第11話 誘うモノ誘われるモノ
「………あれ?もしかしてこれで終わり?」
キョトンとする見知らぬモノ。
「えぇ〜…彼らの日常、たったこれだけで終わりなの?ちょっとちょっと〜!もう少し観ていたかったのに〜!!」
モニターに向かって抗議する様に、文句を言い始める見知らぬモノ。
「ったくもぉ〜!これからが良い所何じゃないの?全然見せ場が無かったじゃ、エンターテイメントとしても三流だぞー!気になる所とか、結構有ったのにさ!」
彼らの日常の物語に、かなり酷く文句を言う見知らぬモノ。
「ねえねえ君!君もそう思うだろ?こんな中途半端に終わっちゃ〜さ〜、文句の一つでも言いたくなるよね!だろ?」
同意を求めてくる様子から、三流とか言いながらも、面白いと思っていた様に思えてくる。
「でもまぁ〜、終わってしまったモノはさ、これ以上気にしててもしょうがないよね?飽きちゃうから如何でも良いか…」
手の平を返したかの様に、如何でも良いと冷たく言い放つ見知らぬモノ。
遂今し方、気になると言っていたのに、この変わり様…。
気性の移り変わりが激しいのか、唯の気分屋なのか、正直困惑してしまう…。
三流と言った言葉と、飽きて如何でも良いと言う言葉も、このモノの本音として聞こえるのだ。
だが
「ん?モニターに何かが出て来たよ?何だろ…?」
暗くなったモニターに変化があった。
「えっ何なに?真帆露が慎司達に伝えた事が未だ残っています。ご覧になりたい方は、はいとお答え下さい…?」
と、文字が表示されたのだ。
「えっ!?このモニターに、こんな機能有ったの!?へぇ〜知らなかったよ…」
驚く見知らぬモノ。
「どう言う仕組み何だろ?まだ知らない機能とか有るのかな?…まぁいいや、真帆露が伝えた事だけど、君は観てみたい?僕はね、フフフッそりゃ〜観たいに決まってるじゃない!君もそうだろ?ねぇそうだよね?」
まるで自分と同じ気持ちだろうと、グイグイ押し付ける様に聞く見知らぬモノ。
「ねぇそうだろ?…如何したんだい、黙ってしまって…。えっ…もしかして、観たくは無いとか思ってる?」
少しずつ険しい顔をし始めた見知らぬモノ。
「まさかそんな事は無いよね〜?此処迄一緒に観てきたんだから、僕と同じ気持ちの筈だよね?ねぇ、そうだろ?…」
此処迄くれば、最早強迫として受け取れる気がする…。
これ以上、このモノの機嫌を損ねるのは得じゃ無い気がするので、大人しくそうだと言うのが良いだろう…。
面倒だと思いながらも、そうだと無言で頷いてみせると…
「ほ〜らやっぱりそうだろ〜?本当に素直じゃないんだから〜…。直ぐにそうだと言ってくれないからさ、ヤキモキしちゃいそうになってたよ…いや〜危ない危ない…」
何か今、最後の言葉にザワッとするモノが有ったが、聞かなかった事にして聞き流しておこう…。
「あぁ〜本当にヤキモキしちゃいそうだったよ〜…。まぁそのおかげで、退屈しなくて良かった…あれ?もしかしてさ、ちょっと退屈そうに思ってた僕に気づいて、退屈させない様に、わざとしてくれてたの?」
“はぁ!?そんな訳あるか”と思ったが、わざわざ話を拗らせるのも面倒だと、今度も無言で頷いてみせた。
「あはっやっぱりそうだったんだ〜!如何?凄いでしょ?僕の観察眼と推理がね〜。さぁて、それじゃ観てみようか?モニターに向かって、はいと言えば良いんだよね…。よし、それじゃはいって言うね。モニターさん、僕達観ます。だからはい!」
見知らぬモノが、モニターに向かってはいと言った時
「ん?また何か、説明の続きが書いてあるね…。何なに?この先は、観たいモノだけはいとお答え下さい…。観たくないモノには観られません…。え〜っと、無理矢理観ようとすれば…ペナルティーが課せられます?何だそれ!?…へっ?はいと答えたモノは、特別観察料を支払う必要が有ります?えっ!?何それ…。観察料って、お金を支払わなきゃいけないの!?」
最後迄、説明文を読まなかった見知らぬモノが、今頃になって読み上げた内容に、困惑している…。
「ちょっちょっと!それが分かっていたら、はいと答えなかったのに〜!キャンセル出来ないの!?僕、そんなお金今持ってないんだけれど…」
するとモニターに、更なる説明文が映し出されて来た。
「ん?何なに?はいといいえの何方かを選んでも、選択をキャンセルする事は出来ません…。え〜っと、観察料は…お金では無い別の何かです…。請求は、後程通知が来ます…だって…。ふぅ〜ん…何だか良く分からないや…。まぁいっかぁ〜、余り深く考えてもしょうがないもんね…。それじゃはいと答えたし、僕達は続きを観ようか?」
何とも適当な見知らぬモノ。
こちらとしては、観察料がお金では無く、一体何を請求されるのか知りたいと思うのに、このモノは、そんな事など気にもならないのだろうか…?
