第11話 王都へ行こう!
また来たな、性悪玉ねぎめ。
「王都へ行きますわよ!」
「……王都?」
いきなり現れて何を言い出すんだこいつは。
「あなた、魔法学校を受験なさるんでしょう?」
「は、はい。でも、どうしてそれを?」
「あーら、わたくしの情報網をなめちゃいけませんことよ! そんなこととっくのとうに知っていますことよ!」
いちいち感嘆符の多い奴だな、いつもいつも。
それに何が情報網だ。リリアンヌが魔法学校受験を両親に伝えてからもう1ケ月以上経ってるんだから、そんな噂ぐらい周りの人間ならとっくに知ってる。
「それで、どうして王都に?」
「わたくしも魔法学校を受験しますの!」
「え、あの、だから、どうして」
「鈍いですわね、相変わらず」
「ご、ごめんなさい」
「まあ、いいですわ。とにかくわたくしも受験すしますのよ!」
いや、だからそれはもういい。いいから王都へ行く理由を教えろってんだ。
「あなた、勉強のほうはどうですの?」
「え、えっと」
「鈍くて要領の悪いあなたのことですからどうせうまく行っていないんでしょう?
困っているのでしょう?」
困っては、いる。最近、家庭教師の出すテストの点数が伸びなくなってきた。受験を想定して難しくなってきているとは言え、あまり長い間つまづいているわけにもいかない。
「実は、わたくしの伝手で宮廷魔導士の方にお会いできることになりましたの!」
「宮廷、魔導士?」
宮廷魔導士、か。確か王家直属の魔法使いのことをそう呼んだはずだ。
「その方に指導をしていただくことになりましたのよ!」
「そ、そうなんですね」
「そうなんですね、じゃありません。あなたも、一緒に行くんですわ」
「え?」
そう言えば、王都に行きますわよ、とかなんとか言っていたな。
「この国のトップの魔法使いにいろいろと教えていただけるチャンス! もしかしたら推薦状をいただけるかもしれませんわよ!」
……確かにチャンスだ。トップクラスの魔法使いに指導を仰ぐことができれば何か得られるかもしれない。それにオルニールが言うように推薦を獲得できれば、それはそれで万々歳だ。
「行ってみよう、リリアンヌ。ここで立ち止まっているよりずっといい」
そうだ。それに少し息抜きも必要だ。部屋に閉じこもって受験勉強ばかりしていては息が詰まるし気も滅入ってくる。
「わ、わかりました。ご一緒させて、ください」
と、言うわけで王都へ向かうことが決まったわけだ。
そして。
「到着ですわーーーー!!」
一週間。まさか馬車に揺られて一週間もかかるとは思わなかった。
いや、そうだよなぁ。前世の日本とは違うよなぁ。こっちの世界には新幹線もないし飛行機もない。高速バスもなければ、そもそも車もないんだ。大体の移動は徒歩か馬。そうなれば移動に時間がかかるのは当たり前だ。
安易に、行こう、なんて言わなければよかった。途中、街道沿いの宿場町で休んだりしたとはいえ、まだ子供のリリアンヌには辛かっただろう。
「王都。は、初めてきました……」
確かに立派だ。リリアンヌがきょろきょろするのもわかる。レンガ造りの家々がびっしりと敷き詰められるように立ち並ぶ姿は、リリアンヌの生まれた場所では見られない光景だろう。
リリアンヌの生まれ故郷はのどかで静かな場所だ。王都はどうやらそれとは正反対。息抜きをするには、リリアンヌには少し騒がしすぎるか。
「まずはわたくしの屋敷へ向かいましょう。それから荷物を置いて、そのあとは各々自由と言うことで」
馬車の窓から見える光景は、人、人、人だ。今まで見てきた自然あふれる光景とはまるで違う。活気に溢れ、エネルギーに満ち溢れている。
ただ、なんだろう。
そう、あれだ。前世の街を思い出してしまうんだ。あの窒息しそうなほどの圧迫感と息苦しさと気の滅入るような忙しさを。死んだような眼をして出勤していくゾンビのような人たちを思い出してしまう。
俺もその一人だった。仕事に追われ、仕事に追い立てられ、仕事に殺された。
まあ、そのおかげで今があるのだが、二度と戻りたいとは思わない。いや、絶対戻りたくない。
「さ、着きましたわよ。ここがわたくしの、キムリツク家の別邸ですわ」
……立派だ。確かに立派な屋敷だ。しかし、あまり趣味がいいとは言えない。
光を放つような美しい白塗りの壁はいい。成金趣味にも見えるが白い壁に金の窓枠の窓がいくつもあるのは、まあいいとしよう。
で、なんで屋根が紫なんだ? と言うか、なんだあの玉ねぎ型の屋根は?
いや、確かにキムリツク家の家紋には玉ねぎが描かれていたはずだ。なんだか昔に玉ねぎで命拾いをしたとかどうとかいう逸話があることも歴史の授業で教わった。
けど、ここまで玉ねぎにするか? それだけ玉ねぎに誇りを持っているのかもしれないけども。
「どうです? わたくしのお屋敷は」
「と、とってもいいところですね」
「そうでしょう! 特にあの大屋根! 素晴らしい形をしているでしょう!」
……もうツッコむのはやめにしよう。趣味とかそういう話ではなくて、ただ単純にキムリツク家は玉ねぎが好きなんだ。そういうことにしておこう。
「それでは馬車の中でもお伝えした通り、宮廷魔導士様にお会いできるのは三日後。それまでは各自自由。自由ですわ」
三日後か。いや、忙しいであろう宮廷魔導士にアポを取り付けただけでも十分だ。キムリツク家はやはり歴史が長いだけあって王国での顔は相当広いらしい。
「いいですわね、自由。自由ですわよ」
なんだ? やけに自由を強調してるけども。
「じ、自由ですから、わたくしと一緒に王都観光をするのも自由ですわよ」
……なんだ。ただ構ってほしいだけか。
「どうする?」
「えっと、予定はないし、一緒に行っても」
「あーら、そうですの? なら、一緒に観光に行ってもいいですわよ!」
まったく、素直に一緒に行きたいって言えばいいのに。プライドが高いのか、それともただ不器用なだけか。
「でも、今日は少し疲れました。できれば、部屋で」
「そ、そうですわね。無理をして体調を崩されても困りますわ。なら、観光は明日にしましょう」
「ご心配をおかけして、申し訳ありません」
「大丈夫ですわ! 王都は逃げませんもの!」
なんだか、最初に出会った時よりもだいぶ丸くなったような気がする。相変わらず一言多いには多いが、それでもマシになった、かな。
「それでは、夕食で」
「はい」
さて、王都に到着したはいいが。これからどうするか。
「王都観光、楽しみですね。妖精さん」
まあ、リリアンヌが楽しめたら、それでいいか。
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