のアイデンティティは無いのか!退場だ!」
ウサギさんは役に立たなそうなので、ベッドに投げ捨てておきます。断じてC.V.は僕じゃありません。彼だけは独りでに喋り出しました。
「…あんな軟弱な奴はうちの組には要らんけぇ。3人で十分じゃろうて。」
「そうだね。クマさん。文殊の知恵で頑張ろう。」
「それで、
「うーん…。」
確かに、どっちの言い分も分かる。
さっさと渡しちゃう方がこっちで雰囲気を作りやすいけど、そうするとその後で普段通りに過ごしたりっていうのが難しそう。
かと言って後に回すと、もうそんな空気感を作れないかもしれないし、そもそも華陽と話すだけで満足しちゃって渡すのを忘れるかもしれない。
「それなら、いつものやつの途中で渡すのはどうでヤンスか?」
「途中で?」
「チケットを渡す用のシナリオを作るでゴワス。」
…それはどうかな?いつものノリで良い雰囲気を作るのは難しいんじゃないかなぁ。
あと、キツネさんの語尾が「大雨の日のくせ毛の女の子の髪型」くらい決まらないんだけど。よしんば男の子でも決まらないんだけど。
「そんなことないでヤンス。例えば…」
そう言って、キツネさんはアイデアを語り出した。
そして、語尾はヤンスに決まった。1番小物っぽくてしっくりきたね。
山道を登りながら、額の汗を拭う。
背負った荷物とガタガタの土が老いた足腰に堪えた。
「…ふぅ。」
小屋の前に辿り着いたところで、一息。戸を開け、荷を下ろした。
「
離れに置いてある野菜も、日に日に数が少なくなってきた。厳しい寒さの中では満足に作物も育たず、魚達も水面に上がってくることが少なくなってきた。
ひもじい思いを堪えながら、魚を捌く。
頭だけを落とし、胴を串に刺し、囲炉裏の横に並べた。
「…山ん神様。今日もありがとうございます。この恵みんおかげで明日まで命がありそうじゃ。」
落とした頭を皿に並べ、小屋の脇に置いた地蔵の前に備えた。
「本当ならもっと良いモンを備えたいところじゃが、儂も生きにゃなりませんで、罰当たりですみません。明日は一匹持ってきますんで。」
手を合わせ、頭を下げる。じっくりと感謝した後で、地蔵を入れた祠の戸を閉じた。
「狐に取られんようにせにゃなぁ…。」
この辺りにはイタズラ好きの狐が住んどる。儂はそいつをキルアと呼んどる。夏の間もよく畑の野菜を持ってかれたもんじゃ。あいつに悪さをさせんためにも、地蔵さんとこに祠をこさえた訳じゃ。
「そろそろ焼けた頃ですんで、もう行きますでのう。」
小屋に戻り、
その日の食事はそれだけで、夜が明けた。
朝の日差しと共に目が覚める。いつものように、地蔵さんの祠を開け、手を合わせようとしたところで、ふと、気付く。
「…なんということじゃ。」
山女魚の頭だけを置いた皿に、立派な百合根が置いてあるでは無いか。
あまりの驚きに、しばらく呆然としたあとで、思い直す。
「こりゃあ、山の神様の恵みじゃ。儂を哀れに思って助けてくれたんじゃ。」
いつもより深く頭を下げ、しっかりと祈りを捧げた後で、祠を閉じた。
「そんじゃあ、行ってきますじゃ。」
背負子を背負い、竹筒の水筒を持ち、山を下った。
その日は、いつもより多く魚が取れた上に、罠にウサギまでかかっていた。
「こりゃあ、今日は鍋かのう。」
いつもより重い荷を背負いながらも、足取りは少し軽い。
「こりゃ、嬉しい重さじゃ。」
小屋に戻り、ウサギを捌く。皮を剥ぎ、内臓を取り出した。肉を分け、少しだけを残して干し肉を作った。皮も一緒に干ふと、皮袋が作れる。内蔵も、食べれる物以外は畑に混ぜた。
「…命に捨てるところなぞ無いからのう。」
いつもより作業が多く、気付けば辺りは真っ暗になっていた。
「神さん。今日はありがとうございますじゃ。こんだけあれば三日は凌げるでの、ほんとに感謝してもしきれん。」
いつも寂しい皿には、まるまると脂の乗った山女魚が一匹載っている。
「これで、少しいい思いばしてください。神様にとっちゃあ取るに足らんかもしれんが、儂の気持ちじゃ。明日からも頑張りますんで、よろしくお願いします。」
祠を閉じ、小屋に戻る。
早速、囲炉裏のそばで夕飯作りを始めた。
「まずは、百合根を1片ずつに剥がすんじゃ。」
パラパラと剥がれた欠片を鍋に落としていく。
全て剥き終わる時には、もう既に鍋の半分ほどが埋まっていた。
「このふっくらとした見た目、雪のような白さ。良い百合根の証拠じゃ。」
長らく使うことのなかった鍋が、宝石箱のように輝いて見える。
てっぺんまで被るように水を張り、囲炉裏に掛けた。
「次に、柔らかくなるまで煮込むんじゃ。」
鍋をカセットコンロに掛け替える。囲炉裏の火じゃあ火力が足らんでの。
「そんじゃあ、煮てる間に肉を下処理しとくかの。」
部位ごとにバラしたウサギ肉を並べ、棚から調味料を取り出しておく。
「まず、表面に塩と砂糖をほんの少しずつ。これで格段に柔らかくなるからの。次にジップロックを用意して、肉とニンニク1片、ローズマリー、少しのワインを入れてマリネする。30分も置けば十分じゃ。ローズマリーは庭に生えてるのを二枝くらい使えばええ。」
肉を漬けてる間に百合根が良い茹で具合になってきた。柔らかな香りが小屋に充満している。
「ここでさっき仕込んどいた肉を入れる。」
火加減を弱め、じっくりと火を入れる。せっかくの新鮮な肉を火入れで台無しにしないようしっかり見ておく。
「肉の表面が白くなってきたところで白菜、そしてネギじゃ。」
野菜の甘味と肉の旨味を少しずつ出汁に溶かすイメージじゃ。でも、味が抜けきっちゃあいかんでの。その絶妙な塩梅を見極めてこそじゃ。
「最後に少しの味噌と酒で味を整えたら出来上がり。ウサギと百合根のシンプルな鍋じゃが、素材と料理人が一流なら、絶品の一皿に早変わりじゃ。」
皿に鍋をよそい、まずは白菜、それにネギを口に運ぶ。
「うーむ。いい味じゃ。これぞ山の料理。自然の雄大さが口に広がり、命の尊さが出汁に溶けとる。」
次にウサギ。自分で刈り取った命を、じんわりと噛み切る。
「ほぉー。家族から離れた孤独の味がするのぉ。」
早くに血抜きをしたおかげか、臭みもない。動物性タンパク質の芳醇な旨みが鼻腔を抜けて行く。
最後に、百合根だ。
「これは、もう、なんと言えばいいか…。」
神の恵みを感じ、自然と涙が溢れてくる。己が生きているという奇跡を噛み締め、全ての命に感謝した。
鍋はあっという間に無くなり、満足感に包まれながら床に着いた。
…だだ、その日は特に寒く、上手く寝付けなかった。
「厠にでも行くかのう…。」
戸を開け、裏の厠に向かう途中である異変に気が付く。
「…なんじゃ?」
地蔵さんの祠の方から何やら物音がする。
見に行くと、そこでは獣が祠の中を荒らしているようだった。
「…戸を開けるなんぞ、間違いない。アイツの仕業じゃあ。」
夜目は利かずとも、そのズル賢さは間違いなくいつものイタズラ狐だと確信した。
「今日という日は容赦しておけん。」
足音を立てないように、ゆっくりと玄関に戻り、立て掛けていた猟銃を手に取った。
祠の方へしっかり照準を定め、引き金を引く。
「キャンッ!」
甲高い悲鳴を上げ、獣が倒れた。
小屋に運び、ロウソクで照らすと、間違いなくよく見ていたあの狐、キルアだった。
「神さんの備えもんを漁るなんぞ、堕ちたもんじゃのう。」
地蔵さんの無事が心配で祠に戻ると、血の中に何かが落ちていた。
それを見てワシは血の気が引いていくのが分かった。
「キルア。お前だったのか…。」
そこには、12月25日の日付けが書かれた、イルミネーションのチケットがあった。
「いや、それで『お前だったのか…。』とは気付けないから!」
「ありゃ。お気に召しませんでヤンスか?」
語り終えたキツネさんは不思議そうな声で言った。
「いや、狐の名前がキルアだったところから分かってはいたけどね?でもイルミネーションのチケットを見て気付けたらエスパーの域だから。髪に祈らずとも神通力持ってるから。」
「ふーむ。人間とは鈍い生き物でヤンスな。」
「キツネ界隈では普通なの!?」
確かにキツネは賢いってイメージはあるけどさ?そういう賢さは想定してないよ?理想の彼氏みたいな感じじゃん?それ。1を聞かずとも10を知るみたいな。
「それと、何?あの料理パート。」
「そりゃあ、グルメ層を取り込むための配慮でヤンス。」
「世界観を壊さない配慮も欲しかったかなぁ!?」
途中まで昔話テイストなのに、突然料理系動画投稿者みたいになってたからね?
囲炉裏のクラシックな雰囲気をぶち壊すカセットコンロ出てきたからね?
「そもそも、料理もちぐはぐだから。古き良き和食の話かと思えばヨーロピアンなマリネ始めて、グルメ層も取り込めないから。これで引き寄せられるのは怖いもの見たさの好奇心旺盛な美食探究家だけだよね?」
「海外進出も見据えた発想だったでヤンスが、失敗でヤンしたか。」
某リフォーム番組の巨匠も驚きの芸術的経営戦略だったらしい。でも、このグローバル化の時代にも流石に受け入れられないと思うよ。一貫性って大事だもんね。
「それと、ウサギさん!僕がウサギさんを追放した時に何も言ってないと思ったら、こんな所で可哀想な扱いしないであげて!?」
「可哀想…?」
せめてヤンスは付けてよぉ。怖いよぉ…。
「『ほぉー。家族から離れた孤独の味がするのぉ。』って言ってたよね?お爺さんあれじゃサイコパスだよ?」
「あんなもんでしょう。ヒトなんて。」
え?もしかしてウサギが可哀想なのかと思ったら、動物愛護的思想だった?動物から動物食の残虐性を説かれてる?最早、それ超えて人間の傲慢さにまで言及されてる?
それと、ヤンスは付けて欲しいなぁ…。
「…じゃ、じゃあクマさんは何かアイデアある?」
僕は気まずすぎたので話をすり替えることにします。ちょっとキツネさんはしばらく休憩してもらって。
「よう聞いてくれたの。良いのがあるけぇ、聞いてくれや。」
嬉しいことに、クマさんも乗り気でアイデアを語り始めてくれた。
昔、ある山の中に男の子が母親と2人で住んでいました。その子の名前は一太郎。元気な男の子です。
お母さんはいつも一太郎にこう言い聞かせていました。
「貴方のお父さんは立派な大親父だったのよ。あなたも、仁義だけは通しなさい。それが若頭としての勤めよ。」
「…あぁ。お袋。」
金…、あ、違う。一太郎は心に1本筋を通して生きることを誓いました。
ある日、一太郎が山で人が入れるくらいの穴を掘っていると、遠くから何やら大きな音が聞こえてきます。
「なんじゃあ?この音は。」
一太郎が音のする方へ向かうと、大きな熊がバシャバシャと川を叩き、上っていく鮭を捕っているところでした。
「おう兄ちゃん。ウチのシマで何してくれてんのや。」
一太郎は、お母さんとの約束通りに命の大切さを訴えかけます。
「あん?何や?おのれは。儂は飯食うのも許可取らなあかんのかいな?」
しかし熊は傍若無人です。一太郎の説得に耳も貸さず、打ち上げた鮭達を頭から貪り始めました。
「あーあー。ゲームセットや。スジモン舐めとったらアカンで。」
すると、大きな音と共に熊さんは死んでしまいました。早すぎて何があったのかはあまり分かりませんが、一太郎は熊とお相撲をとったんでしょう。頭に穴が空いていますが、きっとそうだと思います。
「…って、いや、ちょっと待って!原型が残ってないから!」
「なんじゃ、陽向。ここからやっちゅうんに。」
「ここからなんなの?これ以上やっても死体が積み上がるだけだよ?こんなんじゃ立派なお侍になったり出来ないよ?」
途中で『金…』って言いかけてたのも、最早風評被害だから。あんな話だと勘違いする人いたらどう責任取るの?僕は知らないよ?
なんなら相撲のことも誤解させかねないと思うし。頭に穴が空くような競技じゃないって。あれ。
「そもそも、あの流れからイルミネーションのチケットは出てこないでしょ。」
芥川賞作家でもそこまでのイマジネーション持ち合わせてないよ。最早イリュージョンのレベルだよ。
「それがのう、一太郎は別の組の幹部全員と決闘をして勝つんじゃが、そこで叔父貴からイルミネーションのチケットを貰うんじゃ。」
「え?急にファンシー過ぎない?血と硝煙の香るスラム街にわたあめ屋さんが来たみたいになってるけど?」
「決闘で死ん…負けた組員が息子のために買っとったもんだったんじゃが…」
「あー、聞きたくない!きーこーえーなーいー。」
ファンシーとか言ってごめんなさい!全然重いから。家族の将来を心配しちゃうから。シングルマザーの苦労を考えると涙も滲んできちゃったから。
「なんや、これもダメか。」
クマさんのその言葉で思い出した。彼らは別にふざけてたわけじゃない。僕のために知恵を搾ってくれていたんだって。
「…よしっ。」
頬を叩き、気合いを入れ直す。覚悟を新たにした僕に、2人が言ってくれる。
「おう、なんじゃ。決まったみたいじゃな。」
「目の色が変わったでヤンスね。」
「うん。ありがとね。」
僕は2人にお礼を言って、元の場所、押し入れの中に丁寧に戻した。また、力を借りたい時には呼び戻そう。そう思いながら。
「…やっぱり、男なら直球勝負だよね。」
そう思ってチケットを握り締めたところで、ちょうど玄関のドアが開く音がした。
階段を上がってきた華陽は、いつも通り僕の部屋に来た。
「…それ、何?」
入室早々、華陽は僕の右手を指さして言った。
「その事なんだけどさ。華陽…。」
大きく息を吸った。ドキドキと胸は高鳴り、下顎が小刻みに震えているのが分かる。
それでも、言うと決めたから、僕は口を開いた。
「あの、クリスマス。25日って予定ある?」
「あー、その日は友達とクリパだよ。」
第1部~完~
って、いやいやいや。そんなわけないじゃん。今までそんなこと無かったよね?