不安のまま、あれこれ考えているうちに、真帆露達の日常の続きが、モニターに映し出されてきた。
【此処からは、はいと答えた方のみご覧下さい。 いいえと答えた方が、無理矢理視聴された場合、ペナルティーが課せられます。】
真帆露と彩夏の生まれ変わりである慎司と茉莉奈。
前世の約束を果たす為、二人の前に現れた真帆露との出会により、現世でも二人は結ばれたのだった。
自ら狡賢いと言った真帆露。
慎司と茉莉奈の二人は、その言葉にハニカミながらも、確かにそうだと思えたりもしていた。
何故なら、生前の真帆露が残した未来の自分達への遺産に、色々と二人を結びつける為の仕掛けを施してあったからだ。
その中の一つ、真帆露が立ち上げた会社の相続権の条件である、二人が揃わないと相続出来ない事と、お互いが助け合わないと乗り越えられない内容を、幾つも用意されていたのだ。
元々お互いが初めて出会った時から、お互いの事が気になる相手でもあり、真帆露の策が無くても結ばれていただろうと思われる。
それでもやはり、真帆露が用意した策が、所々で小出しに二人の仲を刺激するモノばかりで、必然的に結ばれる事が決定していた様にも思われるのだ。
だから二人は、真帆露の“狡賢い”にハニカミながらも、世話好きのお節介者と微笑ましく思えていた…。
その二人に子供が出来、幸せ真っ只中のある日、思い掛けない出来事が起きる。
幼い子供達が無垢な寝顔をしているのを見て、嬉々として二人も眠りに落ちた時…
「……司君……奈さん……慎司君、茉莉奈さん…。お〜い聞こえているか〜い…」
何処からか、懐かしい声が2人に呼びかけてきた。
「お〜い…慎司く〜ん…。お〜い…茉莉奈さ〜ん。…おや、私達の声が聞こえてないのかな…。お〜い…お〜い…」
「ちょっと真帆露さん、ダメよそんな大きな声を出しちゃ…。二人は今眠った所なのだから…ね?」
「あっそうだね…いけないいけない…。タハハ…私とした事が、遂急かしてしまう癖がある様だ。やれやれ悪い事しちゃったよ…」
「ふふふっこの二人なら、貴方らしいって言って、笑って許してくれるわよ。でしょ?慎司さん茉莉奈さん…」
優しい口調で尋ねる声に、慎司と茉莉奈は目を覚まし、声のする方を見た。
「おぉ、私達に気づいたみたいだね」
「貴方が騒ぐからですよ…。ごめんなさいね、この人が大きな声を上げて…。でも気づいてくれて嬉しいわ〜…」
そこには真帆露と、初めて見る美しい女性が居た。
「エッ!?ま、真帆露さん!?」
「いやぁ〜久し振り、そう私真帆露だよ」
相変わらず優しく微笑みながら、手を振る真帆露。
その隣に居るもう一人の女性に気づいた茉莉奈が
「はい、お久し振りって…ま、真帆露さん…と、隣に居る方って、まさか…」
「そう正解、私が彩夏です。私の姿を見るのは初めてよね、改めて初めまして、彩夏です」
「は、初めまして…」
彩夏の挨拶に、そのまま返事をする茉莉奈。
「うふふっ…何だか変よね…。同じ魂を持った過去の私が、今の私に初めましてだなんてね、言っていて可笑しくなっちゃうわね、ふふふっ…」
確かにこの状況は有り得なく、良く考えてみれば、シュールだと思えた茉莉奈と慎司。
そう思えたら、確かに可笑しくて
「フハッアハハッ」
「うふふふふっふふっ…」
と、同時に笑い出していた。
「あははっ彩夏のその気持ち、私は分かるよ。初めて彼等を見た時に、自分に何言っているんだと思ったんだから…。でもね、同じ魂でも、私達は別人何だと直ぐに思えたよ。何故ならね、私と違って正義感が強かったからね…」
