ニャ界転生

@ramia294

   ニャ界転生

 フラレた。


 あんなに、一緒にいたのに……。

 お前だけだよと言って抱き寄せてくれたのに、

 二人で、海に行ったのに……。


 映画だって…、

 遊園地だって……。


 あの私だけに、向けてくれた優しい笑顔が、忘れられない。

 私は、もう生きていけない。


 死のう。


 屋上の手摺りを乗り越えた私。


「フラレたくらいで、本当に死ぬのですか?」


 不意に話しかけられる私。

 振り向くとイケメンが、優しく笑いかけていました。


 私の自殺願望は、朝の光に包まれたれた霧の様に消え去り、一瞬で、イケメンさんに心を奪われました。


 もうあのフラレた男の事は、心の片隅の片すみのどうでもよい記憶の箱にしまわれ、代わりにイケメンさんの笑顔が、私の心から溢れそうにいっぱいになりました。


「とんでもない。私は死にましぇ〜ん。私は、あなたに一目惚れです。どうぞ私と恋のワンダーランドへ」


「ワンダーランドの意味は、分かりませんが、捨てる命なら私たちの世界に、いらっしゃいませんか」


「私たちの世界?」


 そう言えば、イケメンさんの頭には、ネコ耳が。

 それがさらに、キュンと乙女心を刺激するのです。


「ニャ界転生されませんか?」


 イケメンさんのネコ耳がピクピクと動く。

 私の胸は、さらにキュンキュン。


 それだけで、生きて来た意味を見つけ、生きている喜びに包まれ、生まれて来た事に感謝しました。


「イケメンさん。ニャ界でも何処でも、あなたとご一緒出来るなら」


 それではこれを。

 イケメンさんは、そのネコの様な爪で、私の頬をそっと撫でました。

 その瞬間。

 天にも昇る心地になった私は、掴んでいた手摺りを思わず離してしまいました。


 心と裏腹に、地面へ落下していく私。

 イケメンさんを残して死ねない。

 そう思うと、何故か身体が熱く軽くなり、空中で、三回転。

 8階建ての建物から落ちたはずなのに、無事着地してしまいました。


 イケメンさんは、普通に飛び降りると私の前に、軽く着地、笑顔を向けて、


「無事、ニャ界転生されましたね。おめでとうございます。んっ!」


 それは、私にも聞こえました。

 空から何かの音!


 イケメンのネコ耳がピンと立つと、私を抱きかかえ、その場から大きくジャンプしました。


 私たちがいた場所は、落下してきた赤い物体に、粉々に粉砕されていました。

 あの場にいたら、即死だったニヤー。


 ほんの少し前まで、自殺志願者だった私の背中に冷たい物が、流れた……が、


 イケメンに抱っこされている幸せに、心がポヨヨ〜ンとなり、

 直ぐに、他の事はどうでもよくなり、イケメンの首にしがみつきます。


「あれは、血の涙が固まったものです。ニャ界とは、そもそも、乙女の失恋の涙に映る世界が具現化されたもの。大切に育てた初めての恋。失う悲しみに心が壊れそうになる。一生懸命にえる日々。その真夜中。こらえきれず、ひと粒、ふた粒溢れる涙。その涙に映る月の光を浴びネコの姿に変身することができた者。それがニャ界衆。せめて、愛しい人のペットになって愛される事を求める。それがニャ界の住人。しかし、結婚詐欺やホストクラブで騙され、偽りの恋に翻弄され、身を落とした自分自身に堪えられず、苦しみに負け、ニャ界の暗黒面に落ちてしまう乙女が急増しています」


