第12話 嵐の日

 ビューーーゥビュービュービューーーーゥ…

 ザァーーザァーーーザァーー…

 昨夜から、強い雨と風が吹き荒れている。

 もう直ぐ朝が訪れるはずなのに、外は未だ暗いままで、明るくなる気配がしない。

 自分の体内時計がおかしいのかと、窓の外を眺める1匹の犬が居た。

 窓を叩く雨と風に、時折、轟音と共に光落ちる歪な線に、尻尾を丸めて怯えてしまう。

 激しい音を聞かない様に、耳を折りたたんで塞ぐのだが、耳の良い犬では効果は無く、余り意味が無かったみたいだ…。

 ク〜ク〜ク〜…と、か細く鳴いてしまう。

 早く、自分を怖がらせるこの轟音と、この現状が終わって欲しいと願いながら、か細い声で鳴き続けるのだが願いは届かず、激しさを増して行く風雨と雷…。

 怖いと思いながら同じ所をウロウロし、ソワソワしだす犬。

 ソワソワしだして如何したのだろうか…。

 何に対してソワソワしているのかは分からないが、ウロウロする範囲が次第に広がっていく。

 広い部屋をウロウロと、部屋の真ん中迄来ては窓際へと、唯ひたすら行き来している。

 どうやら日課の散歩に行きたいみたいだ…。

 何時もならこの時間には、人で言うのなら、飼い主である主人と一緒にゆっくりと、同じ時間、同じ道、同じ距離を時間を掛けて散歩をしていた。

 飼い主と犬。

 一般的には、それが普通だ。

 飼い主からしてみれば、時折りやんちゃな事をするが、我が子の様に愛おしい存在。

 犬からしてみれば、自分を大切にしてくれる仲間であり、自分を守ってくれる、心許せる家族なのだ…。

 飼い主が、時折り喜んで褒めてくれたり、優しく抱き上げ撫でてくれる事が有った。

 そんな時は何時も、飼い主が喜ぶ“可愛い”仕草や“お利口”な行為をした時に、それが有るのだと、犬は理解した。

 そんな好奇心旺盛な犬がやんちゃをし、飼い主から怒られる事も多かった。

 何度も叱られてるうちに、震えながらシュンっとして、クゥ〜クゥ〜としおらしくしていれば、優しく抱き上げてくれる事も覚えた犬。

 少し賢くなった犬は、今日散歩は無いと思った。

 早くこの嵐が無くなればいいと、犬は思わずにいられなかった。

 この嵐さへ無ければ、きっと飼い主も散歩に連れてってくれると、犬は散歩を諦めた。

 用を足すなら、飼い主に何度も教えられた場所ですれば良い。

 そう思って人で言うトイレに、少し我慢していた便意を処理しに行く犬。

 トイレを済ませた後、犬は部屋の中をウロウロとし始める。

 何かを探しているみたいだ…。

 その何かとは、飼い主だった。

 この数日、散歩何処ろか、飼い主の姿を見ていないのだ。

 きっとこの部屋の何処かに、飼い主が居るのだと思い、何処に居るのだろうと探していた。

 飼い主の匂いは有るのに、何故か見つけられない…。

 そうこうしている内に、お腹が減った犬は、ご飯を食べようと思い、自分用の食卓へと向かう。

 そこには、機械仕掛けの餌と水を出す装置が在り、時間がくれば、新鮮な餌と水が与えられるのだ。

 その事もしっかり理解している犬は、飼い主の手を借りなくても、食事をする事が出来るのだ。

 只ちょっと不満が有るとすれば、変わり映えのないメニュー。

 飼い主は毎食違うモノを食べているのに、自分はずっと同じモノばかり…。

 味には不満は無い。

 けれども、こうも同じモノばかりじゃ、美味い不味いの違いが分からないのが、とても寂しく思えていた。

 偶に貰えた“おやつ”は、食事のモノと違っていたから美味しく思えたが、それもずっと同じモノばかりだったから、唯食欲を少し満たすモノとしてしか、犬は感じる事はなかった。

 だが、その“おやつ”も今は無い…。

 時間を持て余した犬は、少し広い部屋をウロウロとしだす。

 飼い主の、濃い匂いのする所を行ったり来たりと、犬はするのだった。

 何時もなら、大好きな飼い主の匂いのする所で、一人遊びをしていれば、大概の事など気にもならずに過ごせていたのだが、今日は…いや違う…。

 此処最近、不安で堪らなくなる時が増えてきた…。

 ク〜ク〜と、か細い鳴き声を鳴らし、ジッと見つめる場所があった。

 見つめる先には、壊れて閉まらないドアが在った。

 そのドアの向こうには、誰でも出入り自由な入り口が在り、犬でも簡単に外に出られる様になっていた。

 だが、何故か犬は、壊れて閉まらないドアの向こうに、行こうとはしなかった。

 唯、散歩だけなら飼い主が居なくても、ドアの向こうに在る出入り口から外へ出て、犬一匹だけでも行けるのに、犬は一匹で散歩をしようとはしなかった。

 それどころか、この部屋から出る事をしたくは無いみたいなのだ…。

 ジッと観察してみると、何かに怯えてる様にも見える…。

 一体何に犬は怯え、恐ろしく思っているのだろうか…。

 そうこうしている内に、ウロウロし過ぎたせいなのか、自分のベッドに横たわり、すやすやと眠りに落ちるのだった…。





「………あれっ?寝ちゃったね…。如何しよう…。このままじゃ、只ワンコの一日を覗き見してるだけになっちゃうよ…。ねぇ如何しようか?」

 見知らぬモノが、そう問い掛けてきた。

 だがそう言われても、此方としては、如何する事も出来ないのだが…。

 見知らぬモノに、如何答えようかと考えていたら…

「あっそうだ!このワンコには悪いけれどさ、どんな夢を見てるのかをね、覗き見してみない?」

 などと、また不思議な事を言う見知らぬモノ。

「うんヨシッ!うんうんそうしよう、そうしよう!ね、ね?そうしようよね?」

 相変わらず強引な見知らぬモノ。

 下手に機嫌を悪くさせても何だから、今回もうんと頷く事にした。

「ヨシそうと決まれば、このリモコンのこのボタンを押して…っと、おっ?無事覗き見出来そうだよ?…ふふっでは早速覗こうか…」

 とても満足そうにしている、見知らぬモノ…。

 そして映し出された“夢”の映像とは…。




「………かい……いかい………いいかい………」

 何処からか、誰かの声が聞こえてきた…。

 もっと耳を澄ませて聞いてみると…。

「もういいかい…もういいかい…」

「ま〜だだよ〜…」

「もういいかい…」

「もぅいいよ〜…」

 何処かで誰かが、隠れんぼをしているみたいた…。




「ん?…あれっ?…これって確か…四人目の女の子の日常…だったよね…。あれっ?んんん?…如何言う事…何だろ…。ワンコの見ている夢…んん?何故別の、覗き見相手が此処で出てくるんだ?」

 かなり困惑している見知らぬモノ…。

「このままじゃ埒があかないよね…。しょうがないからこのまま、この先を見て行こうか…」

 そう言って、犬の見ている“夢”の続きを見る事になったのだ…。

 さて、この先は一体如何なるのだろうか…。

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View ー 覗き見 ー 喜遊元 我可那 @tomotomo7

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