何処か誇らしげに、慎司を見ながら言うその顔は、相変わらず優しく穏やかな顔だった。
それに照れてしまう慎司が
「な、何言ってるんだよ…は、恥ずかしいだろ!?それも自分が自分に言ってると思うと、尚更恥ずかしいよ…」
この言葉で一斉に、大笑いする真帆露達。
「ちょっ、皆んなして笑ってさ…。何だよもう!」
「うふふっごめんなさい慎司さん、遂可笑しくって…」
「ったく茉莉奈迄笑っちゃって…。ふふっまぁ笑うのもしょうがないよな〜。…でさ、突然また僕達の前に現れて如何したのさ、何か重大な事でも起きた?今度は二人一緒にだなんて…」
突然また現れたと思えば、今度は二人一緒に現れた事で、何か重要な事があったのかと、慎司は思ったのだ。
「う〜ん…これと言って、別に特別な事は無いよ」
しらっと言う真帆露に
「ハア!?…えっ…何も無い!?」
目をしかめ、真帆露の言葉の意味が分からない慎司。
「あぁすまないすまない、重大な事は無いってだけで、今回は君達に挨拶しに現れたんだよ。特に彩夏がね、ずっと会いたいと言っていたんだ」
「そうなの、私が貴方達と会いたいと言ってたのよ…。だって狡いでしょ?真帆露さんだけ未来の私達と出会ってるんですもの…」
カラカラと笑いながら彩夏が言った言葉に、慎司と茉莉奈は拍子抜けしてしまう。
「本当に…唯それだけで私達の前に、出てきたんですか…?」
茉莉奈が、過去の自分の自由さに呆れ、そう呟いたら
「いいえそれだけじゃ無いわよ。貴女達に教えて上げたい事が有ったから、それを言いにね現れたの」
「教えたい事?」
「そう、教えたい事。…教えたい事と言うか、今も不思議な感覚に陥る場所について、何故そうなるのかを教えたくてね」
彩夏の言葉に慎司と茉莉奈は、思い当たる節があったのか、顔を見合わせドキッとなった。
「うふふっどうやら図星の様ね、会いたいと言い続けて良かったわ〜。そのおかげであの方に、こうやって会える機会を頂けたのだもの。感謝しなきゃね…」
両手を合わせ、祈りを捧げる様に感謝する彩夏。
「さてお二人に教えなきゃね…。貴方達がこの人、真帆露さんと出会った公園、未だにそこを訪れると何か懐かしい様な、心が騒つく感じがしてないかしら?」
彩夏の言葉に、またもやドキッとする二人。
「ふふっ本当分かり易くて良いわね。それ、その驚く顔が見たくて見たくて、ずっと会いたかったのよ〜♪あぁ〜願いがまた一つ叶ったわ〜。本当にありがたい事です…」
慎司と茉莉奈は、優しい口調で話す彩夏のイメージとは、掛け離れてるのだと思えてきた。
その事に気づいた真帆露が
「彩夏彩夏、そこ迄にしておかないと彼等が困惑してしまうよ…。余りにもイメージが違うとね…。すまない二人共、彼女はね、好奇心旺盛で悪戯好きの所が有るんだ。生前私もよく、その悪戯に驚かされてたよ…」
申し訳なさそうに、真帆露が言う。
「これ以上彩夏の悪戯心に火を付けるといけないからね、私から続きを説明するよ。…あの公園はね、空襲で焼け野原になる迄、私達の家が在った場所なんだ…。そこで何時も、何処で知識を得たのか知らないがね、彩夏が私好みのお菓子や飲み物を作ってくれていたんだ…。あの頃には未だ一般に広まって無い、クッキーやケーキにハーブティー何かをね…」
真帆露の説明に二人、何故今迄不思議な感覚に陥っていたのかが分かり、やっと何に心が騒ついていたのか納得出来たのだった。
納得した時、二人はある事を魂の記憶から思い出す。
「あのベンチの木…」
「えっ…慎司さんもあの木の事、何か思い出したの…?」
「茉莉奈もなのか…?」