 イケメンにしがみつく事に必死……

な、私は、話の半分も理解出来ません。


 それに、今はお昼時。


 お日さまは、お元気そうですが、さすがに月は出ていません。


「その辺りの事は、分かりません。普通、ニャ界転生は、夜に行われるのですが……」


 暗黒面に落ちた女は、ニャ界衆となってもネコに変身出来ず、紅い唇がツヤツヤした光沢を放つ妖しい魅力の美女となる。

 その力で、騙された男を廃人にするらしい。


「良いわね。美女になれるなら、暗黒面でも何でも。それに、女を騙す様な男なら、廃人になってもいいんじゃない」


「暗黒面に落ちた者は、その男を廃人にしたあと、妖しい美貌を進化させ、世界中の男を騙し続けます。そのうち、この世界から男がいなくなりますよ」


 私は、少し考えました。


「それは、いけないわ」


 が、一瞬の後、


「私には、あなたがいれば良いわ」


 しがみつく腕に、力を込めました。


「ちょっと、その気持ちは分かりませんが。では、あなたはニャ界の住人として、取りあえず、現実世界への帰還をどうぞ」


 イケメンさんは、最後に注意した。

 愛する人のペットにならなければ、心も身体も本物のネコになる。

 ペットでないネコは、野良ちゃん。

 寒い中、

 暑い日々。

 愛を失った時を過ごす残された長い時。

 

 私は、涙に映った月の光が作り出す世界から現実世界へ帰還した。


 現実は、相変わらずで、数ばかり多い人間と変わり映えのしない街。

 そして、浮気者の元カレのニヤけた笑い顔。


 片すみの片隅に追いやったこいつの記憶が、何故か疼く。

 でも、今の私はネコ。

 元カレの足元で、震える可愛い仔猫……ちゃん。


「おっ!可愛い仔猫発見。仔猫ちゃんは、捨てられたのかな?」


『ピンポーン!正解で〜す。あなたに捨てられました』


 そう言葉にしたつもりだったが、実際には、


「ミャ~」


 と、可愛く鳴いただけだった。


「僕も独り身。寂しい存在なんだ。よければ一緒に暮らすかい?」


 元カレは、私を抱き上げると、頬を擦りつけました。

 頬の感触が、心地良く感じる、風吹く夜。

 夏の気配が淡く消え去った空に、秋の星座が見守る、


 ひとりと、

 一匹。

 

『人間だった時も、こんなに可愛がってもらった事は、無かったわ。それにしても独り身って。新しいお相手に、振られたようね。自業自得よね』


 私は、元カレのアパートへ、そのまま連れて帰られました。

 二日前まで、通っていたのに、懐かしい部屋の乱れた様子。


 相変わらずのだらしない人。


 小さな身体で、部屋を数歩。

 脱ぎ捨てられたままのシャツが小さな爪に絡まる事が面白くて、独りではしゃいでいると、彼がドアからそっと出ていった。


 すると、私の身体は、人間の姿に変わる。

 鏡の中の私。

 ネコ耳が、ピコピコと動く私。


 イケメンさんのお話では、人間の視線があれば、転生衆はネコの姿に。

 誰にも見られていない時にだけ、人の姿に戻るらしい。


 彼の部屋で、一人きりの私。

 人の姿に戻った私は、ついクセで、部屋の片付けをしてしまいました。


 しばらくして、両手いっぱい荷物を抱えた元カレが帰って来ました。

 ネコのトイレやキャットフードや水飲みを買って来ました。


 元カレ。

 意外と、こまめさん。


 でもね~!

