第127話:取材のための帰省5





「お、おはようございます……3日間、よろしくお願いします……」


 帰省4日目、ちょうさが動き出す時間の少し前。

 迎えに来た従兄に連れられてやってきた倉庫前で、大注目される中、居心地が悪そうに挨拶する一颯の声が小さく響いた。



「土方さんたち来るとか聞いてない!!聞いてない!!」

「代表!?それにお前らもなんでそんな笑顔なんや!さては知っとったな!?」

「昨日おれらは驚かされた。おまえらも驚くがええわの精神で黙っとった!!」



 昨日高笑いもどきな笑い声をあげていた人が輝く笑顔で言い放てば周りの男衆はどすどすと彼を小突きはじめる。



「真鍋ぇ!!土方が来ること知っとったな!?」

「その笑顔!知っとったやろ!?なんで教えんかった!?」


 笑顔の真鍋につかみかかるのは、一颯と中高、学校が一緒で仲が良かった2人、加藤と馬場である。


「おまいら久しぶりー」

「おう久しぶりー!……やないわ!!真鍋ぇ!!土方が祭参加するんやったらそれ知っとったおまえが俺らに連絡せえや!!心臓まろびでるかと思たやろがい!!」

「おまえら参加して大丈夫なんか。くそ目立つうえに帰る度に野次馬に囲まれるおまえらが」

「許可はもろた。迷惑はかけると思うけど、頼んます」


「……はー、まあええわ。迷惑かけて深山さまキレさせる阿呆は知らん。それと、祭やけん、動画とか写真撮るやつもおるけど、そのあたりはどうなん?」

「オールおk。祭りの間に限り許可でとる」

「ほうか……はい、チーズ」

「いえー」


 真鍋を揺さぶっている加藤を放置して馬場がスマホを起動させて土方の横に立つと、自撮りモードのそれを翳したので枠内に一颯、朧、深山、矢馳も一緒に収まり、隅っこに揺さぶられている真鍋と揺さぶっている加藤を入れて馬場が写真をとった。

 ちなみに写った真鍋は思い切りブレているが、馬場は気にせず保存した。


「こりゃおまえらおるの知られたら今日の夜から学生増えそうやな。あと大人もか」

「担ぎ棒から人溢れるで」

「やっと解放された……」


 加藤の気の済むまで揺さぶられていた真鍋が顔色を悪くしながらふらついているが、当の加藤は我関せずである。


「事前に代表が知らせんかったんは、普段寄り付きもせん親戚連中弾くためか」

「おん。昨日、そんなこと聞いた」

「さっきの写真筒井に送り付けたろ」

「え。やめてクレメンス」

「遅い。もう送った」


 マイペースにスマホを弄っていた馬場が一颯の女友達である筒井に写真を送り付けた画面を見せてくる。

 思わずため息を吐きだし、多分写真を確認した筒井がこの後突撃してくるだろうなと予想する。



「おう、そろそろ時間や!ええ加減現実直視して戻ってこい!」

「誰の所為や!!」



 腕時計を見て声を張り上げた代表他、昨日の夜に一颯たちと会っていた面々に向かって怒り交じりの怒鳴り声が降り注いだ。











 全身を震わせる太鼓の音、それを聞きながら一颯、朧、深山は提案された通りにゆっくり道を進むちょうさの上に座っている。


「はー、懐かし。あと新鮮」

「主の住んでいる場所にもちょうさあるのにか?」

「幼い頃は乗っていたり、担いでいたりしたんだろう?」

「ここのより小さいんよ。やから、視線が高くて新鮮」

「なるほど」


 前に一颯と深山、後ろに朧という並びで座っているし、矢馳はその近くで地元の人に紛れて棒を担いでいる。

 道行く人達がちょうさを担いでいる面々の中に紛れ込む矢馳や、上に座っているとんでもなく目立つ朧や深山、その横にいる一颯を見つけて驚きの声を上げている。

 そんな中でスマホを向けてきた人が数人いた。

 思わず止めようとした周囲の人をよそに矢馳は満面の笑顔でピースを向けたり、深山もにっこり笑って手を振ったりしていたし、朧は無反応だったが睨まれることもなかったのでなぜか許されたとばかりに写真をとって惚けた。


「祭りの間だけ撮影許可してるから気にすんな!でも撮るならカッコよくとってくれよ!」


 写真をとってしまった、どうしよう、でも許された?!と混乱している面々ににかっと笑顔を向けて矢馳が伝えて通り過ぎていく。

 そしてその矢馳の発言はあっという間に広まっていった。

 特に写真を撮った人達がトリッターにその言葉付きで写真を投稿したものだから、すさまじい反響を呼び込むことになる。

 まあ、つまりは今から現地に向かおうと移動する人達が出てきたのである。


 それを見越してか、一颯の友人である馬場がにこにこ笑顔の深山の写真を撮って自らのトリッターアカウントで、先ほど矢馳たちの写真を投稿した人のものを引用したうえで投稿。

