お店の準備

次回以降は9時のみの更新です!( ̄^ ̄ゞ


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「っていうわけで、お店を見つけた」

「ここ、ですか」


 セレシアに相談して早速翌日。

 明日を生きるお金が目下厳しいことから、ユランは早速セレシアから紹介してもらったお店へと足を運んでいた。

 隣には、小さな店舗を見上げるアリアの姿が。

 先日冒険者として最後のお仕事を終え、今日から本格的にお師匠様のお手伝いをするらしい。


「王都の中心から離れているとはいえ、小綺麗な外観ですね。元より大行列するほど売ろうとは思っていませんし、中々最適なのでは?」

「だなぁ、行列ができるほどだったら忙しいし嫌だし。できることなら静かでまったりしながらいっぱいお金がほしい」

「やる気がない割に欲が強いですね」


 二人は早速中へ入っていく。

 外観から想像できるほどの広さ。大きすぎず狭すぎず。ただいつでも入れるようにしてあったからか、清掃が終わったであろう綺麗さがあった。


「……女狐め、いいお店を紹介しやがります」

「なぁ、なんでそんな敵意高いの?」


 せっかくいいお店紹介してもらったのに、と。

 お店の中を見渡しながら悪態をつくアリアを見て、ユランは首を傾げた。


「それで、これからこちらに魔法書を運び込めばいいのですよね?」


 もちろん、お店を借りただけでお店そのものができているわけではない。

 魔法書を売るためには、外れにある自分達の小屋から魔法書を運び込まなければならず、かなり面倒な作業がこれから待っていた。


(まぁ、運ぶこと自体は魔法で楽に済むのですが、何往復かしなければならないですし、かなりの手間ですね。それに、魔法書を浮かべて王都を歩けば注目が―――)


 パチン(ユランが指を鳴らす音)

 ドサドサドサッッッ(本棚ごと魔法書が出現する音)


「うん、これでいいだろう!」

「…………」


 真剣に考えていた時間を返せ、と。

 アリアは思った。


「……相変わらず、お師匠様の魔法はバグってますね」

「おい、言い方が悪いぞ弟子。ただ物体を移動させる魔法じゃないか……こんなの、座標同士を魔法式に組み込んで重ね合わせればすぐにできる」

「あとで教えてください」

「寝る前にな」

「一緒にですか!?」

「別々だよ馬鹿野郎」


 ユランは背伸びして、頬を膨らませるアリアを無視しながらゆっくりと奥へと向かっていく。

 その途中に指を鳴らし、虚空からカウンターと椅子を出現させると、そのまま腰を下ろした。


「さて、店は完成した! あとはじゃんじゃん……いや、じゃんじゃんではなくていい! ほどよくお客さんが来て、ガッツリお金を稼いでいこうじゃないか!」

「お客さん、来てくれますでしょうか?」

「大丈夫だろ! 魔法書は貴重だからな、価格もお手頃にしたし……物珍しさで足を運んでくれたお客さんが買ってくれるって―――」



 ♦♦♦



 そして、それから数時間後———


「暇だなぁ」

「暇ですね」


 ―――特にお客さんは来なかった。


「何故、どうして!? 魔法書だぞ……俺が一から作り出した、既存にはない魔法だぞ!? もしかして、この世界は俺が引き籠っている間に魔法という概念が消え去ってしまったというのか!?」

「そういうわけではありませんが……あっ」


 そう言いかけた時、アリアがふと思い出す。

 そして、手に持っていた本をカウンターに置いてふと入り口まで向かい、顔だけ覗かせると小さく笑みを浮かべた。


「そもそも、看板を出していませんでしたね」

「ハッ!」


 外を見る限り、通行人はいる。

 大体新しくお店ができたのであれば、何人かは顔を覗かせるものなのだが、そもそも店だと認識されていなければ興味を惹かれることもない。

 完全に盲点だったと、ユランは頭を抱える。


「とはいえ、看板かぁ……別に、魔法でちゃっちゃと作ってもいいんだが」

「お師匠様にデザインのセンスがあるかどうか……」

「おい、肩を竦めるなよないって言いたいんなら言えばいいだろう!?」

「そんなお師匠様も、私は大好きです!」

「フォローになってないが!?」


 ユランは立ち上がり、アリアと一緒に店先へと出る。

 他の建物とは違って、なんとなく造りがお店……っぽくはあるが、こうして改めて見ると、何を売っているのかまったく分からなかった。

 これでは、確かにお客様が来ることはなさそうだ。


「うーん……セレシアに相談してみるか?」

「というより、女狐に看板を作らせましょう。働き蟻は働かせないと存在意義がなくなります」

「それは俺達が女王蟻ポジションにいたらの話だがな」


 結局、どうするべきか、と。

 アリアとユランはそれぞれ考え始める。

 その時———


「あ、あのっ!」


 後ろから声を掛けられる。

 ふと振り返ると、そこには花が入った大きな籠を抱え、一本を向けてくる小さな女の子の姿があった。


「お花、買ってくれませんか……?」


 どうやら、このボロボロな服を着ている女の子は花売りのようだ。

 お花自体は、ユラン達のいる山に生えていそうなどこにでもあるもの。特段、今のユラン達に必要とは思えない。

 しかし、ユランは少女と視線を合わせるようにして屈むと、懐から金貨を取り出した。


「綺麗な花じゃないか。これで全部買えるか?」

「い、いいんですか!?」

「お師匠様……」


 驚く少女を他所に、アリアはジト目を向ける。

 ただでさえ、お金がないというのに。そんな意味が込められているように感じた。


(本当に、子供には甘いんですから)


 あとでお金を渡して私も花をもらおう、と。優しい師匠を見てアリアはそんなことを思った。


「にしても、お前は偉いな。まだ小さいのに、もうお金を稼いでんのか?」

「あぅ……お金を稼がないと、お母さんが治せないから」

「そっか」


 少女の落ち込むような顔が二人の視界に入る。

 すると、ユランは立ち上がって少女の肩に手を置いた。


「よし、じゃあ明日も待ってるぞ」

「……えっ?」

「でもなー、俺って正直あんまり金持ってないからなー」


 そして、ユランは惚けるように口角を吊り上げるのであった。


「だから、代金の代わりにお嬢ちゃんの望む魔法を授けよう―――それこそ、を、な」

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