 本当は、ネコじゃない私。


 キャットフードなんて、食べないわよ。


 カラカラと可愛いネコのシルエットが印刷されている白い食器にドライフードが、山盛り。

 そんなもの、本当は人間の私。

 今の姿が仔猫だけの私が食べるわけないのに……。


 と、笑っていると、何故かとっても良い香りが、食器から……。


 クンクンと鼻を動かすと、食器に印刷されたシルエットが、美味しいよと、誘っているような気がします。


「パリン、パリン」


 ものは試しです。

 実際食べてみると、それはもう美味しくて、

ホッペが、落ちそう。


 まるで、リンゴの様な食感と、トリュフの様な香り……。

 噛み砕くと、口の中いっぱいに、フォアグラの様な官能的な味が広がります。


 夢中で食べ進めると、いつの間にか食器の中のキャットフードは、空になりました。


 失恋以来、食欲の無かった私に、久々の満腹感が訪れました。


 いつの間にか用意されていた水を飲むと、もう抵抗出来ない睡魔に襲われ、不覚にも元カレの懐かしいあの匂いのする膝の上で寝てしまいました。


 気づけば、窓から。

 朝の光が、カーテンの隙間を器用にすり抜け、私のおヒゲにキラキラとおはようの挨拶をしてくれます。


 見上げると、彼はひと晩中、私を膝の上に乗せていたみたいです。

 座りながら寝るという器用なその人。


 心の片隅の片すみ。

 押し込めたその人の記憶が、

 再び私の胸に、

 わずかな痛みを運びます。


 「ミャ〜」


 その人の名を呼んだはずなのに、私の口からは、やはり仔猫の鳴き声。

 小さなその声は、その人を浅い眠りの世界から、現実の世界へ引き戻したみたいです。


 ゆっくりと目を開いた、その人は、膝の上の私を見ると、優しく声をかけました。


「おはよう」


「ミャ〜」


 相変わらず、仔猫の鳴き声の私。

 それでも何日かぶりで、その人におはようの挨拶を。


「朝ごはんを用意するよ」


 彼は私の小さな身体を抱き上げ、柔らかいネコベッドの上にそっと降ろすと、真新しい鈴の付いた赤い首輪を私にプレゼントしてくれました。

 それから、台所でネコ用食器にカラカラとキャットフードを移し始めました。


 台所の彼の後ろ姿。

 記憶の中の片隅の片すみの箱。

 閉じ込めたはずの思い出が、少しづつ、私の中に流れ込んで来ます。

 

 出会った頃、

 春の光。

 きらめく若葉の緑。


 夏の海の白いビーチ。

 私の水着姿に照れて、定まらない、その人の視線。


 同じ時間を歩いていると確信していた私。

 このまま、

 同じ時間を歩き続けると信じていた私。

 何が、私たちの時間を別々に進めたのだろう。


 思い出す、

 街かど。

 長く続いた夏に疲れた街を、久しぶりの爽やかな風。

 赤や黄に、街が色づき始める頃、楽しそうに通りを歩く彼。

 と、その女性。


 笑顔と長い髪が、似合うその女性。


 私では、とても敵わないその女性。


 の、彼を見つめる、

 疑いを知らない瞳。

 その周囲の光を吸い込まれていく深い黒の瞳。


 動けない私。

 掛ける言葉は、いくつも頭の中を巡るのに。

 声を失う私。


 秋の風、

 足元の枯れ葉が、足に絡みつく。


 夏の名残りの最後の温もりを奪って行く風、

 私の大切にしていた温もりを奪って行く街、

 私ひとりが、凍える街。


 そして、ひとりと一匹の部屋。


 小さなノックの後、彼の部屋のドアが、開きく。

 疑いを知らぬ黒い瞳が、姿を現す。


 そう、その姿。


 え?

 その姿?


 何、こいつ?

 まるで当然の様に、ズカズカ部屋に入って来て。

 どういうつもり?

 いつから、そんな関係だったの?


 と、言ったものの、部屋の中には、彼が。


 私は、仔猫の姿まま、小さなトゲの様な爪を出し、シャー!とだけ。


「なんて、可愛い仔猫ちゃんなの。少しでも早く見たかったのよ。でも、シャー!て威嚇しているわ。私の事、嫌いなのかな?」


 その黒い瞳は、いつの間にか私の後ろに周り込み、簡単に抱き上げられてしまった。


「可愛い!!」


 爪で引っ掻こうとしたが、黒い瞳が私を頬ずりすると、何故か心地よく、出した爪が引っ込んでしまった。


『この匂いは、彼に似ている』


 ネコになると、匂いが思考を支配する機会が、多くなる。


「お兄ちゃん。この仔猫、私が飼いたいな」


 お兄ちゃん?


 えっ?


 私の失恋


 もしや、勘違い?