 ちなみに深山の写真と共に付け加えられた文言は「※深山さまもいます」の一言である。

 あと、矢馳たちの写真をトリッターに上げた人はその後慌てて深山を中心に映した写真も投稿して、馬場と同じように「撮影許可されたけど、深山さまいるので注意!」という一文をつけた。

 急いで向かおうとしていた人たちはそれらを見てテンションを落ち着けたらしい。

 だがそれでも、近隣の宿泊施設はあっという間に部屋が埋まり、他の市や町でも近場からどんどん宿泊施設の部屋が埋まっていくという現状が起きたという。


「深山が抑止力になっとる件」

「当たり前であるな」


 スマホを取り出してトリッターを見ていた一颯がぼそりと呟けば、それを太鼓の音に紛れて拾った朧が頷いている。


「えーと、わたしからも発信した方が良き?」

「うん、それが一番だと思うよ。主様の方がネームバリューあるんだし、トリッターのフォロワー……っていうんだっけ?その数も多いだろう?」

「ならそうするかなぁ。矢馳ー」

「なんだ?」

「ちっとだけ朧の横にきてくれん?」

「分かった!」


 自分たちの近くで歩いている矢馳を呼んで朧の横に座らせる。


「はいチーズ」


 そのまま4人で写真を撮ってトリッターに投稿する。

 沿えるコメントは「親戚の地元の祭りに参加中。祭りの間に限り写真および動画撮影許可しとるます。※ただし深山がいるんでマナーには気を付けてもろて。あとハゲの呪いもあり得るんで注意」である。

 元居た位置に戻っていく矢馳を目の端に捉えつつ、あっという間に拡散されていく自分の投稿をじっと見つめた。










「一颯ぃ!!」

「ひぇ」


 休憩時間、休憩場所に突撃してきたのは去年戻ってきたという女友達である筒井。


「なんでうちは馬場からあんたがおることの連絡貰うんや!!」

「や、だってわたし、おまいが帰ってきてるん知らんかったし……」

「それはそうやけど!!くっやしい!はいこれ差し入れ!」

「あ、ありがと……」


 キレ気味に渡されたビニール袋を覗き込む。

 入っていたのは麦茶のペットボトルとタッパーに入っている軽食だ。


「これ、おまいんとこのお店の惣菜?」

「せやで。時間があるんやったらうちの店来てつか」

「あー……時間あるかなぁ」

「祭りの3日間の次の日に帰るん?帰省7日間やんな?」

「や、1日こっちにおって、その次に帰る。7泊8日。おまいの店行けるとしたら最終日か、7日目かな」


 矢馳が食べたそうにしていたのでタッパーと割り箸を渡し、深山と朧にも渡す。


「法被着てきたってことはついてくるん?」

「そうやで。せっかくあんたが参加してるんやったら参加するわ。ほんま何年振りやろ」

「お?筒井来たんか」

「馬場ぁ!!」

「うぉっ」


 ひょこっと顔を出した馬場に筒井がつかみかかりに行くのを見送りながら一颯は自分用のタッパーの蓋を開けた。


「汝の大学の友と良い、濃いな」

「それな。わたしでもそう思う」

「おまえら、トリッターでめっちゃ写真と動画あがってるで」

「許可してるからなー」


 筒井にどつかれまくっている馬場の横を通り過ぎてスマホを見ている加藤と真鍋が寄ってくる。


「筒井という子はいつからの友達なんだい?」


 差し入れの惣菜を頬張りながら深山が聞いてくる。


「高校で3年間クラスが同じやったんよ。幼馴染がおらん時はよう面倒みられてたんで仲良くなった」

「ああ……汝の世話係であったか」

「そうそう。幼馴染の連中と筒井とあと2人……今は県外におるやつらなんですけど、そいつらが土方の面倒よう見てたんすわ。夕方にならんとしゃっきりせん土方引っ張ってたっけな」

「午前中とか意識あるんかも分からん有様の土方どつきまわして起こしたりな」

「先生連中も諦め気味やったもんな」


「主」

「す、筋金入りの夜型なもんで……」

「そうそれ。夜型なんに、なんでしゃっきりしとん?」

「薬師兎印の睡眠薬と気付け薬のお陰」

「すげーな。兎の薬」

「それな」

「てかそれ筒井んとこの惣菜?」

「おん」


「筒井ー!おれらのは?」

「あると思うてるんか」

「あ、ないんやな……」

「休憩後のルート上に筒井ん家の店あるか?久々にあっこの店の食べたくなってきた」


 未だに馬場をどつきまわしている筒井からそんな返事が返ってきて2人は休憩後の練り歩きルートどこになるかな、と考えだした。






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