二人が顔を見合わせると
「おや、どうやらそれも思い出したみたいだね…」
「ふふっ流石私達の魂を持って生まれただけありますね。記憶とは凄いモノね〜…」
真帆露と彩夏が感心し
「あの木はね、私達が一緒に暮らすと決めた日に、その記念に植えた木なの」
と、彩夏が言い
「何故かあの空襲にも耐えて、ずっと生き延びてくれてるんだ…。まるで私達を見守るかの様に、そして此処が二人の居場所だったと教える様にね…」
遠いあの日を懐かしむ様に、真帆露が優しく言うのだ。
「きっとこれからもあの木は、君達を…君達の子孫を見守ってくれるだろう…」
「えぇきっとそう…。だから偶にはあの木に話し掛けてあげてね…」
「それじゃ私達はそろそろ行くよ…。伝えたい事も伝えたし、彩夏の願いも叶ったし、何よりあの方との約束の時間も終わりそうだからね…」
「これで貴方達の前に現れる事は、もう無いわ…これで最後…。でもね私達二人、向こうの世界でずっと貴方達を見守ってるから…。それじゃさようなら…」
そう言い残し、真帆露と彩夏が別の世界へと消えて行く…。
ピピピピピ…ピピピピピ…ピピピピピ…
目覚ましの音で、目を覚ます二人。
寝呆けながら頭を掻き、慎司が
「何か変な夢だったな…。久々に真帆露さんが夢に出て来たよ…」
その呟きに
「えっ!?慎司さんも!?…私も真帆露さんが夢に出て来たわ…。それに彩夏さんも一緒に…」
“えっ?”となりながら、二人無言で見つめ合う。
「フハッアハハハハッこれはきっと、夢じゃ無いよね…。本当あの人らしいと思えるよ…」
「うふふっそうよね…。真帆露さんらしく感じるわ〜。それに彩夏さんってあんな人だったなんてね…」
「それ!僕もそう思ったよ。ふふふっ同じ魂でもあの二人と僕達は、全然別人って感じだよね…」
「ふふっ私もそれに同意見♪うふふふふっ」
「アハハハハッ」
久々の出会に、心が温かくなる二人だった。
「さあ〜今日も張り切って行こうか!」
「えぇそうね…あの二人に負けない様に、私達も頑張りましょ〜う!」
アハハと笑い合いながら、真帆露と彩夏にまた出会えた事を、二人は嬉しく思えていた。
唯“このお節介”とも、思いながら…。
「………あっ今度こそ終わったみたいだぞ?完全に真っ暗になったし、ご視聴ありがとうございましたって出てるしね…」
如何やら慎司と真帆露の物語が終わったみたいだ…。
「僕としては観察料を支払って、彼等の続きを観れて良かったよ。あのままじゃなぁ〜んか中途半端って気がしててさ、あんまりしっくり来なかったんだよね〜。僕的に気になってた所が分かって、スッキリした!って感じになれたし、まぁ満足かな?及第点ギリギリって所だけれどね〜」
(折角その為に色々したのに、台無しにされちゃ堪らないモノね〜…)
「ねぇ君は如何だった?僕が及第点をだしたんだからさ、君も満足しただろ?」
少し…いやかなり脅迫めいた様にも思える問いに、否定してはいけない気がする。
今度もまた、無言で頷いてみせると…
「そうだろそうだろぉ〜♪そうだよね〜!やっぱり君は僕と感性が、凄く似てるよね?嬉しいなぁ〜。これなら次の日常もさ、楽しく一緒に観られそうだよね〜」
見知らぬモノがとても満足そうに言って、次の日常をも一緒に観る気満々の様だ。
これも断らない方が良さそうだと、無言で頷く事にした。
「アハッ良かった〜!また一緒に観られるんだね?ホッとしたよ…。それじゃ次の日常…スタート…」
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