「駄目だよ。この仔猫は、僕が飼う」


 ここは、ペット飼育可の部屋だった。


「振られたばかりで、淋しいものね。デートをすっぽかして、いきなり連絡も取れなくなるなんて。そんな女なんて、早く忘れた方が良いわよ。それにしても、ペット見守りカメラまで買っちゃって。お兄ちゃんも相当の親バカじゃない、猫バカね」


 忘れて……


 私の事?


 忘れて……


 欲しくないわ。


 心の片隅の片すみ。

 閉じ込めたはずの記憶の箱が、蓋を開けはじめる。

 

 秋の爽やかな風。

 優しく吹く風なのに、

 記憶の箱を無理矢理こじ開ける。


 押さえつけていた恋心を、再び胸いっぱいに運ぶ、秋の……いじわるで、優しい風。


 仕事に出掛けていく彼。

 人の姿に戻る私。


「イケメンさん。何処かできっと私の言葉を聞いているイケメンさん。どうか私を元の人間に戻して下さい。この失恋は、間違いでした」


「それは、不可能です。転生されたあなたは、人の視線の届く範囲では、ネコの姿。あなたがひとりきりの場所では人の姿です。ただ、ネコの寿命は、人よりも短い。ネコの姿が、寿命を迎えた時、その人の心にあなたへの思いがまだ残っていれば、あなたは人の姿に戻るかもしれません。ただし、人の心は変わるもの。あまり期待は、出来ません」


 イケメンさんは、その姿を現してくれた。

 イケメンさんの姿を見れば、記憶の箱から溢れ出す恋心に、ストップがかかるかもと、思ったのに……。


 今さら、なんて意地悪な恋心。


「因みに、私はあなたと同じニャ界の住人。つまり女性。ショートの髪がボーイッシュとの感想は、多いですが。念の為」


 ニャんて事でしょう!


 人はそれぞれ。

 女性が女性を……、

 愛する。

 否定は、しませんが、


 私は、殿方が……。

 彼が。


 もうダメだ。

 私の心を守ってくれていた小さな小石のようだったイケメンさんへの想いが、去って行く。

 急な坂道を転がっていく。


 私、小石を見失う。


 小石ひとつで、堰き止めていた流れ。

 小石ひとつを失ったダムが、決壊したように、あの人への想いの濁流に、私の何もかもが、飲み込まれていった。


 その夜は、冷たい風が吹きました。


 ベッドに入る彼。


「何故か部屋がキレイになっているように思えるのだけど、君が掃除してくれたの?」


 彼の身体の上。

 丸くなって眠る私に声をかけるその人。


 そうよ。

 私よ。

 ただし人の姿の私。

 あなたの元カノジョ。

 振られたと勘違いして、

 ニャ界へ転生。

 一人きりの時にしか、

 人の姿になれないドジな私。


 『ミャ〜』


 何を、彼に話しかけても私の口からは、鳴き声だけ。

 

 今は、ネコの、

 あなたを見守るしかない私。

 それでも、あなたは、

 私を大切に守ってくれる。

 守られなければ、生きていけない私。

 せめて、人の姿の時にだけ、

 あなたに役立てればと……。


 『ミャ〜』


 どんなに思いを伝えたくとも、私の口からは、鳴き声だけ。


「そんなわけないよね」


 身体の上の私を優しく撫でる。


「君の名前だけど、まだ決めていなかったよね。ニコちゃんでどうかな?僕には、以前恋人が居たんだけどね。その人は、いつも明るくて、ニコニコしているお日さまの様な女の子でね。大好きだったんだ。僕は、秘かにニコちゃんと呼んでいたんだ。振られたんだけどね」


 夜が来るたび、

 彼は昔の彼女の思い出を

 私との思い出を

 どれほど深く愛していたかの言葉を

 ネコの私に話します。


 『ミャ〜』


 ありがとうの私の言葉は、ただの仔猫の鳴き声。


 眠りに落ちる彼。

 ベッドから降りる私。

 ニコちゃんの私は、名前とは裏腹に、今夜も泣明かし過ごします。


 次の夜も、

 その次の夜も、

 初めてデートに誘った時の緊張、

 初めて二人で観た映画も

 覚えていられないくらいの、胸の高鳴り。

 彼の口から初めて聞く、

 あの春の日の真実。

 

