聖騎士
聖騎士とは、王家直属の護衛騎士のことだ。
一般的な騎士とは違い、街の治安や戦争に参加……よりも、王家に関わること全般に任務が行われる。
そのため、王家から直々に選ばれた人間しか所属しておらず、一人一人の実力は国規模の中で頭を抜いている。
それに加え、聖騎士の多くは貴族出身───もしくは、爵位を賜ったものがほとんどだ。
故に───
(お金は稼げますが、これで自堕落ライフとは無縁な関係値ができてしまいましたね)
なんてことを思いながら、聖騎士の女性にアリアは椅子を差し出す。
こういう気遣いは弟子の役目だ。お金のことしか考えておらず、内心ウハウハで接待を忘れている師匠にはできないことであるために。
「す、すまない……」
「いえ、お構いなく」
ペコリと頭を下げ、アリアはユランの横に座って何故か見せつけるように肩を寄せた。
「それで、この度はどういった魔法をお望みなのでしょうか?」
「待て待て待て、平然と会話を進めるな」
「ハッ! 失礼しました……頭を撫でてもらっておりませんでしたね」
「え、コメディ枠でも狙ってんの?」
唐突に甘えてきた弟子に首を傾げるユラン。
どしたの? 気遣いはできて空気は読めないの? と。心配しながら自分達を見てポカンと口を開けている聖騎士の女性をチラッと横目に見る。
とはいえ、一見この空気の読めていないマイペースな行動……これには、れっきとした理由があり───
(……この綺麗な人がご主人様に靡かないよう、今のうちに牽制しておかなくては)
───単純に、可愛い弟子の嫉妬である。
「それで、君……えーっと、名前は?」
アリアが離れてくれなさそうなので、仕方なく頭を撫でながら聖騎士の女性に視線を向ける。
すると我に返ったのか、女性は背筋を跳ねさせて胸に手を当てた。
「王家直属騎士団───聖騎士、ジャンヌと申しますっ!」
「様になってんなぁ……まぁ、いいや。さっきから甘えん坊スタイルのこっちが弟子のアリア」
「アリア……と申すと、あのソロにもかかわらずSランク冒険者に近い『魔法の異端児』なの、か?」
「え、お前そんな名前で呼ばれてんの?」
「お恥ずかしい呼び名です」
ただ、お師匠様から魔法を習っているだけですのに、と。アリアは唇を尖らせる。
とはいえ、その呼び名が「ただ」などと簡単に終わるわけがない……というのを、驚いているジャンヌの反応でよく分かった。
「あと、俺は───」
「賢者様だな!?」
己の自己紹介を言い終わる前に、ジャンヌが食い気味に反応を見せる。
「数多の魔法を生み出し、己自身が国家をも揺るがす魔法を扱えるという人間。その正体は明かされず、謎に満ちた噂の賢者様……まさか、このような場所でお会いできるとは……ッ!」
嬉しそうに噛み締めるジャンヌ。
それを見て、ユランは頬を引き攣らせた。
「(だらだらと好きなように生きたくて引き篭ってたから……なんて言ったら泣くかなぁ?)」
「(乙女の夢を壊さないよう、お口にチャックですよ)」
アリアがユランの口元に手を当てる。
余計なことは言うなという可愛い弟子からのお達しのようだ。
「ごほんっ! そ、それで……王家直属の騎士様は一体何用で?」
ここに来たということは、先程自分から言っていた通り魔法を望んでいるのだろう。
ただ、ユランが聞いているのは「魔法の中で何がほしいか?」という部分だ。
「聖騎士ってことは、武人か。ってなると、剣から炎を出したいのか? それとも、身体能力の向上? 弱点を補うための中距離戦闘用の魔法か?」
「案外、そっち方面ではないかもしれませんよ。女の子ですし」
「女の子が必要な魔法っていうのは少し気になるが……まぁ、望むものをやろう。自慢じゃないが、どんな目的にも沿った魔法を提供できることに関しては引け劣らない自負がある」
とはいえ、と。ユランは唇を吊り上げた。
「言っておくが、俺達が認めた相手にしか魔法書は売るつもりはない」
「噂で聞いた……そこは承知している。だから、それ相応の金は持ってきた!」
そう言って、ジャンヌは立ち上がってカウンターの上に大きな袋を叩きつけた。
その中には、たくさんの金貨が詰め込まれており───
「(やべぇ……これだけで超誘惑に負けそう)」
「(ダメですよ、お師匠様……私達の方針を考えなくては)」
「(分かってるけど、ちょっとぐらいは目の前の誘惑に手を伸ばさせてほしいぜ……)」
ユランとしてはこの段階で首を縦に振りたいところだが、残念ながら隣のお弟子さんが許してくれそうにない。
そのため、悲しくもユランは金貨の詰め込まれた袋から視線を上げてジャンヌの方を見た。
「金は別にいい……いや、本当はよくないしめちゃくちゃ懐に入れさせてほしんだけどもッッッ!!!」
「お師匠様」
「……残念ながら、変なやつにあげないよう厳選するっていうのが『魔法倉庫』と弟子の方針でな。どんな魔法がほしくて、どんな目的があるのかを教えてくれ」
ゴクリ、と。尋ねた瞬間にジャンヌが息を飲む。
それほど重たい話なのだろうか? と、ユランは少し身構える。
そして───
「ひ、姫様をお救いできるような魔法を売ってほしいっ!」
それを聞いて、ユランは必死に口にしたジャンヌとは裏腹にまたしても頬を引き攣らせるのであった。
「(……おっも)」
「(ワケあり……みたいですね)」
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