第125話:取材のための帰省3





 帰省3日目、スケジュールが一番密集している日である。

 昨日は金刀比羅宮から帰ることが出来ず、参拝時間の終わりが来ても引き留められ、神職の人達も諦め気味の目をしていて、結局は本宮にての時間話し相手を一颯達は勤めて、実家に到着した時は日を跨いでしまっていた。

 遅くまで起きて一颯達を待ってくれていた妹に謝りつつ、3日目も午前中から動くのでさっさと寝支度を整えて寝て、深山に気付け薬をねじ込まれて起きて、高屋神社に向かった。


 高屋神社は山頂に存在する本宮よりも下に下宮と言われる場所があるが、取材は、誰とは言わないが、かの方々のご希望により、山頂の本宮で執り行われることになった。

 なので、本宮近くまで車で乗り入れてやってきている。

 流石生まれ故郷なだけあり、高屋神社をよく知っている一颯が下宮から山道を登っていくルートを却下したためである。


「ようこそおいでくださいました」

「あー……その、はい、あの、本日はよろしくお願いします……」


 諦めきった目をしている宮司に本宮で出迎えられながら、一颯たち(ダンジョン省の女性除く)は彼の横に視線が吸い寄せられていた。

 そうである。金刀比羅宮に続いてここでもまた、御祭神の方々がスタンバイしていたのである。

 高屋神社の本宮は、金刀比羅宮の本宮がある場所の様に広くないので、宮司に案内されて腰を落ち着けた場所にも普通についてきた。つまりそこは神々の行動範囲内というわけだ。

 そして、一颯たちの視線が宮司の横に向いているのに気づいたダンジョン省の女性が気づいてたらりと冷や汗を流し、更に姿勢が良くなったのは言わずもがな。


「祭りの取材とのことでしたが、土方さんは地元ですし、必要でした?」

「一応、いるかな、と。参加してたんも、ずっとずっと昔ですし、高校上がってからは家の前ちょうさが通り過ぎるん見てるだけでしたし、大学入ってからは祭りの時期に帰省もしてなかったんで、結構うろ覚えで」

「なるほど、それは確かに必要ですな」

「ただ、まあそこそこ知ってはいるんで、ほぼ確認とか、わたしの知らんこと聞くくらいで終わると思います」

「まあ、でしょうな」


 うんうん、と宮司は頷いている。

 何度も言うが、ここは一颯の生まれ故郷なので。大学入学で香川を離れるまで暮らしていた場所なので、知らない方がおかしいので。


「ちなみに、実際のちょうさは見るので?」

「隣の秋祭りのちょうさ飾ってる資料館というか、コミュニティーセンターにこの後いく予定です。地域は違いますし、ちょうさの大きさも違いますが、ちょうさはちょうさなので」

「ふむ、それもそうですな。あちらさんのちょうさはこちらのと比べても大きいですが、ちょうさはちょうさですしな」

「本当はこちらの春祭りの時期に来ても良かったんですが、それだとちょっと遅いと思いまして……え、あ、はい。ダンジョンの祭りはこちらの高屋神社のお祭りと、金刀比羅宮のお祭りを参考にさせていただくつもりでして……。え、あ、はい。神社エリアは金刀比羅宮をベースに高屋神社要素も入れておりまして、その、はい」


 宮司の横から御祭神の1柱に尋ねられたのだろう、一颯が恐る恐る答えている。

 ここの宮司も神々の姿はしっかり見えて声もしっかり聞こえているらしく、相槌を打つように時々頷いている。


「ぐ、具体的に……?!えと、その、神社エリアの本宮より上にある通称“おくやしろ”は高屋神社本宮モチーフで……あの、天空の鳥居もそれで、作って……うぇ!?あ、ありがとう、ございます……?」

「あ、あの、神々はなんと……?」

「この後神社エリアを見に行くと言っていらっしゃるよ」


 こっそりとダンジョン省の女性が深山に聞くとそんな答えが返ってきた。

 そういえば、探索者をはじめとする人達のモチーフ予想に高屋神社は名前が挙げられていなかったな、とダンジョン省の女性は思い出す。

 金刀比羅宮はかなり分かりやすかったし、多分複数モチーフあるとは言われていたが、その複数のモチーフが金刀比羅宮以外は特定できず幾つも予想が上がっているような状態である。

