第128話:取材のための帰省6
「ほんまに土方さんたちがおるーーー!!」
夕方、高校が終わった後すぐに駆け付けたのだろう若者が目をきらっきら輝かせながら一颯たちを見ている。
「おう!行儀よくせぇよ!」
「わかっとるって!楽しんでほしいけんな!ばかはやらんわ!」
すかさず飛んできた中年男性からの声にそう返しているあたり、善良な若者なのだろう。
「うちの地区で良かったんちゃうの?他の地区やと素行悪いん何人かおるし、毎年のように祭で問題行動起こす馬鹿おるやろ」
「そういうやつは深山さまにぶっさされるん違うん?」
「もちろん、無礼を働いた時点で血をたんまり貰うとも」
「良くて病院送りであるな。主がいる故、今回はおそらく命までは奪わぬだろうよ」
「それは全力で止めるます」
「デスヨネー!」
高校生たちの会話が聞こえた深山がウキウキと答えれば、びしっと背筋を伸ばして誰もが頷く。
「土方さんらがおるてトリッターで流れてきたときはマジかいって思ったけど、マジやった。道理で今年、金曜なのに人多いはずやわ」
すでに担ぎ棒から溢れだしそうなほど人が集まっているので高校生たちは頷き合う。
「こりゃ土日はもっと人くるで」
「安心せぇ!他所に住んどる親戚よりも地元民優先するけん!」
「他所に住んどる連中が怪我する率高いけんな、それ避けるためにも担ぎ棒ら辺は地元民で固めるで。おまえら安心せえ」
安全第一!と伝える大人の言葉に高校生たちはほっと安心した様に笑顔を見せる。
今いるこの子たちは祭りが大好きなのだろう。
「よっしゃ!」
「おっちゃん、おっちゃん、太鼓叩いてかまん??」
「ええで!おーい!高校生と太鼓交代や!」
「やっと解放されるんかい」
「腕痛いわぁ」
太鼓を乗せている胴体部分からひょこっと顔を出した面々が次々地面に降りて来て、それと交代で高校生4人が乗り込んでいった。
「よーし!1日目終いや!明日もよろしく頼むで!」
代表の言葉に、ちょうさを止めておく場所に戻ってきた面々が伸びた返事を返す。
「あ、あの。ライトアップ消す前に1つ頼んでもええでしょうか?」
そろりと手を上げた一颯に視線が集まり、彼女はびくっと肩をすくめて朧の後ろに隠れようとして当の朧本人止められるという攻防が発生した。
「そ、その、1日目記念で、こ、ここにおる人らで集合写真、撮りたくて……ついでにトリッターに投稿、したいんよ……かまん、ですか?」
そっと出した自分のスマホを見せる。
「ええで!」
全員に同じだけ驚かせてやると昨日高笑いもどきを上げていたおっさんが即答すれば、誰もが自発的にちょうさの前に並び始める。
「真ん中は土方さんらで決まりや!」
「あ、でも朧さまの角」
「朧さまがおさまるあたりは人避けた方がええな」
「あと微妙に矢馳くんの耳も」
「おう分かった!」
「土方さんと深山さまは最前列。その後ろに朧さまと矢馳くんで、その周辺は土方さんと仲ええ真鍋、加藤、馬場、それと三好の坊主で固めるで」
「おれ、坊主って言われる年違うんやけど。勘弁しろや」
ぼそりとつぶやいた一颯の従兄の声は黙殺された。
「あ、写真わたしが撮るわ。他!取ってほしい人らおったらうちにカメラかスマホ渡し!」
最後までついて着ていた筒井が声を上げて一颯からスマホを受け取って言えば、続々と彼女にスマホが集まっていく。
「それじゃ、一颯のやつから撮ってくで!数多いけん、最初以外いちいち声かけんから変顔してもしらんけんな!」
その宣言通り、最初の一発以外、次々と取り換えて撮っていくという流れ作業になった。
「はい最後!」
最後のフラッシュが焚かれて、筒井のもとに集まっていたスマホは持ち主のもとへと帰されていく。
「うわ、おれ半目や」
「ちょいまちぃ、おれ口半開き!!」
だのと騒がしくなる。
そんな中で一颯はスマホをぽちぽち操作してトリッターに筒井が撮ってくれた写真を投稿した。
「祭り1日目終了。お疲れ様でした。明日もよろしくおねしゃす」
の文言をつけて。
いうまでもなく、バズった。
祭2日目にして帰省5日目。
気付け薬をねじ込まれて起きた瞬間、届いていたメッセージをスマホで確認する。
「店ぇ!!」の短い一言が筒井から送られてきていた。
今日はお店のために来れないんだなという事を察した一颯は「おつ」とこれまた短いメッセージを飛ばした。
深山達とダイニングに行って、母に朝ごはんを食べろと強要されながらもそもそ食べて支度を整えたら迎えに来た従兄に連れられて集合場所へと向かう。