「…あの、ほんと?」
「華のJCがクリスマスに何も予定が無いと思ってるの?逆にホントに?って感じ。」
” Oh, no…. ”とでも言うようなオーバーリアクションで、問い返してくる華陽。僕のことをバカにしたような目でこちらを見てくる。
「だって、今まで…」
「中学最後の年だよ?思い出作らないと。」
そう言いながら華陽は雑誌のクリスマス特集みたいなのを広げて「えー、どうしよう。何着ようかな〜。」なんてわざとらしく言い始めた。
「あ、それで、クリスマスがどうしたの?」
こちらには目もくれずに華陽が聞き返してくる。
「あ、いや…。」
心が折れかけていた僕は誤魔化そうとして、思った。そうじゃないだろ。友達と遊ぼうが、気になる男子とのデートだろうが、家族旅行だろうが、関係ない。僕の想いはなんだ?1番になりたいんだろ?華陽に僕のことだけを考えて欲しいなら、華陽の隣にいたいなら、今言うべきはそんなことじゃない。
だから、
「クリスマス。伝えたいことがあるから、これ。もし良かったら、僕の方に付き合ってくれないかな?」
チケットを渡す手は自分でもわかるくらい震えていた。おふざけ無しの、逃げ場がない言葉は、自分にも重く響いた。
「…何時?」
差し出したチケットを受け取りながら、華陽は、僕の目を真っ直ぐに見返して言った。
「…えっと?」
「これだけ見るわけじゃないでしょ?」
「駅前に、12:00にしない?」
「うん。分かった。楽しみにしてるね?」
華陽は、僕の自惚れじゃなければ、凄く嬉しそうに見えた。
「あれ?クリパって…。」
「あんなの冗談だよ。陽向が私の予定が当然空いてるものだと思ってるのが気に食わなかっただけ。」
そう言って、可愛く謝る華陽。
「………はぁ〜。良かったぁ〜。」
僕は力が抜け、ベッドに倒れ込んだ。
その横に華陽が腰掛けてくる。
「陽向にしては、頑張ったんじゃない?」
「でしょ?」
華陽のこの態度が半分照れ隠しだと分かってるから、僕も冗談めかして返した。
雰囲気が壊れるんじゃないかって怖がっていたけど、僕らの関係はこの程度じゃビクともしないみたいだ。
「でも、このチケットは自分で用意したんじゃないでしょ?」
「…なんで分かるの?」
「これ、2ヶ月前くらいには売り切れるから。陽向が10月の時点でクリスマスのこと考えてるわけないからね。」
華陽の口から明かされる衝撃の真実。僕は燈への感謝の度合いを改めないといけないかもしれない。
「…燈へのクリスマスプレゼントは奮発しよう。」
「そうしなさい。」
でも、あいつ物欲ないしなぁ…。なんて思っているところで、華陽が質問してきた。
「そういえば、12:00に駅前ならお昼ご飯は食べない方がいいよね?」
「あ、うん。そのつもりだけど。」
一応スケジュールも計画中。と言っても、ざっくりだけど。多分、華陽とならプランが曖昧でも退屈しないだろうし。
「じゃあ、ほんとに楽しみにしてるからね?」
「…うん。分かったって。」
なんかこう素直に言われると、こっちが照れちゃうな。僕多分、耳めっちゃ赤いよ。今。
「わざわざ駅前なの?」
「そっちの方が、雰囲気あるかなって。」
前に葵さんに教えてもらった秘技。非日常なシチュエーションが大事ってこと。家の前から一緒じゃあ、学校に行くのと変わらないからね。
「…でも、一緒の時間が長い方が良くない?」
ちょっと恥ずかしそうに言う華陽。指先だけで手を合わせて、俯いた顔は少し赤くなっている。
「華陽?それって…。」
「いや、なんでもない!」
ここに来て、沈黙が訪れてしまった。
華陽は俯いてゴニョゴニョしてるし、僕も油断したらニヤけちゃいそうで、ちょっと、あの、ヤバい。
「あー!ちょっと、この後予定があるんだった。」
いたたまれなくなったのか、華陽が棒読みでそんなことを言いながら立ち上がった。
「これ、貰っていくね。」
「あ、それは…!」
華陽の手にはウサギのぬいぐるみ。
しまった。クマさんとキツネさんはしまったけど、コイツのことは忘れていた…!しまっただけに…。
「それじゃ!」
文字通り脱兎のごとく逃げ出した華陽。
後に残されたのは綺麗な僕。
汚い部分はウサギさんに封じてるからね。主に思春期特有の汚いところを。
「えぇ…。」
結局、ロマンスだけじゃ終われないみたいだ。僕らは。
「まぁ、らしいかもね。」
僕ら二人の付き合いは10年以上。今更変わるなんて無理だし、変わる必要も無い。
ありのままの華陽に、僕は恋をしたんだから。
「…よっし。」
僕は机に向かい、当日のプランを練り始めた。
服も買いに行こうとか、プレゼントはどうしようとか、そんなことを考えていると、時間あっという間に過ぎた。
とりあえずその日は、華陽があのぬいぐるみと一緒に寝たりしないことを祈って、ベッドに入った。
1人部屋。10畳。2人。 めかけのこ @mekakenoko
★で称える
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