 もしかすると中には高屋神社の名前も挙がっているのかもしれないが、あまりにも予想された場所の数が多すぎて彼女は把握しきれていない。

 神々ももしかしたら高屋神社?とか思っていたのかもしれないが、今、一颯の口からモチーフだとはっきりと言われたので見に行くつもりであるようだ。

 一颯がモチーフだと伝えた瞬間、すっと朧たちが目を眩しそうに細めたので、神々が発光したかなにかなのだろうか。

 神々の横に座っているらしい宮司は思い切り目を瞑っているし。

 1人だけ神々の姿を見ることも感じることも出来ていない女性はリアクションする一颯達の様子で察するしかないのである。



「新エリアのPVも拝見しましたが、映っていた祭が桜舞う中だったのは、もしや?」

「多分、思っている通りかと。わたしの中で祭と言えば春祭りだったんで……次点で秋祭り。夏祭りはなんかしっくりこなくて。あと単純に桜舞う中での祭は綺麗だからと」

「そうですか、そうですか。土方さんにとっての祭りは春祭り!いやあ、嬉しいですな」


 にっこにこな宮司は目を閉じているし、矢馳と深山もついに目を閉じた。

 一颯と朧は根性で目をうっすら開いているが、ほぼ閉じ掛けである。

 どうやら随分と眩しいらしい。


「申し訳ありません、発光止めて貰っても良いでしょうか?その、これ以上は、本格的に目が潰れます」


 ついに宮司が申し訳なさそうに言葉にし、ようやく光が止んだのだろう一颯達がそろりと目を開けた。

 やはりダンジョン省の女性には見ることも感じ取ることも出来ず、1人だけおろおろしてしまった。


「さて、時間も押しております。どしどし聞いてください」

「よ、よろしくお願い、します」


 ぺこりと頭を下げてすっとノート(昨日のやつとは別の新品)を一颯は取り出した。















 高屋神社を予定通りに去り、そのまま次の取材場所である資料館へと向かう。

 ダンジョンに行くと言って真っ先に神々がいなくなったので、今回は金刀比羅宮の様に神々に引き留められることはなかった。

 辿り着いた資料館では責任者と数名の職員、後動画撮影係らしいWeTuberの人がガチガチに緊張しながら出迎えてくれた。

 動画撮影者の事は事前に聞いていたのでWeTuberだということは知っていたし、彼女は地元の紹介を活動内容にしている人らしかった。

 一颯より年下で、年齢を聞くと中高と在学期間が全く被らない程度には年齢が離れていたので一颯も知らなかったのだろう。

 何せ、中高と一颯と同じ学校だったというし、高校に至っては部活まで一緒だったというのだ。

 在学期間が被る程度に年が近かったら流石の一颯だって覚えているはずである。

 ド陰キャで交友関係がひどく狭かったとしても、部活の後輩なら知っているはずなので。


 ちなみにではあるが、資料館、と一颯は言ってはいるが、今回訪れている場所ははっきりと言えば資料館ではなく、コミュニティセンターである。

 ちょうさだけの資料館は一応あるのだが、一颯にはなじみのない地区のものなので、今回はまだなじみのある方に来させてもらったのである。

 そこで展示されている実物を見せてもらい、特別に触ったり乗ったりをさせてもらった矢馳が終始ご満悦状態で、そのテンションの高さに朧が呆れた様な目をしていた。

 一颯は我関せずで案内してくれた職員の人を質問攻めにしていたし、深山はそんな一颯の横で一緒にニコニコと聞いていた。





 予定時刻通りに資料館、コミュニティーセンターを離れ、次の祭りでお世話になる地区への挨拶までは時間があったため、どうしようかという話になり、ならば今回取材させてもらったコミュニティーセンターのある琴弾公園内を散策しようという話になり、インドア派の一颯が顔を引き攣らせたが問答無用で連れていかれた。

 あと、秋祭りを執り行う琴弾八幡宮へ挨拶にも行こうという話も出たのでまずは車ですぐ近くにある琴弾八幡宮本殿のある山頂へと移動する。

 金刀比羅宮の時とは違い、ダンジョン省の女性が車で行けるルートがあると知った瞬間、考える時間もなくハンドルを切ったので一颯はほっとした。

 また石段登るのは嫌だという感情がありありとあふれ出た瞬間であった。

 本殿に到着してお参りしたが、御祭神の方々は出てこなかった。

 事前連絡なしだったのでいかなかったか、祭直前なので忙しいのかは分からなかったけれど。





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