 

 「ありがとう」


 でも、私の口からは、

 どんな言葉も


 『ミャ〜』


 せめて、あなたが喜ぶ様なキレイな声の


 『ミャ〜』


  を、練習するのに……、


 鳴き声が、鼻声になる今夜は、


   月の夜。

   星の夜。

   滲む街灯り。

   が、映し出す叶わぬ私の恋心。

 

 それから、数年たち、

 兄思いの妹さんは、愛する旦那さまを見つけ、

 可愛い子どもまで。


 子どもたちに追いかけられ、キャットタワーへ逃げる私。

 

「ニコちゃんをいじめちゃダメ駄目よ。おじさんの彼女だからね」


 いつまでも、妹に、からかわれる彼。


「お兄ちゃんもそろそろ結婚すれば?ニコちゃんを大切にしてくれるネコ好きな良い人もきっといるわよ」


 生返事をする彼。


 その時が来たら、私は、ここを出ていく。

 本当の猫に。

 人の記憶を失くし、野良猫になる。


 せめて、ペットとして、愛される事が、ニャ界転生。


 自らペットの立場を放棄すれば、心も猫になり、生きていく。


 それがニャ界転生のルール。


 窓の外のノラさんたち。

 その時は、よろしくね!


 でも、彼はいつまで経っても独り身。

 妹さんの子供が、

 小学生になってもひとり。


 中学生になってもひとり。


 どうも、この人は、独身を貫くらしい。


 すっかりおじさんになった彼が仕事に出て行った部屋で相変わらず掃除や片付けをする日を送っている私。

 鏡の中のネコ耳の私は、ニャ界に転生した時のままの若い姿。


 でもネコの姿に戻れば、おばあちゃんネコ。

 最近は、軽快に動けず、キャットタワーに登る事も億劫になった。


 あの人との別れの時間が、近づく。

 ネコの姿のまま、

 愛されたペットのまま、

 あの人の元を去っていく。

 その事を

 夢みるおばあちゃんネコ。

 の、私。


 今夜も、おじさんになった彼の上で眠る私。


 転生して、良かった。


 思っていた形とは違ったが、大好きな彼と愛し愛される事が出来た。

 今夜も昔の恋を私と過ごした時間を懐かしむ彼の言葉を聞きながら、いつもより、ずっと深い眠りへと、二度とその目を開く事の出来ない眠りへと落ちてゆく私。


 最後の夢を見るひと時。


 私は、彼とふたりきり。

 何故か、ネコ耳の無い人の姿の私。


 「愛してるわ」


 の言葉と共に彼の胸の中へ飛び込む私。


 それでもその言葉は、いつもの様に『ミャ〜』と変わり……、


 いや、変わっていない。


 あれ?

 何故?


「おはよう」


 彼が、目覚めて私を見ているのに?

 私の


「おはよう」


 が、


『ミャ〜』


 にならない。


 姿も、人間のまま。

 どうなっているの?


「ネコとしての寿命が、終わったみたいだね」


 何故あなたは知っているの?


 彼が、指差すその先には、ペット見守りカメラ。


「もしかして、全て映っていた?最初から全て知っていた?」


 私の言葉に、彼は頭を横に振る


「まさか、最初は分からなかったさ。もうひとりのボーイッシュなネコさんとの会話で、全て分かったのさ」


 分かっていて、夜が来るたび、永遠と告白を繰り返してきた彼。


 彼は、その主を失くした、鈴のついた赤い首輪を拾う。


「この首輪の代わりに、今日からは、これを君の手に嵌めてくれないか?」


 彼の手の中の、

 その指輪を受け取る私。


 小さなトゲの様な爪は、今は心の中に移動して、人間の私の手に光るその指輪。


 始まる彼との 

 これから。


 少しおじさんだけど……


 ふたりで、ひとつの思い出を

 ふたりで、ひとつの記憶の箱に


 ふたりで、積み上げていく時間が、

 始まりました。


          終わり

 


 








 


 


 


 






 






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