春を売る
週に2回。友達の家で勉強してくる、といえば、疑われることはない。
見た目と性格。
それさえ偽れば、案外バレないものだ。
「今日はご指名ありがとうございまーすっ♡」
胸元が大きく空いた服を身に着けた私は、50歳くらいの男にすり寄る。
一言二言言葉を交わしたあと、私は私を差し出す。
私と交わる人には、様々な人種がいる。
30代のサラリーマン、10代の不良少年、50代の自営業。
一番若くて14歳、一番老いていて63歳。
幅広い人たちが、みんなが、私を必要としてくれている。
そう考えるだけで、体が震え、鈍い喜びが胸を打つ。
私は幸せだ。こんなに大切にしてもらえて。
私は幸せだ。たくさんかわいいって言ってもらえて。
私は幸せだ。優しく撫でてもらえて。
私は幸せなんだ。たとえそれが、全て嘘だとしても。
パパが私を呼び止める。
振り向いて見えたパパの顔は、今まで見たことがないほど引きつっていた。
ママが、椅子に座るように私を促す。
どうしたの、と問う声が、まるで自分の声じゃないように上ずる。
突きつけられた写真には、私が――醜い売春婦が、写っていた。
違う、違うの。
自分を軽んじたわけじゃなくて、もらったこの体が憎いわけじゃなくて。
ごめんなさい。
自分を売って、ごめんなさい。
ごめんなさい?
どうして私が謝る必要があるんだろう?
私の体だ。私のものだ。
私が、私をどうしようが、私の勝手だ。
あなた達に縛られる必要なんてない。
これは、私の人生。何をしようが、私の自由。
それなのに。
なんで許してくれないの?
なんで許してもらわなくちゃなの?
誰も、答えてくれないじゃん。
あー・・・人生って、めんどくさ。
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