第130話:取材のための帰省8






 祭2日目も無事に終わった。

 この祭りは2日目夜に花火が上がるのだが、初めて生で花火を見た朧、深山、矢馳が目をキラキラさせていたので、田舎の祭りの花火でこれなら、有名な花火大会を見たらどういう反応をするのだろう。

 一颯はそもそも陰キャで引きこもりなので人が多い花火大会に直接行ったことはないが、話やネットの情報で知ってはいる。後、WeTubeの花火大会の配信。

 まあ、その存在を知って強請られたら考えようと八幡宮からの帰り道、ちょうさの上で座りながら思った。


 なお、2日目終了時の集合写真もトリッターに投稿した。

 ついでに深山の被害者人数も合わせて載せた。








 祭3日目、2日目よりも参加人数が増えていた。

 朝、従兄に連れられてやってきた一颯達は増えた参加者を前に頬を引きつらせ、ちらりと代表を見たが、彼は遠い目をしていた。

 代表の代わりに祭前日夜に遭ったおっさんが数人、担ぎ手と太鼓を叩く役の整理をしていたし、増えた人達はちょうさの担ぎ手になれなくても文句をいう事はなく、すんなりと引いている様子を見せている。

 ごねた結果、深山がキレる事態になるのを恐れているのだろう。なんせ昨日だけで10人以上を病院送りにしているので。




「いつも祭参加してないんに、今年は来たんか」

「やって、土方さんたち来てるていうんやもん……」

「男の“もん”はなんも可愛かわいないわ」

「見ろや、この鳥肌」

「すまんて。まあ、金土は参加してへんし、担ぎ手からはあぶれたけん素直に後ろついてくわ」

「そうせえ」

「金曜夕方から参加しとるおれら勝ち組」

「まじでそれ」

「おれもおまえらと一緒に行けばよかったってめっちゃ後悔しとる」


 一颯たちの近くで高校生たちが話しているのが聞こえてくる。


「他の地区の連中もいつもは“祭ではしゃぐんだせえ”とか言うて良く分からんカッコつけとる“クールなおれってかっけー勢”も参加しとるって聞いた」

「お前、クールっていう単語だけ器用に笑うのすげーな」

「おれ分かった。あれや、文章で表すと”クール(笑)かっこわらい”って表記されるやつや」

「あー……あわよくば土方さんらとお近づきっていうか話したいっていう?」

「そう。まあ、その地区の大人連中が悪させんよう目ぇ光らせとるらしいてうちに近づいてこれんらしい」

「おれらまじで勝ち組やん。今日も今日とて矢馳くんと近い場所の配置やぞ」

「それなー」

「まあ各地区の良識ある大人は頑張ってほしいところ。いやほんとまじで」

「昨日の衝撃的な光景リターンズはまじ勘弁」


 言われてるぞと言わんばかりに一颯が深山を見ればすっと視線を逸らされた。

 普段ダンジョン内でキレたとしても多くて3人同時くらいの被害規模だったのが、現実世界に来た途端に2桁台の犠牲者が発生したのである。しかも累計ではなく、たった1回での被害でそれだ。


