テキトーに部活を作っていたら、後輩に何故か懐かれたんだが。
田谷波 赤
プロローグ
「なぁ、今度のオープンキャンパス、どうする?」
本を読んでいた
「したくない」
「即答だなぁ!おい」
「じゃぁ、
「僕としてはどっちでもいいんだけどね。でも、今回ばかりは生徒会が何かしらのものはしろって。それに来年妹がここを受けるんだけど、今度のオープンキャンパスに来るって言ってる」
「ふぅ〜ん、ポッポ妹がねぇ。生徒会はテキトーにあしらっておいてくれ、じゃ」
と、
「お〜い、人の話聞いてた?部長は一応、彗の名前で通ってるんだけどぉ?」
「聞いてない。今は空気と話している」
「聞こえてるから返事をしているんじゃないのか?」
「よく言うだろ、人の話は心で聴きましょうってな。今、ポッポの話は俺の耳には入っているが心には入っていない」
どうだ、とばかりに彗が言うと、光瑠はあ、こりゃダメだ、というように首を振った。
へへ、上手くいったぜ。
「んじゃ、生徒会には『今回はやらせて頂きます』って言っとくね」
「いや、それは困る」
「やっぱり聞いてんじゃん」
「んにゃ、さっき言っただろ、人の話は……」
「あー、もうその話はいいって……。彗が何もしないなら、これから出しに行くから」
「ほう、この『空気自然同好会』で何をするって言うんだい?ワトソン君」
「お前が勝手にホームズを名乗るな!
何をするって、その今やってる研究(?)みたいなものを発表すりゃいいじゃん」
「ポッポは何も判ってないな。これは研究じゃない。俺は単に空気と対話をしているに過ぎない。よって発表することなどない」
「無駄にキリッとした顔で言うな!大体空気と会話って……」
「会話じゃない対話だ。今は7時間目の体育の時間に採れたばかりの体育館の空気と話している」
「じゃぁ、訊くが空気は何て言ってるんだ?」
そう訊かれた彗はといえば……
「ねぇねぇ、あのお兄ちゃんうるさいね」
「ホントだね」
「ちょっと黙って欲しいよね」
「うんうん、生徒会くらい何とかしてしといてくれたらいいのにね。彗が頑張って光瑠が読書する場所を確保しているのにね」
「お〜い、リアルに空気と会話しないで下さ〜い。てか、それ嘘だろ」
「バレたか」
「バレるわ」
「でも、お前が静かに読書する場所を確保してやっているというのは事実だろ?」
「まぁ、その場所は毎年コロコロ変わるし、技術室だったり、今いる生物実験室だったりするけどね」
「まぁ、そりゃな。一応同好会やから。むしろ、場所を与えて頂けて光栄って感じだな。
この学校は同好会を含む部活を作ることには比較的易しいが、年度末に5人以上の会員がいなければ自動的に廃部(或いは廃会)となる。だから、去年は『技術同好会』でやっていたが今年は『空気自然同好会』でやっている。廃会になった同好会の会長は来年また違う会を作ることが出来るからな」
「お前の場合は主に自分の趣味を優先して作ってるだろ。2人いれば同好会を作ることが出来るからな。ってか、何だ?この説明めいた会話」
「第1話なんだから、しっかり説明してやらないと読者が意味が判らなくなってしまうだろ」
「ちょっと何言っているのか判らない」
「富澤たけし?」
「『サンドウィッチマン』って素直に言えよ」
「って、聞けー!」
彗は耳栓をして空気と話していた。おそらく、空気の言うことは心で聴いているのだろう。
さっきの彼らの説明だけじゃ足らないこともあろうから、補足を。
去年、ふと機械制御の何かを作ってみたいなと思った彗は静かに読書をする場所が欲しいと言っていた光瑠を引き連れて『技術同好会』という何とも安直な名前の同好会を作った。二人の会員と責任者となる先生が確保出来ていれば、同好会を作るのは難しくない。
で、結果『技術同好会』は見事に承認され、技術室と情報科室を主な活動場所として与えられた。
しかし、彗は何年も『技術同好会』をする気はない。言わば、学校の道具と設備と電気と質のいいソフトを一時期使いたかっただけに過ぎない。だから、1年で廃会にするために彗は光瑠以外の人を入れてはいけなかった。だから、オープンキャンパスや文化祭といったすべての学校行事において催しをしていない。尤も、それだけじゃない気がしてならないが。
そしてめでたく(なのか?)廃会命令が『技術同好会』に出て、今年度初めに彗はまた光瑠を引き連れてしれっとした顔で『空気自然同好会』っていうよく判らないものを作り、今に至る。
彗曰く、「人間、空気と話してみたいやん?」ということだった。ちょっと、凡人には意味不明な答えだが。
「なぁ、彗、せめて生徒会には何とか言っといてくれよ。僕、あの人苦手なんだよ!」
光瑠が懇願する。
「あの人、ってオヨヨのことか?」
「うん、
「ああ、名前が三枝だから」
「OK、答える気がないってことは判った」
ドドドド……
彗がにやける中、廊下の方からそんな音が聞こえてきた。
彗はにやけるのを止めて真面目な顔をして光瑠の方を向き
「誰か、『太鼓の達人』でもやってるのかな?」
「いや、ド・ドンパが走っているのかもしれない」
光瑠はよく彗のことを意味不明な人、とか頭が可笑しいとか言うが、外野から見れば、なかなかにヤバい二人組である。
「ちょっと、
そんな女子の声が聞こえたような気がしたが、女子がいい終えるよりも早く扉がガラっと開いた。
「あの!ここってミス研ですよね!」
違いますが……。
二人は困惑して顔を見合わせるしかなかった。
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