第131話:取材のための帰省9





 祭はまあ色々とあったが総合的に見れば無事に大盛況で終了した。


 そして本日帰省7日目。

 本当は7日目は完全にフリーのはずだったのだが、実は帰省直後の1日目に、一颯の父の伝手でアポをとっていた地元のちょうさの取材先である代表が仕事中にぎっくり腰になって動けなくなったため、別の人へ取材するのか日をずらしても一颯の帰省中に出来るのかで調整をかけた結果、帰省7日目に別の人……とはいっても、代表代理の立場にいる人へ取材することになった。


 急遽決まったことなのでその代理の人のスケジュールに合わせ、帰省7日目の午前中に行った。

 代理の人も言わずもがな地元の人なので一颯も幼い頃から知っている人であるし、和やかに取材は軽く終了。

 その後、解体されたちょうさの保管場所に案内してもらってパーツに分かれたそれらを観察、写真と言う名の資料を撮ってかなりあっさりと終了した。

 高屋神社で取材はみっちりしたし、ちょうさについても資料館でみっちりしたので補足の様なものだ。

 なので物凄くあっさりと終わり、正午を迎えることなく完全なフリーになった。




 というわけで、取材と四六時中注目されっぱなしだった祭とで気力が底をついた一颯はリビングのソファ前のカーペットの上で虚無を抱えて伸びていて、モンスターたちはその傍で父母妹と一緒にテレビを見ている。


「そういえば主、筒井とやらの店にはいかぬのか?」

「元気ない……」


 朧の質問に消えそうな声で答える。


「あら、筒井ちゃんと会ったん?」

「おん……祭来た」

「そうなんか。どれ、わたしがお店行ってこようかね」


 どっこらしょ、と声を出して椅子から立ち上がって母が鞄を手に取る。


「あんた、いつも食べとるやつでええな?」

「おーん……」

「朧さんたちは食べられへんもんある?」

「特にないな」

「なんでも大丈夫だぜ!」

「好き嫌いはないんだ」

「ええ子ばっかりやなぁ」

「こっちみんとって」


 それに比べてこの子は、とばかりに母が妹を見た。

 妹は好き嫌いが多いし、その好き嫌いもそこそこ細かいのだ。

 妹は特に魚が嫌いで、その中でも群を抜いて焼き魚と煮魚が嫌い。でも刺身は好き。焼き魚も鯖と鮭は食べれる。でも他は嫌。という具合に面倒くさいので、一颯が実家にいた頃、母がよく妹の好き嫌いに対してぼやいていた。


「筒井とやらの家の店は料理店か?」

「惣菜屋。昔っからある店。ばーちゃんが若かった頃もあったっていうから、結構古い店ですわ」

「1回、改修工事して店舗自体はめっちゃ綺麗になったんやけどな」


 一颯と妹の説明にそうなのか、と朧は頷いた。

 この場にコックゴーストの面々がいなくてよかったと思わざるを得ない。

 暴走して気力が底をついている一颯を引っ張って突撃していくのが目に見えているので。

 金曜日にもらった料理は確かに美味しかったし、その惣菜屋はおそらく人気なのだろう。

 母がドアを開けて外に出ていくのを見送り、いつの間にか近寄ってきていた実家の飼い猫を抱え込んでいる一颯を見下ろした。














「ほな、向こうに帰るわ」

「元気でな」

「またいつでも帰ってくるんよ?」


 翌日、帰省8日目。

 朝、迎えに来たダンジョン省の人と車の前で一颯たちは家族に挨拶をする。


「次、姉ちゃん帰ってくる頃にはわたしは旦那連れてこっち帰ってきてるかもしれんな」

「ついでに姪っ子か甥っ子が出来てそうではある」

「いやや姉ちゃん、何言うてるん?家継ぐわたしに出来るとしたら娘オンリーに決まっとるやん」

「そうやった」

「そろそろ飛行機の時間が」

「あ、了解です。ほな」

「元気でなー」


 ダンジョン省の人に声をかけられて車に乗り込んで家族に手を振る。

 この後、高松空港から飛行機で東京に戻り、ダンジョン省で西山大臣たちに挨拶をしてからいつものあの空間に戻る事になっている。

 結構な量の祭りに対する資料が出来たので、帰って休んだ後はさっそく動き出さなくてはいけないだろう。

 手合わせにしても参加者を募集して、募集人数によっては予選も実行しないといけないし、祭のスケジュールも決めないとダメだし、神輿やそれに付随する行列をどうするのかも、神輿の担ぎ手を一般から募るのかどうかなど。

 祭のメインに据えるつもりのちょうさについてもデザインを考えて、何台用意するのか、とか、あとこちらも担ぎ手の公募も。

 後、ダンジョン省との連携に、朧たちの舞のBGMを生演奏にするのかどうか、とか色々。


 少し考えただけでやることが多い。

 空港までの道中、そんなことを考えてしまって一颯の目が遠くなる。

 自分でやりたいと言ったからやるけど、企画して準備するけど、面倒くさい。

 底をついていた気力が回復しきっていないからそんなことを考えるのか、そうでないのかの判断が生憎できない。

 でも、ここまでがっつり取材したのだからやっぱ止めますなんて言えるわけもない。

 窓の外、流れていく景色をぼんやりと見つめながらため息を吐きだした。


「……がんばろ」

「何をだ」

「色々」

「そうか」


 隣に座っている朧が一颯の独り言を拾ったのでそう返して目を閉じた。













「ただいまー……へぶっ」

「なぁーん!」

「にゃん!」



「主!?朧様!?」



「前も見た光景ですね」



 何時もいる空間に戻ったと同時にひすいやいなほを筆頭に猫型モンスターたちのタックルを食らった一颯とその周囲にいた朧、矢馳、深山がもふもふの中に消えて行った。

 この光景を知らない面々が慌てふためいているけれど、知っている面々はのんびりした者である。


「あらあらまあまあ、ひすいちゃんたち寂しかったのね」


 コロコロ笑って見守っている馨にため息を吐きだしている錦、その傍でお茶を啜っている繊月と寒月他色々。

 慌てふためいている面々の中、水龍の霧雨が自分の主と王がもふもふに消えて行ったので救出しようとして自らももふもふに埋もれて行って身動き取れなくなっているのが見えた。


「ええい!主と朧様を開放しろ!後はどうでも良いが!お二人だけでも!!あ、ちょ……わたしまで飲み込……」


 そう叫んでいるが呆気なくもふもふの波に飲み込まれて行ったのを錦たちはただただ見守った。


「まあ、ひすいらの気が済んだら主たちはあの毛玉の中から出てくるであろうよ。其処許らも落ち着くが良い」


 手を叩いておろおろしていた面々を宥め、錦は目の前の毛玉団子を見てため息を吐きだした。






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