 肝を冷やしたのは一颯よりも周囲の人の方だ。土曜日の八幡宮へ向かう道中のちょうさの行列でそれが起こったので目撃者は多数いるわけで。

 そう、別地区のちょうさを担いでいた人たちもそれを目撃しているわけである。

 だからだろうか、最終日である今日も八幡宮に集合するので、他地区の人達はやらかしそうな参加者への監視の目を強めているらしい。

 観客も危ないが、まずは自分のところの監視、という考えなのだろう。



「おはよー、一颯、おまえら」

「なんや筒井、今日は来たんか」


 手を振って寄ってきた女性を見て馬場が声をかけた。


「おうよ。母さん父さんもうちが一颯と友達なん知っとるけん送り出してくれたんよ。今日は後ろから付いてくでー」

「この人数の中に紛れ込むのか」

「……ホンマに増えたな?」


 真顔の真鍋の言葉で周囲を見渡して筒井も真顔で返す。


「金曜より土曜、土曜より今日」

「それな」


 加藤の言葉に一颯も頷く。


「まあでもちょうさ付近は地元民、特に毎年参加しとって、金曜から来とる連中で固めとるけん、その他の人は後ろから付いてくるくらいしか出来んけどな」

「普段スルーするくせに今回来た他所に住んどる親戚連中がちょっとうるさかったけど、おっちゃん連中が跳ね除けとったし、あれ以上騒ぐと深山さまが出動するけん」

「ああ、理解した」


 そっと視線を逸らした友人3人に真顔の筒井が頷く横で一颯が深山を見れば素晴らしい笑顔を返された。


「血を奪うのがダメなら矢馳に頼んでハゲ」

「やめてさしあげろ」


 良い笑顔でハゲまで言った深山の言葉を遮るように一颯が早口でぶった切る。

 病院送りかハゲ、どちらがましかという話ではあるが、一応、おっさん連中の断固拒否の姿勢で引いているので血を吸うのも呪いを飛ばすのもやめてやれ、と一颯は眉間を指で揉みながら止めた。


「病院送りになるだけでその後は普通に生活できる方をとるか、病院送りにはならないけど未来永劫ハゲたままな方をとるか」

「カツラという手があるが、さて」

「さて、やないんよ、馬場」


 真剣な表情で悩む素振りを見せた馬場の横っ腹をどついて一颯は深くため息を吐きだした。


「狐族のハゲの呪い食らった連中って実際どうしてるんです?」

「潔く丸刈り、抵抗するようにカツラ、外では常に帽子を被っているかの3択であるな」

「それ、女の人もですか?」

「うむ」


 加藤の質問に朧が答えて頷いている。


「ちなみにカツラ被ってる奴は見つけ次第、風魔法使えるやつがカツラ吹っ飛ばしてるぜ!ちなみにちゃんとおれらが呪ったやつか判別してやってる!それ以外のカツラの人はスルーしてる!」

「可哀そうが過ぎる」

「でも無関係のハゲは見逃してる優しさはあるらしい」


 からっと笑ってとんでもないことを暴露した矢馳に対して一颯の友人たちが引いている。

 容赦ねえと真鍋が呟いているのが聞こえた。


「ハゲの呪いかけられた後、心の底から反省した場合は呪い解いたりするんです?」

「しないな」


 筒井の質問にきっぱりと矢馳が断言する。


「ハゲ以外の呪いだったら応相談だな!おれら狐人は呪う事は出来ても、解呪出来ないんだけど、衣墨さまや白夜さまは解呪できるから、妖狐の2人もしくは狛犬と獅子の白木と榊を納得させられれば解呪出来るけど、ハゲの呪いはそのままだな!」

「もう二度とすんなよ的な意味を込めて、だっけ?」

「おう!ハゲの呪いかけられたのにそれでもおれら怒らせるとどんどん呪いがグレードアップしていくんだぜ!最終的には妖狐の2人からきっつい呪いが飛ぶ」

「ひぇ」


 始終笑顔で話していた矢馳が最後だけ真顔になればぞわりと背筋を震わせて友人たちが顔を青くさせた。


「それをやられた人っておるんですか?」


 恐る恐る馬場が聞く。好奇心に負けたらしいが、何を聞いてるんだと言わんばかりに加藤が彼の背中をしばいているのが見える。


「いるぞ!人数は伏せとくけど」

「いるんかい……」

「その人、まともに生活出来てへんのと違うん……?」

「というか、神罰とどっちがましなのか」

「配信にいつも映ってるホワイトボード、呪いはハゲ以外に書かれてないけん、知らんかったけど……まじか」

「ま、まあそこまでやらかしたお馬鹿が悪いということで、この話はこのあたりで終わり!」


 本当は怖いもなにも、本気で怖い狐族の呪い事情を知った面々……一颯たちの周囲にいたその他の人達も、矢馳の声が届いた範囲内の人達が顔を青くして必死に頷いた。





「おーし!時間や!行くでー!」


 代表の声が響き渡り、空気を換える様に彼らは一斉に返事をして配置についた。







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