「うっわ本当に人増えとる件」
到着してすぐ、「土方さん来た!」「ほんまに来た」とかざわめきが起こって注目を集めたのですっと朧の後ろに隠れようとして朧に阻止された一颯が顔を引き攣らせた。
昨日と同じ位置に深山と朧と一緒に座り、近くに矢馳が配置される。
矢馳の近くは一颯と仲が良い面々と、従兄、それから昨日もいた大人達と夕方以降から来ていた高校生たちで固められていて、次に近い位置である太鼓を叩く場所である胴体部分は取り合いが発生したので、じゃんけんが勃発して、順番が決められたようである。
「土方さんらがおるって聞いて兵庫に出てた兄ちゃんが今こっち帰って来ようとしとるんよな」
「おれんとこもやで。兄貴だけやなくて姉貴まで帰って来ようとしとる」
「おまえんとこの姉貴、神奈川とか言っとらんかった?」
「そうやで。新幹線飛び乗ったって連絡きた」
「今から帰ってきても、土方さんら見るだけで精いっぱい違うん?担ぎ棒はまだ動き出す前やっていうんに定員いっぱいいっぱいやん。太鼓も順番待ち含めて埋まったし」
「それなー」
「いつも祭スルーする親戚が朝っぱらから押し掛けて来て親父がめっちゃ不機嫌で困った」
「ご愁傷様」
「それでおまえの親父さんおらんのか」
「そう。そろそろ来るとは思うんやけど。ちな、おれは逃げてきた」
「だと思たわ」
昨日の夕方以降からいる高校生たちが矢馳の近くでしゃべっている。
矢馳は矢馳で一颯の友人たちや従兄と一緒に楽しそうに話しているし、一颯は深山と朧と一緒に周囲を観察している。
「よーし!時間や!行くぞ!」
代表の言葉が響き渡り、どん、と太鼓の音が鳴り響き始めた。
「行列になっておるな」
座っていた場所に立ち上がり、背後を見た朧が伝えてくる。
担ぎ手からこぼれた面々がそのままついてきているので、背後が行列状態になっているという。
「主様効果凄いね」
「わたし効果っていうか、おまいら効果やん……」
「主様がいなかったらわたしたちだっていないんだから、主様効果でいいんだよ」
「ほうか……」
深山の横で座りながら一颯が縮こまる。
「今日と明日は宮入りするから、八幡さんの方も人凄いやろうなぁ」
「本殿の方かい?」
「んにゃ、その下。本殿ある山の麓。そういや神さまって本殿、本宮付近でしか行動出来んらしいけど、お祭りの時ってどうなんやろか。下まで降りてこれるんかな」
「どうなんだろうね?お祭り見れないとかそれこそ神さま怒りそうだし、下まで降りて来てるんじゃないかな?」
「まあ、八幡さんに行った後、時間出来るし、確認行こか」
「秋祭り参加の地区が全部来るのかい?」
「おん。壮観やで」
「楽しみにしておくよ」
座ってのんびりしている3人の近くで担ぎ棒について歩いている矢馳はとても楽しそうである。
たまに尻尾が矢馳の後ろにいる従兄に当たっているが従兄は気にしていないらしい。
むしろ、ふわふわの毛並みに感動している。
「とりま、八幡さんついたら神さま下に降りて来てるか確認して、降りて来てたら改めて挨拶するます。その後、屋台いけるやろか」
「どうだろうね。わたしたち効果で人が物凄いと聞いているし、今も、この周りを沢山の人が付いてきているし」
「それな。久々に屋台の食べ物食べたくなってきた。妙や大介たちのご飯は美味しいけど、それはそうとして、たまには違うものも食べたいというか」
「それ言うと妙たちが作ってしまうけど」
「ありがたいけど、なんというか、こう……違う、そうじゃないって言いたくなるます」
「そういうものかい?」
「おん」
一颯達がまつりに参加したことで注目をいきなり浴びることになったこの祭り。
全くこの祭りを知らなかった人達まで集まってきているから、あちらもこちらもてんやわんやの大騒ぎだという。
本当に申し訳ないことをしたなと反省はしているけれど、後悔はしていない。
一颯を良く知る友人たちがそのことを知ったらきっと「お前そういうとこやぞ」と一斉に言ったことだろう。
「いつか祇園祭とかねぶた祭とかも生で見てみたい件」
「……ここの比ではないくらいの騒ぎにならないかな?その祭り、ただでさえ人多いよね?」
「というか、引きこもりの汝が人が多い場所に行けるのか。汝が言うマイナー地区のマイナーな祭りでこうであるぞ」
「……い、いうてみただけやし……」
有名な祭り2つを上げた一颯に即行で深山と朧からツッコミが入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます