001 扉を直して頂きたいんだが。
俺、久川彗は確か、学校の生物実験室で空気と話していたところだと思う。ああ、決して得体の知れない魔力とかが出てくる世界線には立っていないはずだ。そう思うのだが、俺の目の前にあるのは見事なまでにレールから外れた1枚の扉。
そう、この扉は「あの!ここってミス研ですよね!」とか頓珍漢なことを言った女子が開け放ったもの。
で、一応確認しとくけど、ここって、20××年の日本っていうことでOKやんね?
「ちょっと、沙耶待ってって、そこはミス研と……」
後ろから違う女子が来る。
ミス研と違う、と言いたいのだろうか、だとすれば大正解だ、おめでとう。回れ右をして沙耶(?)とかいう女子を連れて帰りたまえ。悪いことは言わない。今なら外れた扉も俺たちで直そう。大サービスじゃないか。だから、気が変わる前に帰るんだ。
「あーまた、扉外したの?」
また?え?どんな怪力なん?
「えーだって、ついうっかり手に力入っちゃうじゃん?」
いや、ならない。握力70とかあんのかな?いや、この場合は腕力か。
「おーい、光瑠?大丈夫か?」
光瑠は今目の前で起きたことが色々と衝撃的過ぎて文庫を開いたまま呆然としている。
そして、ふと立ち上がりリュックを片方の肩に掛け、帰ろうとした。
「おい、帰るなよ?」
俺は、外れた扉を指差しながら光瑠を急いで止める。
「ソーイエバ、キョー、ビヨーインノヨヤクガ アルンダッター」
と右腕の時計を確認する。
嘘つくの下手かよ。それに美容院は二日前に行ったところだろ。
「嘘つけ。その右腕をさするの、嘘をつく時の癖やぞ。時計を見ただけかどうか判りにくいけどな」
「彗ってホントに"宥め行動"を見破るの得意だね」
「ああ、中3の時に嵌った趣味ベスト4に入っているからな」
「因みに何位?」
「5位」
「それ、ランキングを更新した方がいいんじゃない?」
ん?どういうことだ?判るように言ってくれ。
「1位がSNSで投稿者の情報を特定するだろ?」
「爆弾をサラッと投下してくスタイル?」
「で2位が……」
「OK。どうも犯罪の匂いしかしないから今はちょっとやめとこっか?」
「どこに犯罪の要素があるんだ?オススメの格好の暇つぶしアイテムなのに」
「店長オススメみたいに言うな!」
そう言ったところで光瑠は、はぁとため息を吐く。
「どうしたどうした、おじいちゃんみたいになって。溜息を吐けば幸せも抜けていくぞ」
「そんなことを言う彗の方がよっぽど高齢者っぽいよ?」
「そりゃそうだ。一週間前に死んだ爺ちゃんの口癖だった」
「……」
「なーんてな。ジョークだよ。ジョーク」
「笑えないジョークはやめてくれ。ってか勝手に親族殺すなよ」
「今、アメリカンジョークに嵌まっててな」
「一回、アメリカ人に怒られろ」
ハハハハハハハ……。
「あの!」
「あわあぁ!@$%&#!」
と目の前にいた美少女に驚く光瑠。そう何を隠そうこの美少女はさっき我らが生物実験室の扉を破壊した少女である。
しかし、驚きすぎだろ。
「何ですか?」
「ああ、すいません……」
と、少し顔を赤くして言う
お前みたいな変人でもそういうことを知っていたのか⁈ って?失礼な。知っとるわ!
「いいですよ。何ですか?」
光瑠みたいな
「その本って、ドロシー・L・セイヤーズの『学寮祭の夜』ですよね!1935年の創元社版!」
そういえば、古臭い匂いがぷんぷんしていたな。
「ええ、そうですけど……」
「どこにあったんですか?私、ピーター・ウィムジイ卿のファンなのに、縁がなくって」
「神田の古本屋でこの前会ったんだけど。もうすぐ、読み終わるから貸そか?」
光瑠は重度の女性恐怖症だ。だから、最初は永沢にビビっていたようだが、同志だと知って、態度がマシになってきている。
もしかして、永沢のデレは光瑠に対して、ではなくその何たらいう本になのか?
「いいんですか⁈ありがとうございます!久川先輩!」
うん??
*※**※**※*
久しぶりの投稿になりました。
読んで下さった読者の皆様、ありがとうございます。
面白いなと思われたら、⭐️、♡、コメントなどよろしくお願いします。
これからも彗らをよろしくお願いします。
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